情報公開制度について考える

情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

情報公開・個人情報保護審査会 平成20年度(行情)答申第132号 平成18年裁判結果票(報告用)の…

2008年07月07日 | 行政文書該当性/文書の特定/理由付記
諮問庁 : 法務大臣
諮問日 : 平成20年 1月24日(平成20年(行情)諮問第41号)
答申日 : 平成20年 7月 7日(平成20年度(行情)答申第132号)
事件名 : 平成18年裁判結果票(報告用)のうち,原告が発達障害,知的障害及び自閉症を有していることが記載されている文書の不開示決定に関する件

答 申 書


第1  審査会の結論
 平成18年裁判結果票(報告用)のうち,原告が発達障害,知的障害及び自閉症を有していることが記載されている文書(以下「本件対象文書」という。)につき,開示請求に形式上の不備があるとして不開示とした決定については,取り消すべきである。

第2  審査請求人の主張の要旨
1  本件審査請求の趣旨
 本件審査請求の趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成19年12月27日付け庶第2252号により名古屋法務局長(以下「処分庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求めるというものである。

2  本件審査請求の理由
 審査請求人の主張する審査請求の理由は,審査請求書及び意見書によると,おおむね以下のとおりである。
 処分庁は,開示請求に係わる文書を保有している。
 開示請求文書で開示請求者がどのような文書を求めているのか,明白である。平成18年度の裁判結果票を照合すると,開示請求に係わる文書が存在するか否か判明する。
 開示請求に係わる文書が存在しないとする処分をするのであれば,裁判結果票を確認していただきたい。

第3  諮問庁の説明の要旨
1  不服申立てに係る不開示決定について
(1)  開示請求
 平成19年11月14日付け行政文書開示請求書(以下「本件開示請求書」という。)において,審査請求人である開示請求者(以下「審査請求人」という。)から処分庁に対し,「平成18年裁判結果票(報告用)のうち,原告が発達障害,知的障害,自閉症を有していることが記載されている文書」との開示請求が行われた。

(2)  補正の求め
 処分庁は,審査請求人に対し,平成19年11月30日付け「行政文書開示請求書の補正について(通知)」で,「当局においては,裁判結果票(報告用)と題する文書を保有していません。なお,裁判結果票に類する文書として,結果報告と題する行政文書を保有していますが,当該文書は訴訟における事件記録の一部であるところ,事件記録は各事件単位ごとに編てつの上,保管していることから,本請求内容では,行政文書の特定ができません。結果報告の開示を希望される場合は,事件記録が特定できるような情報(例えば,裁判所名,事件番号,事件名等,できる限り詳細な情報)を記入願います。」と連絡し,同年12月14日までに回答するよう求めた。

(3)  本件不開示決定
 処分庁は,上記補正の求めに対し,審査請求人から回答期限を過ぎても回答がなかったことから,「開示請求書に形式上の不備(開示請求行政文書の未特定)があり,相当の期間を定めて補正を求めたが,当該期間を経過しても補正されなかった」として,原処分を行った。

2  本件不開示決定の妥当性について
(1)  形式上の不備(文書の特定)の有無

ア  開示請求をしようとする者は,「行政文書の名称その他開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項」を記載した書面を行政機関の長に提出しなければならない(法4条1項2号)。「行政文書を特定するに足りる事項」については,行政機関の職員が,当該記載から開示請求者が求める行政文書を他の行政文書と識別できる程度の記載を要する(「詳解 情報公開法」総務省行政管理局編33ページ)とされ,行政文書の範囲が形式的,外形的には一応明確であっても,保有するすべての行政文書が対象となるような請求の仕方は,開示請求権制度上は,特定が不十分であるといえる。

イ  開示請求時における経緯から,審査請求人が検察庁の行政文書である裁判結果票(報告用)を念頭に請求していることが推測されるが,裁判結果票(報告用)と題する文書は処分庁においてそもそも作成しておらず,保有していない。

ウ  もっとも,本件開示請求事項からは,裁判の結果に関する報告文書を開示請求していると解する余地があり,この場合は,処分庁において個別の訴訟事件ごとに作成されている結果報告と題する行政文書が該当する可能性がある。
 結果報告は事件の表示欄,当事者欄,報告の事由欄等で構成され,原告の障害の有無が記載されることはないものの,判決書が添付されることがあり,判決書に原告の障害の有無が記載されているものが存在する可能性がある。
 しかし,結果報告に添付された判決書を開示請求対象と仮定した場合,本件開示請求事項は,実質的に,ある特定の記載事項のみを手がかりとして,処分庁における当該年に終結した数百件に上るすべての事件記録を対象とするものであり,処分庁が保有する行政文書量に照らしても,文書の特定が行われているとはいえない。

エ  審査請求人の主張は,要するに,「平成18年度の裁判結果票をすべて照合せよ」というものであるとみることができるが,処分庁が裁判結果票(報告用)と題する行政文書を保有していないことを教示していることを考慮すれば,審査請求人は,裁判の結果に関する報告文書の添付書類(判決書)の中に特定の記載事項があるか否かを網羅的に調査することを求めていることになる。
 しかし,そもそもすべての事件記録を網羅的に調査をしなければ開示請求文書が特定できないのであれば,文書の特定が行われているとはいえない。

オ  以上のとおり,処分庁が本件開示請求書に形式上の不備があると判断したことは妥当である。

(2)  補正の求め方
 処分庁は,裁判結果票(報告用)と題する行政文書を保有していないこと,請求の趣旨に添うと思われる行政文書として,結果報告と題する行政文書が存在することを教示した上で,結果報告の開示を希望する場合は行政文書の特定ができないとして,特定できるような情報(例えば裁判所名,事件番号,事件名等できる限り詳細な事件の情報)を記入して補正されたい旨連絡しており,定めた補正期間も不当に短いものではない。また,法4条2項が,開示請求のために,新たにすべての対象となる文書を網羅的に調査して一覧表を作ることを義務付ける規定とはいえない(平成15年度(行情)第263号及び第264号答申)ことを考慮すれば,処分庁の対応は,補正の求め方においても妥当である。

4  結語
 以上のとおり,処分庁が,行政文書の特定ができないとして,相当の期間を定めて補正を求めたにもかかわらず,審査請求人が補正に応じなかったため,開示請求に形式上の不備があることを理由に行った原処分は妥当である。

第4  調査審議の経過
 当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

①  平成20年1月24日  諮問の受理
②  同日  諮問庁から理由説明書を収受
③  同年5月15日  審議
④  同年7月3日  審議

第5  審査会の判断の理由
1  本件開示請求等について
 本件開示請求は,請求する行政文書の名称等の欄に,「平成18年裁判結果票(報告用)のうち,原告が発達障害,知的障害,自閉症を有していることが記載されている文書」と記載された行政文書開示請求書により行われたものである。
 これに対し,処分庁は,請求対象文書の特定が不十分であるとして,審査請求人に対して,平成19年11月30日付け「行政文書開示請求書の補正について(通知)」により,本件開示請求に対する行政文書として,本件開示請求書に記載されている裁判結果票(報告用)と題する文書は保有していないとした上で,裁判結果票に類する文書として,結果報告と題する行政文書を保有しているものの,結果報告は訴訟における事件記録の一部として事件単位ごとに編てつし保管しており,本開示請求内容では,行政文書の特定ができないことから,当該結果報告の開示を希望する場合は,事件記録が特定できるような情報(例えば,裁判所名,事件番号,事件名等,できる限り詳細な情報)を教示されたい旨の補正を求めたものの,審査請求人からは,相当の期間が経過しても回答がなかったことから,処分庁は,開示請求に形式上の不備があることを理由として原処分を行ったものである。
 審査請求人は,審査請求書において,本件開示請求書で開示請求人がどのような文書を求めているのかは明白であり,平成18年度の裁判結果票を照会すると,開示請求にかかわる文書が存在するか否か判明するとして,原処分の取消しを求めており,これに対し,諮問庁は原処分を妥当としているので,以下,本件対象文書の特定の可否について検討する。

2  本件対象文書の特定について
(1)  法4条1項2号によれば,開示請求書には,「行政文書の名称その他の開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項」を記載すべきこととされているところ,これについては,行政機関の職員が,開示請求書の記載から開示請求者が求める行政文書を他の行政文書と識別できる程度の記載があれば足りると解される。
 上記のとおり,本件開示請求書には,請求する行政文書の名称として,「平成18年裁判結果票(報告用)のうち,原告が発達障害,知的障害,自閉症を有していることが記載されている文書」と記載されており,処分庁は,裁判結果票(報告用)を保有していないとしているので,まず,これについて検討する。
 裁判結果票(報告用)は,公判立会検察官が,事件の受理,捜査,処理及び公判執行等に関する事務の取扱手続を規定した,事件事務規定(法務省訓令)(最終改正,平成19年12月20日法務省刑総訓第1731号)125条に基づき,終局裁判の宣告があったときに,直ちに裁判要旨その他所定の事項を記入し,検察庁において保有するものであって,処分庁が作成し保有するものではないことから,処分庁が裁判結果票を保有していないとする諮問庁の説明は,是認することができる。

(2)  次に,本件開示請求に対し,処分庁は,審査請求人に対して,裁判結果票に類似の行政文書として,結果報告を保有している旨の情報提供を行っていることから,結果報告が本件対象文書に該当するかどうかについて検討する。
 当審査会において,諮問庁から提示を受けた結果報告を見分したところ,結果報告は,法務局及び地方法務局訟務処理細則(平成6年12月5日法務省訟総第820号法務局長・地方法務局庁あて法務省訟務局長通達)27条に基づき,事件が終了したときに訟務総括審議官,監督法務局長に対し裁判書の正本の写し等を添付して報告するものであり,その内容は,裁判所名,事件番号,事件名,当事者,報告の事由,終了・確定の事由,裁判文書の送達日,添付書類及び備考から構成されていることからすると,終了した裁判に係る結果を記載した行政文書であると認められる。
 本件開示請求は,名古屋法務局の保有に係る行政文書についてされたものであるところ,上記のように裁判結果票(報告用)は,検察庁において作成されるものであって,法務局においては作成・保存されないものである。しかし,審査請求人がこのような事実を知りながら,本件開示請求において本件対象文書をあえて裁判結果票(報告用)に限定したような事情は認められない。そこで,以上のような事実によれば,本件開示請求書における「裁判結果票(報告用)」との記載は,例示であって,名古屋法務局が保有する,終了した裁判に係る結果を記載した報告文書を意味するものと解するのが相当である。
 すると,結果報告は,上記のように,法務局及び地方法務局が作成する,終了した裁判に係る結果を記載した報告文書であるから,名古屋法務局が保有する,平成18年度に終了した裁判に係る結果報告のうち,原告が発達障害,知的障害及び自閉症を有していることが記載されている文書は,本件対象文書に当たるものと解される。

(3)  なお,諮問庁は,結果報告を本件対象文書として特定した場合,結果報告の添付書類(判決書)の中に特定の記載事項があるか否かを網羅的に調査することは行政文書量から困難であるため,文書の特定が行われているとはいえない旨説明する。
 しかし,上記1の本件開示請求書の記載内容や審査請求人が「平成18年度の裁判結果票を照合すると,開示請求に係わる文書が存在するか否か判明する。開示請求に係わる文書が存在しないとする処分をするのであれば,裁判結果票を確認していただきたい。」旨主張していることからすると,本件対象文書は,結果報告自体であって,添付書類までは含まれないと解される。したがって,本件対象文書の特定に当たっては,結果報告についてだけ,原告が発達障害,知的障害及び自閉症を有していることが記載されているかどうかを確認すればよく,添付書類についてまで調査する必要はないから,添付書類の種類や量等にかかわりなく,本件対象文書は特定されているものと認められる。

(4)  以上のことからすると,本件開示請求書の記載から,処分庁が,裁判結果票を保有していないとしても,本件開示請求に係る行政文書は,裁判結果票に類する行政文書として結果報告と題する文書を特定することが可能であり,本件開示請求に係る行政文書を特定することができないとは言えないから,本件開示請求書に形式上の不備があったとは認められない。
 したがって,処分庁が設定した補正の期限が法4条2項の「相当の期間」に該当するか否かを検討するまでもなく,原処分は妥当であったとは言えない。

3  本件不開示決定の妥当性について
 以上のことから,本件開示請求につき,形式上の不備があることを理由に不開示とした決定については,本件開示請求書に記載された文言により対象となる行政文書を特定できないとは言えず,結果報告を特定した上で,改めて開示決定等をすべきであることから,取り消すべきものと判断した。

(第1部会)
 委員 大喜多啓光,委員 村上裕章,委員 吉岡睦子


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。