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川崎市情報公開・個人情報保護審査会 諮問第228号 川崎市議会「議会のあり方プロジェクト」…

2010年01月20日 | 審議・検討等に関する情報
【諮問第228号】
21川情個第83号

平成22年1月20日

川崎市議会議長 潮田智信 様

川崎市情報公開・個人情報保護審査会
会長 安冨 潔

公文書開示請求に対する部分開示処分に関する異議申立てについて(答申)


平成20年12月3日付け20川議議第602号で諮問のありました、公文書開示請求に対する部分開示処分に関する異議申立ての件について、次のとおり答申します。

1 審査会の結論
実施機関川崎市議会が部分開示処分を行った文書のうち、不開示となっていた以下の部分を開示すべきである。
(1)平成20年7月15日付の会議日誌中の不開示部分
(2)「市議会関係の法体系図」「議会基本条例制定に向けた検討課題(例)」
   「題名のないA4横の表(三重県及び14市町との項目別比較表)」
(3)「議会基本条例制定済み他都市検討経過等一覧」
(4)「自治法第96条第2項の規定による議会の議決事件の状況」
(5)「神奈川県、横浜市及び川崎市の基本構想等の構造について」
(6)「実行計画と連携する政策領域別計画一覧」

2 異議申立ての趣旨及び経緯
異議申立人は、平成20年10月13日付けで、川崎市情報公開条例(平成13年川崎市条例第1号。以下「条例」という。)第7条の規定に基づき、実施機関川崎市議会(以下「実施機関」という。)に対し、「川崎市議会『議会のあり方プロジェクト』第1回会議~第5回会議それぞれの『会議録』及び『配布資料』一式」として、公文書の写しの交付を求める開示請求(以下「本件請求」という。)を行った。
実施機関は、本件請求に係る対象公文書について、議会のあり方検討プロジェクト(以下「本件プロジェクト」という。)第1回から第5回会議それぞれの会議日誌及び各会議の配布資料と特定した。そして、市民から提出された要望書に記載された個人情報を条例第8条第1号に該当するものとして、また、今後の検討、協議に支障が生じると考えられる部分及び市民の間に混乱を生じさせるおそれがある部分を条例第8条第3号に該当するものとして不開示とする部分開示処分を平成20年10月28日付けで行った。
なお、実施機関は本件プロジェクトでの審議が終了した段階では本件請求に係る文書を公開することができるとする時限性開示を行っている。
異議申立人は、平成20年11月25日付けで、「公開を求めた会議日誌に係る会議は、議会のあり方を議論し議会基本条例を策定するためのものである。本来、議会は公に議論する場であって、その内容は公開を原則とする。」として、条例第8条第3号に該当するため不開示とされた部分の開示を求めて異議申立てを行った。
(当審査会諮問第228号事件)

3 異議申立人の主張要旨
平成21年2月9日付け意見書及び同年5月18日実施の口頭意見陳述聴取によれば、異議申立人の主張の概要は、次のとおりである。

(1) 本来、議会は公開を原則としており、議員の数だけ多様な意見を含むことを基盤とし、その多様な意見を討論により集約し最終的に議決する合議制の制度である。従って、議論の過程を公開し、その内容を有権者たる住民に明示することが議会としての必須の要件である。特に本件プロジェクトは議会の憲法となる「議会基本条例」策定に係るものであり、討論の過程を公開し、住民の意見を十分に聞いて、様々な意見をその都度集約し吸収していくことが必要である。

(2) 本件プロジェクトは各会派から選出されたメンバーにより構成された任意の活動であると実施機関は説明している。本当の意味で「任意」であるならば、議会としての公的な活動とは言えず、本件プロジェクトの活動そのものも役所内で行うべきではなく、公文書も存在しなくなるはずである。任意というあいまいな表現で、議会が本来もつべき公開で討論するという責務を覆い隠そうとするかに推測できる。

(3) 実施機関から開示された平成20年6月5日付けの会議日誌には、本件プロジェクトの位置づけとして団長会議の諮問機関であるとの記載がある。このことから各会派から選出された議員が参加しており、少数会派の議員もオブザーバー参加している。さらに、中間報告等は団長会議で協議の上、正副議長にお願いするとの記載もある。任意のプロジェクトであれば正副議長にお願いする理由はどこにもない。これらのことから、実質的に議会としての活動をしていることは明白である。

(4) 常任委員会での審議は傍聴が可能となっており、公開されることによって率直な意見交換が阻害されることなどまず考えられない。プロジェクトにおいても同様で、公開することによりプロジェクトメンバーの率直な意見交換を阻害し、円滑な検討・協議に支障を及ぼすとは考えられない。また、具体的にどのような理由で公開することが問題になるのか実施機関の説明もない。

(5) 最終的な結論に至るまでには、各委員の多様な意見等によりその内容が紆余曲折することが想定される。これはプロジェクトだけにありえることではなく、公開の場で行われている議案の委員会審議においても同様である。実施機関は未成熟な情報を市民に公開すると不正確な理解や誤解を生じさせると説明しているが、未成熟な情報とはどんな情報でそれがどうして不正確な理解や誤解に結びつくのか、論理的な繋がりがまったくない。

(6) 以上の理由により条例第8条第3号を理由に不開示とされた部分を開示すべきである。なお、時限性開示により本件プロジェクトの審議終了後に開示されたとしても今回の問題は解決されたわけではなく、不開示の措置が正しいことなのかどうかを判断願いたい。

4 実施機関の主張要旨
平成21年1月7日付け処分理由説明書及び同年7月3日実施の口頭による処分理由説明聴取によれば、実施機関の主張の概要は次のとおりである。

(1) 協議・検討段階においては、本件プロジェクトの各メンバーそれぞれに多様な意見が存在する中で、その意見を率直に本件プロジェクトにおいて発言できる環境を保障することは、協議・検討の成果を最大限のものとする。仮に協議・検討内容を公開することとした場合、率直な意見交換を阻害するおそれが大いにあり、実効ある検討が困難なものとなる。

(2) 最終的な結論に至るまでには、各委員の多様な意見等によりその内容が紆余曲折することが想定され、検討段階と決定段階では内容がおおいに異なることも考えられる。協議・検討中の未成熟な情報を市民に公開すると、市民に不正確な理解や誤解を生じさせることは明らかであり、このことによって本件プロジェクトの協議・検討に対して多大なる支障を及ぼすことになる。

(3) 以上の理由で本件対象公文書のうち、市の機関の内部における審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ及び不当に市民の間に混乱を生じさせるおそれがある情報については条例第8条第3号に該当するものとして不開示処分を行った。

5 審査会の判断
(1) 対象文書の「公文書」性
本件では直接の争点になっていないが、本件対象文書の公文書該当性が当然の前提となることから、この点について判断を加えておく。まず実施機関が本件にかかる議会基本条例の調査審議のために特別委員会方式をとらず、任意設置のプロジェクト方式をとったことは議会の裁量の範囲内で許されることに疑いはなく、この点は地方自治法その他の関係法令に違反するものではない。
他方、本件プロジェクトは、会派団長会議の諮問機関として位置づけられ、議会内の私的な研究会とも位置づけられる形式をとっているが、議会事務局の関与もあり、会議日誌を作成するなど、議会における委員会と類似の事務処理がなされていることからすれば、議会内の私的な研究会と位置づけることは困難である。
したがって本件プロジェクトで用いられた文書は、条例上の実施機関である議会の保有する「公文書」と位置づけられるべきである。実施機関たる議会においてもこの点の主張は特段なされていない。

(2) 本件不開示情報についての考え方
(ア) 本件対象公文書は、前述のとおり、条例上の公文書であり、しかも条例上、実施機関のなかに議会も入っているのであるから(条例第2条)、公文書の開示、不開示の適否の審査に当たっても、条例上の不開示事由に該当するかどうかの基準に即して判断することが妥当である。
そうすると、本件の争点は、条例第8条第3号の「審議、検討又は協議に関する情報」のうち、「公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に市民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当な利益を与え、若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの」の解釈及びその適用いかんにあることになる。

(イ) ところで、議会の情報が、すべて執行機関の情報と同一の基準によって開示の適否を判断すべきかどうかについては、当該案件の性格、当該案件についての議会のスタンス(案件処理方法)等も総合考慮すべきであって、必ずしも執行機関と同一の視点からのみ判断すべきではない。とくに議会が内部的意思を固める過程情報については、当初から会議や資料等を市民に公開して行う方法もあれば、公聴会を開いて市民の意見を聴く方法、及び一定程度、案が煮詰まってから公開する方法など、議会の自律権に基づく議会独自の判断の余地があることを認めざるを得ない。東京都では行政機関にかかる情報公開条例のほかに都議会情報公開条例を制定し、会派の活動に著しい支障を生じると認められるものを不開示事項としているし(東京都議会情報公開条例第7条第3号)、また埼玉県議会情報公開条例でも会派活動に関する情報は不開示としている(埼玉県議会情報公開条例第7条第5号)。さらに広島県議会情報公開条例は議会の会派又は議員の活動に関する情報であって、公にすることによりこれらの活動に著しい支障を及ぼすおそれがあるものを不開示事項としている(広島県議会情報公開条例第10条第8号)。こうした条例の存在は、当該条例によって本件のような案件がどのように処理されるか否かはともかく、地方自治法上、会派が正式な活動団体であること(地方自治法第100条第14項)と相俟って、会派活動など議会の内部活動を自律的な政治活動として容認することを前提に、それらの活動に関する情報の開示のありかたや開示時期にも一定の裁量若しくは独自の判断の余地が認められることを示している。

(ウ) いわゆる情報公開条例上の「審議検討情報」(条例第8条第3号)については、公にすることによって、率直な意見の交換や意思決定の中立性が「不当」に損なわれるか否か、及び「不当に」市民間に混乱を生じさせるおそれがあるか否かについて、抽象的なおそれがあるだけでは不十分であるとして、「不当」性該当につき厳格な基準の適用並びに解釈がなされるのが一般的である。
このような解釈運用は、執行機関の活動が一般に議会とは異なった行政裁量若しくは覊束行為として行使されることや議会の場合と同じ性質の政治的裁量を含むことが少なく、法令や条例の執行を根拠に行われ、その意味で非政治的な定型化された意思決定が行われることを前提にしている。つまり以上のような厳格な基準による開示、不開示の案件処理方法は、行政過程の透明性を図ることによって、意思決定の歪みを正し、又は監視することにその主眼があると考えられる。これに対し、議会内部の活動は政治的な判断で行われることが主たるものであって、法令に反しないかぎり、政治的裁量若しくは独自の判断の余地に委ねられていると解すべきであり、したがって、それらの活動に関する情報の開示不開示の判断も政治的性格を帯び、執行機関と同一基準で判断することは必ずしも妥当であるとは言い難い。

(エ) 議会が条例上の実施機関とされていることと、以上のような議会の内部活動の特性に鑑みると、議会内部における情報を執行機関の審議検討情報と同様の厳格な基準に基づいて判断する方法は妥当ではなく、本件のような案件処理においては、審議検討情報のうち、客観的に未成熟な情報として判断されるべきものを不開示とし、その余のものは開示されると考えるのが妥当というべきである。
すでに述べたように、本件では、実施機関である議会が、特別委員会方式をとって委員会の審議を全面的に公開する方法をあえて取らず、会派の代表者をもって本件プロジェクトを構成し、団長会議の諮問機関として活動するという政治的判断をしたのであり、その手法も前述のとおり政治的裁量若しくは独自の判断余地のあることであるから、未成熟な情報は事後的に公開するとした実施機関の判断は一応尊重されるべきである。
しかし、他方で、議会が条例の実施機関であること、議会活動に関する情報も可能な限り開示の原則すなわち透明性の要請が満たされることも必要である。
以上のことを総合して判断すると、本件プロジェクトにとって客観的に未成熟な情報は不開示とし、その余は開示することが妥当であるとすべきである。

以上の次第で、審査会の結論に記載のとおり答申する。

川崎市情報公開・個人情報保護審査会(五十音順)
委 員 鈴 木 庸 夫
委 員  岡 香
委 員 安 冨 潔
委 員 葭 葉 裕 子


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