答申第70号
平成20年10月30日
兵庫県教育委員会 様
情報公開審査会
会長 錦織成史
公文書の部分公開決定及び非公開決定に係る異議申立てに対する決定について(答申)
平成19年4月16日付け諮問第1号で諮問のあった下記の公文書に係る標記の件について、別紙のとおり答申します。
記
学校体罰に係る事故報告書、懲戒処分等報告書、懲戒処分等一覧表
答申
第1 審査会の結論
1 本件対象文書のうち、
(1)公立小・中学校及び県立学校(県立高校及び県立養護学校)における体罰に係る事故報告書(以下「第2文書」という。)のうち顛末書を除く部分(平成16年度及び17年度に県教委に提出されたもの。)
(2)教職員の処分に関する報告書(平成16年度及び17年度に県教委に提出されたもの。以下「第3文書」という。)
の部分公開決定については、第4の4の(2)のイの⑦から⑭までの部分を非公開としたことは妥当であるが、その余の部分については公開すべきである。
2 第2文書のうち顛末書部分(平成16年度及び17年度に県教委に提出されたもの。以下「顛末書」という。)に係る非公開決定は妥当である。
第2 異議申立人の主張要旨
1 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、「教職員に係る係争中の争訟事件等の調査について」のうち、懲戒処分等一覧③(体罰に係るもの。平成16年度及び17年度に文部科学省に提出されたもの。以下「第1文書」という。)及び第1の1記載の公文書の公開請求に対して、兵庫県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成19年1月23日付けで行った部分公開決定及び第1の2記載の公文書の公開請求に対して、実施機関が同日付けで行った公文書非公開決定(以下「本件決定」という。)の取消し及び変更を求めるものである。
2 異議申立ての理由
異議申立書及び意見書において述べられた異議申立ての理由は、次のとおり要約される。
(1)本件決定は、大阪高等裁判所平成18年12月22日判決(平成18年(行コ)第26号公文書非公開決定取消請求控訴事件、同第68号同附帯控訴事件。以下「18年判決」という。)に違背するものである。
18年判決は、本件公開請求に係る公文書と同内容の公文書(平成13年度に文部科学省及び県教委に提出されたもの。)につき、公立学校での教員の体罰は公務員の職務遂行行為であるから非公開事由に当たらず、第2文書中、加害教員の氏名、所属学校名及び学校長名は公開するべきであるとの原審判断を支持した。このことは、学校における体罰問題の重大性と、公開の意義・必要性を正面から認めたものであると評価できる
18年判決は、また、第1文書は全部公開するべきであり、顛末書の年月日、所属学校、作成者氏名及びあて先を記載した部分は非公開事由に当たらないとした。
よって、18年判決に沿うように、本件決定を取消し、非公開範囲を変更するよう求めるものである。
(2)実施機関は、加害教員の氏名、所属学校名及び学校長名を非公開及び顛末書を全部非公開とした大阪高等裁判所平成16年11月18日判決(平成15年(行コ)第16号公文書非公開決定取消請求控訴事件、同第27号同附帯控訴事件。以下「16年判決」という。)を指摘するけれども、18年判決は、情報公開条例(平成12 年兵庫県条例第6号。以下「条例」という。)の解釈として説得力があり、情報公開の精神に適い、不必要に情報公開の範囲を広げてしまう問題ももたず、他方で児童生徒のプライバシーにも配慮した優れたものであるといえる。
そして、18年判決は、16年判決を理解した上であえて異なる判断を出しており、具体的には、教員の職務遂行情報が懲戒処分を受ける蓋然性があることを理由に、非公開事由該当性を認めることは、公務員にとって不都合な情報を広く非公開とすることであって、情報公開制度の趣旨に沿うものでないことを明言している。
(3)また、県教委は、加害教員の氏名、所属学校名及び学校長名を公開すると、被害児童生徒が必然的に特定されると主張するが、この点については、18年判決のみならず、16年判決ですら認めていない。
さらに、県教委は「学校名や被害生徒の所属する部活動名等」が新聞報道された事例につき特に、「新聞記事に記載された情報と組み合わせることにより特定の個人を識別できる情報として、部活動名や体罰の情報を非公開としたもの」と述べる。
しかしながら、新聞で既に報じられた情報をあえて非公開とすることでは、モザイク理論からしても特定個人の識別範囲を変えることはできないし、ましてや「体罰の状況」は特定個人の識別とは関係のない情報である。
(4)以上から、県教委が主張する非公開理由は、非公開の根拠とはなりえない不当なものであり、本件決定を取消し、変更すべきとの答申を求める。
特に、加害教員の氏名、所属学校名及び学校長名の非公開を取消すべきとの答申を求める。
その他、児童生徒の識別にいたらない情報について、非公開を取消すべきとの答申を求める。
第3 諮問庁の説明要旨
意見書及び意見陳述において述べられた非公開理由は、次のとおり要約される。
1 本件対象公文書について
(1)第1文書は、実施機関が行った懲戒処分等のうち、体罰に係るものについて、その処分日等の状況を記載したものである。
(2)第2文書は、県内の公立学校の学校長及び市町教育委員会が、教職員が児童生徒に対して体罰を行ったことについて調査し、これを実施機関に報告した公文書である。なお、実施機関は、この報告書に基づき体罰の発生を了知し、事実確認を行った上で、当該体罰を行った教職員を含む関係者に懲戒処分等の適切な処置を行っている。
(3)第3文書は、体罰を行った教職員を含む関係者に対して行った懲戒処分等について、県立学校長又は市町教育委員会が実施機関に対して報告したものである。
2 条例第6条第1号の該当性について
(1)条例第6条第1号は、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人を識別することができるもののうち、通常他人に知られたくないと認められるもの又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」が記録されている場合を除き、当該公文書を公開しなければならない旨を規定している。
また、条例第2条第3項は、条例の解釈運用に当たっては、「実施機関は、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」と規定している。
したがって、条例第6条第1号の規定は、原則公開を趣旨とする条例においても、個人のプライバシー保護の観点から、このような情報については、これを非公開とするべき旨を定めたものと解される。
(2)「特定の個人を識別することができるもの」とは、氏名、住所等により特定の個人を直接識別することができる場合だけでなく、その情報だけでは特定の個人を識別することはできないが、他の情報と比較的容易に関連付けることができ、そのことにより、間接的に特定の個人を識別することができる場合も含むものである。
また、「通常他人に知られたくないと認められるもの」とは、特定の個人の主観的判断のいかんを問わず、社会的通念に照らして判断すると、他人に知られたくないと思うことが通常であると認められる情報をいう。
(3)第2文書には、学校名、学校長名、加害教諭の氏名・校務分掌・処分内容、被害を受けた児童生徒の氏名、クラス名、保護者の氏名・住所、関係者の氏名、発言内容等(以下「学校名等」という。)が記録されている。
ア 学校名等のうち、被害を受けた児童生徒の氏名、保護者の氏名・住所、関係者の氏名については、特定の個人を識別することができるものに該当する。
イ 学校名、学校長名、加害教員の校務分掌及びクラス名については、それぞれ単独では特定の個人を識別できないが、相互に組み合わせたり、学校要覧等他の情報と関連付けることにより、被害児童生徒が特定できることから、「特定の個人を識別することができるもの」に該当する。
なお、部分公開決定に係る公文書のうち、学校名や被害生徒の所属する部活動等を明らかにした新聞報道があるため、新聞記事に記載された情報と組み合わせることにより、特定の個人を識別できる情報として、部活動名や体罰の状況を非公開としたものである。
ウ 加害教員、被害児童生徒及び保護者等関係者の発言内容や、被害児童生徒がどのような状況でどのような加害行為が行われ、その結果、どのような被害を被ったかという情報は、児童生徒等の内心、心身等の状況に関することであり、「通常他人に知られたくないと認められるもの」に当たる。
エ また、どこの学校のどの加害教員が体罰を行ったかという情報は、公務員の職務遂行に係る情報であるため、本来ならば公開すべきものであるが、加害教員の氏名が公開されれば、他の情報と組み合わせることにより、被害児童生徒を識別することができる。
また、加害教員が懲戒処分等を受けたという情報は、当該教員の経歴、社会生活等に関するもので、公務員の立場を離れた個人としての評価を低下させる性質を有する情報であり、通常他人に知られたくないものと認められる。
よって、当該教員が懲戒処分等を受ける蓋然性のある立場におかれることとなる、当該教員が体罰を行ったという情報については、通常他人に知られたくないものであるため、非公開情報に該当する。
3 よって、本件決定は、条例の非公開事由の要件に該当するものであり、何ら違法・不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第4 審査会の判断
1 16年判決は最高裁判所平成19年11月22日決定(平成17年(行ツ)第61号、第62号、平成17年(行ヒ)第71号、第72号)において、上告・附帯上告棄却及び上告審として受理しない旨の決定がなされ、18年判決は最高裁判所平成19年11月22日決定(平成19年(行ツ)第95号、平成19年(行ヒ)第92号)において、上告棄却及び上告審として受理しない旨の決定がなされたことにより、対象となる年度は異なるが同一内容の公文書の公開等につき結論が異なる判決がそれぞれ確定している。
2 第1文書について
実施機関は、平成20年4月22日付けで本件決定を変更し、第1文書の全部公開の決定をしていることから、第1文書については判断しない(条例第17条第2号参照)。
3 異議申立人は、18年判決に沿うように、本件決定を取消し、非公開範囲を変更するよう求めているところ、18年判決は、特定の被害生徒を識別することができる情報(蓋然性の高い情報を含む。)及び加害教員その他の教職員が懲戒処分等を受けた情報は条例第6条第1号前段の非公開事由に該当すると解することが相当であるとしている。
以上から、異議申立人としては、実施機関が非公開としたもののうち、加害教員その他の教職員の職務の遂行に関する情報及び他の情報と照合することにより加害教員の氏名が明らかになる情報の公開を求めているものと解される。
4 条例第6条第1号の該当性
実施機関は、第2文書及び第3文書が条例第6条第1号に該当するとして部分公開および非公開としていることから、以下検討する。
(1)条例第6条第1号の趣旨等
ア 本号は、個人のプライバシーは、個人の尊厳に直接かかわる権利であること、いったん侵害されると事後的に回復が不可能であること等から、個人のプライバシーに関する情報が記録されている公文書については非公開とする趣旨である。
イ 「個人に関する情報」とは、個人の氏名、住所、思想、信条、健康状態、学歴、所属等個人の属性を示すすべての情報をいう。
ウ 「特定の個人を識別することができるもの」とは、氏名、住所等により特定の個人を直接識別することができる場合だけでなく、その情報だけでは特定の個人を識別することはできないが、他の情報と比較的容易に関連付けることができ、そのことにより、間接的に特定の個人を識別することができる場合も含む趣旨である。
エ 「通常他人に知られたくないと認められるもの」とは、特定の個人の主観的判断のいかんを問わず、社会通念に照らして判断すると、他人に知られたくないと思うことが通常であると認められる情報をいう。
ただし、公務員の職務の遂行に係る情報については、「通常他人に知られたくないと認められるもの」に当たらず、これらの情報が記録されている公文書については公開しなければならないものである。
オ 「特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」とは、カルテ、反省文等個人の人格と密接にかかわる情報や未公表の著作物等個人の識別性のある部分を除いて公開しても、なお個人の正当な権利利益を害するおそれがある情報をいう。
(2)第2文書のうち顛末書を除く部分について
ア 当該部分には、実施機関が体罰を行った教職員に対し懲戒処分等を行うに当たって、県立学校又は県教育事務所から受領した公文書(報告書)であり、概ね次の①から⑥までの情報が記載されている。
① 被害児童生徒の氏名、性別、生年月日、年齢、学年、クラス、身長、体重、家庭環境、保護者氏名及び住所並びに負傷の程度
② 他の児童生徒の氏名
③ 加害教員の氏名、性別、生年月日、年齢、校務分掌等(担任学年、クラス、担当教科等)、クラブ顧問、身長及び体重
④ 学校名並びに学校長の氏名及び印影
⑤ 体罰の原因と状況、学校においてとった措置等
⑥ 体罰発生の日時及び場所
イ実施機関は、次の情報を条例第6条第1号前段(以下「前段」という。)に該当するものとして非公開としている。
⑦ 被害児童生徒の氏名
⑧ 被害児童生徒のクラス名、家庭環境及び心身等の状況
⑨ 保護者の氏名及び住所
⑩ 他の児童生徒の氏名
⑪ 他の教員の病気休暇等の事情
⑫ 体罰事件を県教委に情報提供した者の氏名及びメールアドレス
⑬ 加害教員の住所及び病気休暇
⑭ 加害教員の氏名
⑮ 学校名並びに学校長の氏名及び印影
⑯ 加害教員の校務分掌及びクラス名
⑰ ⑦から⑯までの項目以外の項目のうち、他の情報と照合することによって、⑦又は⑭が明らかになると解される情報
⑱ 部活動名や体罰の状況等(新聞報道がされたものに限る。)
ウ そこで、上記イの⑦から⑱までの情報が前段に該当するかどうかを検討する。
(ア)このうち、⑦から⑬までの情報は、特定の個人を識別することができる情報であって、社会通念に照らして判断すると、通常他人に知られたくないと認められることから、前段の非公開事由にあたる。
(イ)次に、⑭の体罰を行った加害教員の氏名の非公開が妥当かどうかについて検討する。
加害教員が懲戒処分等を受けたことは、後述((4)のイ)するように私事に関する情報の面をも含むことから、前段の非公開事由にあたる。
形式的には、体罰を行った行為(職務遂行行為)と懲戒処分等を受けたという事実は区別しうるが、少なくとも懲戒処分等を受けたという事実についてはプライバシーとして保護されるべきである。
そして、第2文書は、実施機関が体罰を行った教職員に対し懲戒処分等の手続のために作成され、県立学校又は県教育事務所から受領した公文書(報告書)であり、しかも、実施機関が条例第22 条に基づき当審査会に提出した資料によれば、第2文書に記載された加害教員の全員が懲戒処分等(停職、減給、戒告、訓告又は厳重注意)を受けていることが認められる。
そうすると、ここで氏名が特定されることは、何らかの処分が行われたということを確実に知らしめ、プライバシー保護の利益を害するものである。
以上のことからすると、体罰を行った行為と懲戒処分等とは実質的には区別できないものと解され、加害教員名を公開することにより、当該教員が懲戒処分等を受けたことが明らかとなり、公務遂行等に関して非違行為があったということを示すにとどまらず、公務員の立場を離れた個人としての評価をも低下させる性質を有する情報というべきであるからプライバシーとして保護されるべき利益が害されることになる。
よって、⑭の加害教員の氏名は、前段の非公開事由に当たる。
(ウ)⑮及び⑯の情報は、実施機関によれば、それ自体では加害教員又は体罰を受けた児童生徒を識別できないが、兵庫県教育関係職員録又は学校要覧という、他の情報と照合することにより特定の個人が識別されうる情報であることから、前段に該当し非公開としたものである。
まず、「他の情報」の意義については、最高裁判所平成6年1月27日判決(平成3年(行ツ)第18 号)において、「一般人が通常入手しうる関連情報」との考え方が示されており、具体的には、広く刊行されている新聞・雑誌・書籍や、図書館等の公共施設で一般に入手可能な情報等をいい、特別の調査をすれば入手しうるかもしれない情報については「他の情報」に含まれないものと解する。
また、図書館等の公共施設で入手可能な書籍等からの情報であっても、国立図書館、最高裁判所図書館、あるいはある特定地域のごく限られた図書館には開架されているが、一般人には、そのような特定の図書館に当該書籍等が開架されているとは容易に思いつかないような書籍等からの情報については、「一般に」入手可能な情報とはいえないものと解するのが相当である。
上記の考え方に照らし、学校要覧及び兵庫県教育関係職員録が照合可能な「他の情報」に該当するかどうかを検討する。
兵庫県教育関係職員録には、教職員の氏名、性別・担当学年・教科、学校名、学校の所在地、クラス数、生徒数等が掲載されており、兵庫県教職員組合が発行している。
兵庫県下の教育関係者に頒布されているが、広く刊行されているとはいえず、兵庫県立図書館のほか3市立図書館(神戸・西宮・明石)に開架されているだけであり、学校名等が分かっても教員の氏名が判明していない以上、一般人がこの職員録の存在及びそれが県立図書館等に配架されていることに容易に思い至るとは考えにくく、一般に入手可能な情報とはいえない。
よって、兵庫県教育関係職員録は「他の情報」に該当しない。
次に、学校要覧には、教職員の氏名、担当学年・クラス・教科・校務分掌等が掲載されており、所属教育委員会その他学校関係者(教職員、PTA役員等)には配布されているが、一般に配布されているものでなく、県立学校の学校要覧が兵庫県立図書館に開架されているだけである。
よって、一般人において、学校要覧の存在に思いが至りかつこれを入手することが容易であるとは考えられないと解され、「他の情報」には該当しない。
したがって、学校要覧及び兵庫県教育関係職員録が照合可能な「他の情報」に該当しない以上、⑮及び⑯の情報は、他の情報と照合することにより加害教員又は体罰を受けた児童生徒を識別しうる情報とはいえず、前段の非公開事由には当たらない。
(エ)⑰の情報については、実施機関によれば、それ自体では加害教員又は体罰を受けた児童生徒を識別できないが、他の情報と照合することにより学校名が識別でき、さらに、学校名と他の情報とを照合することにより、特定の個人が識別されうる情報であることから、前段に該当し非公開としたものである。
しかし、学校名を識別できたとしても、(ウ)で述べたように他の情報と照合することにより特定の個人が識別されうる情報とはいえないことから、⑰の情報は前段の非公開事由には当たらない。
(オ)⑱の情報については、実施機関によれば、学校名や被害児童生徒の所属する部活動名や体罰の状況等を明らかにした新聞報道がなされた体罰事故報告書につき、新聞報道された情報と組み合わせることにより特定の個人を識別できる情報であることから、前段に該当し非公開としたものである。
しかし、部活動名や体罰の状況と新聞報道された情報とを照合したとしても、特定の個人を識別できるとはいえないから、部活動名や体罰の状況等を記載した部分は前段の非公開事由には当たらない。
(3)第2文書のうち顛末書部分について
ア 当該部分には、加害教員が自らの視点で体罰事故に係る事実関係を述べたものが綴られているとともに、加害教員が自らの反省状況等の心情を述べたものも含まれている。
イ これらの情報は、加害教員個人の人格と密接に関係する情報であり、同号後段の非公開事由に該当する。
(4)第3文書について
ア 第3文書は、体罰を行った教職員を含む関係者に対して行った懲戒処分等について、県立学校又は市町教育委員会が実施機関に対して報告した文書である。
イ 加害教員その他の教職員が懲戒処分等を受けたことは、公務遂行等に関して非違行為があったということを示すにとどまらず、公務員の立場を離れた個人としての評価をも低下させる性質を有する情報というべきであるから、私事に関する情報の面を含むものということができ、このような情報は前段の非公開事由に該当すると解することが相当である。
ウ なお、異議申立人が依拠する18年判決も、第3文書に相当する「懲戒処分通知報告書」をイと同様の理由で非公開としているところである。
5 以上のことから、「第1 審査会の結論」のとおり判断するものである。
審査の経過
(参考)
平成20年10月30日
兵庫県教育委員会 様
情報公開審査会
会長 錦織成史
公文書の部分公開決定及び非公開決定に係る異議申立てに対する決定について(答申)
平成19年4月16日付け諮問第1号で諮問のあった下記の公文書に係る標記の件について、別紙のとおり答申します。
学校体罰に係る事故報告書、懲戒処分等報告書、懲戒処分等一覧表
第1 審査会の結論
1 本件対象文書のうち、
(1)公立小・中学校及び県立学校(県立高校及び県立養護学校)における体罰に係る事故報告書(以下「第2文書」という。)のうち顛末書を除く部分(平成16年度及び17年度に県教委に提出されたもの。)
(2)教職員の処分に関する報告書(平成16年度及び17年度に県教委に提出されたもの。以下「第3文書」という。)
の部分公開決定については、第4の4の(2)のイの⑦から⑭までの部分を非公開としたことは妥当であるが、その余の部分については公開すべきである。
2 第2文書のうち顛末書部分(平成16年度及び17年度に県教委に提出されたもの。以下「顛末書」という。)に係る非公開決定は妥当である。
第2 異議申立人の主張要旨
1 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、「教職員に係る係争中の争訟事件等の調査について」のうち、懲戒処分等一覧③(体罰に係るもの。平成16年度及び17年度に文部科学省に提出されたもの。以下「第1文書」という。)及び第1の1記載の公文書の公開請求に対して、兵庫県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成19年1月23日付けで行った部分公開決定及び第1の2記載の公文書の公開請求に対して、実施機関が同日付けで行った公文書非公開決定(以下「本件決定」という。)の取消し及び変更を求めるものである。
2 異議申立ての理由
異議申立書及び意見書において述べられた異議申立ての理由は、次のとおり要約される。
(1)本件決定は、大阪高等裁判所平成18年12月22日判決(平成18年(行コ)第26号公文書非公開決定取消請求控訴事件、同第68号同附帯控訴事件。以下「18年判決」という。)に違背するものである。
18年判決は、本件公開請求に係る公文書と同内容の公文書(平成13年度に文部科学省及び県教委に提出されたもの。)につき、公立学校での教員の体罰は公務員の職務遂行行為であるから非公開事由に当たらず、第2文書中、加害教員の氏名、所属学校名及び学校長名は公開するべきであるとの原審判断を支持した。このことは、学校における体罰問題の重大性と、公開の意義・必要性を正面から認めたものであると評価できる
18年判決は、また、第1文書は全部公開するべきであり、顛末書の年月日、所属学校、作成者氏名及びあて先を記載した部分は非公開事由に当たらないとした。
よって、18年判決に沿うように、本件決定を取消し、非公開範囲を変更するよう求めるものである。
(2)実施機関は、加害教員の氏名、所属学校名及び学校長名を非公開及び顛末書を全部非公開とした大阪高等裁判所平成16年11月18日判決(平成15年(行コ)第16号公文書非公開決定取消請求控訴事件、同第27号同附帯控訴事件。以下「16年判決」という。)を指摘するけれども、18年判決は、情報公開条例(平成12 年兵庫県条例第6号。以下「条例」という。)の解釈として説得力があり、情報公開の精神に適い、不必要に情報公開の範囲を広げてしまう問題ももたず、他方で児童生徒のプライバシーにも配慮した優れたものであるといえる。
そして、18年判決は、16年判決を理解した上であえて異なる判断を出しており、具体的には、教員の職務遂行情報が懲戒処分を受ける蓋然性があることを理由に、非公開事由該当性を認めることは、公務員にとって不都合な情報を広く非公開とすることであって、情報公開制度の趣旨に沿うものでないことを明言している。
(3)また、県教委は、加害教員の氏名、所属学校名及び学校長名を公開すると、被害児童生徒が必然的に特定されると主張するが、この点については、18年判決のみならず、16年判決ですら認めていない。
さらに、県教委は「学校名や被害生徒の所属する部活動名等」が新聞報道された事例につき特に、「新聞記事に記載された情報と組み合わせることにより特定の個人を識別できる情報として、部活動名や体罰の情報を非公開としたもの」と述べる。
しかしながら、新聞で既に報じられた情報をあえて非公開とすることでは、モザイク理論からしても特定個人の識別範囲を変えることはできないし、ましてや「体罰の状況」は特定個人の識別とは関係のない情報である。
(4)以上から、県教委が主張する非公開理由は、非公開の根拠とはなりえない不当なものであり、本件決定を取消し、変更すべきとの答申を求める。
特に、加害教員の氏名、所属学校名及び学校長名の非公開を取消すべきとの答申を求める。
その他、児童生徒の識別にいたらない情報について、非公開を取消すべきとの答申を求める。
第3 諮問庁の説明要旨
意見書及び意見陳述において述べられた非公開理由は、次のとおり要約される。
1 本件対象公文書について
(1)第1文書は、実施機関が行った懲戒処分等のうち、体罰に係るものについて、その処分日等の状況を記載したものである。
(2)第2文書は、県内の公立学校の学校長及び市町教育委員会が、教職員が児童生徒に対して体罰を行ったことについて調査し、これを実施機関に報告した公文書である。なお、実施機関は、この報告書に基づき体罰の発生を了知し、事実確認を行った上で、当該体罰を行った教職員を含む関係者に懲戒処分等の適切な処置を行っている。
(3)第3文書は、体罰を行った教職員を含む関係者に対して行った懲戒処分等について、県立学校長又は市町教育委員会が実施機関に対して報告したものである。
2 条例第6条第1号の該当性について
(1)条例第6条第1号は、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人を識別することができるもののうち、通常他人に知られたくないと認められるもの又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」が記録されている場合を除き、当該公文書を公開しなければならない旨を規定している。
また、条例第2条第3項は、条例の解釈運用に当たっては、「実施機関は、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」と規定している。
したがって、条例第6条第1号の規定は、原則公開を趣旨とする条例においても、個人のプライバシー保護の観点から、このような情報については、これを非公開とするべき旨を定めたものと解される。
(2)「特定の個人を識別することができるもの」とは、氏名、住所等により特定の個人を直接識別することができる場合だけでなく、その情報だけでは特定の個人を識別することはできないが、他の情報と比較的容易に関連付けることができ、そのことにより、間接的に特定の個人を識別することができる場合も含むものである。
また、「通常他人に知られたくないと認められるもの」とは、特定の個人の主観的判断のいかんを問わず、社会的通念に照らして判断すると、他人に知られたくないと思うことが通常であると認められる情報をいう。
(3)第2文書には、学校名、学校長名、加害教諭の氏名・校務分掌・処分内容、被害を受けた児童生徒の氏名、クラス名、保護者の氏名・住所、関係者の氏名、発言内容等(以下「学校名等」という。)が記録されている。
ア 学校名等のうち、被害を受けた児童生徒の氏名、保護者の氏名・住所、関係者の氏名については、特定の個人を識別することができるものに該当する。
イ 学校名、学校長名、加害教員の校務分掌及びクラス名については、それぞれ単独では特定の個人を識別できないが、相互に組み合わせたり、学校要覧等他の情報と関連付けることにより、被害児童生徒が特定できることから、「特定の個人を識別することができるもの」に該当する。
なお、部分公開決定に係る公文書のうち、学校名や被害生徒の所属する部活動等を明らかにした新聞報道があるため、新聞記事に記載された情報と組み合わせることにより、特定の個人を識別できる情報として、部活動名や体罰の状況を非公開としたものである。
ウ 加害教員、被害児童生徒及び保護者等関係者の発言内容や、被害児童生徒がどのような状況でどのような加害行為が行われ、その結果、どのような被害を被ったかという情報は、児童生徒等の内心、心身等の状況に関することであり、「通常他人に知られたくないと認められるもの」に当たる。
エ また、どこの学校のどの加害教員が体罰を行ったかという情報は、公務員の職務遂行に係る情報であるため、本来ならば公開すべきものであるが、加害教員の氏名が公開されれば、他の情報と組み合わせることにより、被害児童生徒を識別することができる。
また、加害教員が懲戒処分等を受けたという情報は、当該教員の経歴、社会生活等に関するもので、公務員の立場を離れた個人としての評価を低下させる性質を有する情報であり、通常他人に知られたくないものと認められる。
よって、当該教員が懲戒処分等を受ける蓋然性のある立場におかれることとなる、当該教員が体罰を行ったという情報については、通常他人に知られたくないものであるため、非公開情報に該当する。
3 よって、本件決定は、条例の非公開事由の要件に該当するものであり、何ら違法・不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第4 審査会の判断
1 16年判決は最高裁判所平成19年11月22日決定(平成17年(行ツ)第61号、第62号、平成17年(行ヒ)第71号、第72号)において、上告・附帯上告棄却及び上告審として受理しない旨の決定がなされ、18年判決は最高裁判所平成19年11月22日決定(平成19年(行ツ)第95号、平成19年(行ヒ)第92号)において、上告棄却及び上告審として受理しない旨の決定がなされたことにより、対象となる年度は異なるが同一内容の公文書の公開等につき結論が異なる判決がそれぞれ確定している。
2 第1文書について
実施機関は、平成20年4月22日付けで本件決定を変更し、第1文書の全部公開の決定をしていることから、第1文書については判断しない(条例第17条第2号参照)。
3 異議申立人は、18年判決に沿うように、本件決定を取消し、非公開範囲を変更するよう求めているところ、18年判決は、特定の被害生徒を識別することができる情報(蓋然性の高い情報を含む。)及び加害教員その他の教職員が懲戒処分等を受けた情報は条例第6条第1号前段の非公開事由に該当すると解することが相当であるとしている。
以上から、異議申立人としては、実施機関が非公開としたもののうち、加害教員その他の教職員の職務の遂行に関する情報及び他の情報と照合することにより加害教員の氏名が明らかになる情報の公開を求めているものと解される。
4 条例第6条第1号の該当性
実施機関は、第2文書及び第3文書が条例第6条第1号に該当するとして部分公開および非公開としていることから、以下検討する。
(1)条例第6条第1号の趣旨等
ア 本号は、個人のプライバシーは、個人の尊厳に直接かかわる権利であること、いったん侵害されると事後的に回復が不可能であること等から、個人のプライバシーに関する情報が記録されている公文書については非公開とする趣旨である。
イ 「個人に関する情報」とは、個人の氏名、住所、思想、信条、健康状態、学歴、所属等個人の属性を示すすべての情報をいう。
ウ 「特定の個人を識別することができるもの」とは、氏名、住所等により特定の個人を直接識別することができる場合だけでなく、その情報だけでは特定の個人を識別することはできないが、他の情報と比較的容易に関連付けることができ、そのことにより、間接的に特定の個人を識別することができる場合も含む趣旨である。
エ 「通常他人に知られたくないと認められるもの」とは、特定の個人の主観的判断のいかんを問わず、社会通念に照らして判断すると、他人に知られたくないと思うことが通常であると認められる情報をいう。
ただし、公務員の職務の遂行に係る情報については、「通常他人に知られたくないと認められるもの」に当たらず、これらの情報が記録されている公文書については公開しなければならないものである。
オ 「特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」とは、カルテ、反省文等個人の人格と密接にかかわる情報や未公表の著作物等個人の識別性のある部分を除いて公開しても、なお個人の正当な権利利益を害するおそれがある情報をいう。
(2)第2文書のうち顛末書を除く部分について
ア 当該部分には、実施機関が体罰を行った教職員に対し懲戒処分等を行うに当たって、県立学校又は県教育事務所から受領した公文書(報告書)であり、概ね次の①から⑥までの情報が記載されている。
① 被害児童生徒の氏名、性別、生年月日、年齢、学年、クラス、身長、体重、家庭環境、保護者氏名及び住所並びに負傷の程度
② 他の児童生徒の氏名
③ 加害教員の氏名、性別、生年月日、年齢、校務分掌等(担任学年、クラス、担当教科等)、クラブ顧問、身長及び体重
④ 学校名並びに学校長の氏名及び印影
⑤ 体罰の原因と状況、学校においてとった措置等
⑥ 体罰発生の日時及び場所
イ実施機関は、次の情報を条例第6条第1号前段(以下「前段」という。)に該当するものとして非公開としている。
⑦ 被害児童生徒の氏名
⑧ 被害児童生徒のクラス名、家庭環境及び心身等の状況
⑨ 保護者の氏名及び住所
⑩ 他の児童生徒の氏名
⑪ 他の教員の病気休暇等の事情
⑫ 体罰事件を県教委に情報提供した者の氏名及びメールアドレス
⑬ 加害教員の住所及び病気休暇
⑭ 加害教員の氏名
⑮ 学校名並びに学校長の氏名及び印影
⑯ 加害教員の校務分掌及びクラス名
⑰ ⑦から⑯までの項目以外の項目のうち、他の情報と照合することによって、⑦又は⑭が明らかになると解される情報
⑱ 部活動名や体罰の状況等(新聞報道がされたものに限る。)
ウ そこで、上記イの⑦から⑱までの情報が前段に該当するかどうかを検討する。
(ア)このうち、⑦から⑬までの情報は、特定の個人を識別することができる情報であって、社会通念に照らして判断すると、通常他人に知られたくないと認められることから、前段の非公開事由にあたる。
(イ)次に、⑭の体罰を行った加害教員の氏名の非公開が妥当かどうかについて検討する。
加害教員が懲戒処分等を受けたことは、後述((4)のイ)するように私事に関する情報の面をも含むことから、前段の非公開事由にあたる。
形式的には、体罰を行った行為(職務遂行行為)と懲戒処分等を受けたという事実は区別しうるが、少なくとも懲戒処分等を受けたという事実についてはプライバシーとして保護されるべきである。
そして、第2文書は、実施機関が体罰を行った教職員に対し懲戒処分等の手続のために作成され、県立学校又は県教育事務所から受領した公文書(報告書)であり、しかも、実施機関が条例第22 条に基づき当審査会に提出した資料によれば、第2文書に記載された加害教員の全員が懲戒処分等(停職、減給、戒告、訓告又は厳重注意)を受けていることが認められる。
そうすると、ここで氏名が特定されることは、何らかの処分が行われたということを確実に知らしめ、プライバシー保護の利益を害するものである。
以上のことからすると、体罰を行った行為と懲戒処分等とは実質的には区別できないものと解され、加害教員名を公開することにより、当該教員が懲戒処分等を受けたことが明らかとなり、公務遂行等に関して非違行為があったということを示すにとどまらず、公務員の立場を離れた個人としての評価をも低下させる性質を有する情報というべきであるからプライバシーとして保護されるべき利益が害されることになる。
よって、⑭の加害教員の氏名は、前段の非公開事由に当たる。
(ウ)⑮及び⑯の情報は、実施機関によれば、それ自体では加害教員又は体罰を受けた児童生徒を識別できないが、兵庫県教育関係職員録又は学校要覧という、他の情報と照合することにより特定の個人が識別されうる情報であることから、前段に該当し非公開としたものである。
まず、「他の情報」の意義については、最高裁判所平成6年1月27日判決(平成3年(行ツ)第18 号)において、「一般人が通常入手しうる関連情報」との考え方が示されており、具体的には、広く刊行されている新聞・雑誌・書籍や、図書館等の公共施設で一般に入手可能な情報等をいい、特別の調査をすれば入手しうるかもしれない情報については「他の情報」に含まれないものと解する。
また、図書館等の公共施設で入手可能な書籍等からの情報であっても、国立図書館、最高裁判所図書館、あるいはある特定地域のごく限られた図書館には開架されているが、一般人には、そのような特定の図書館に当該書籍等が開架されているとは容易に思いつかないような書籍等からの情報については、「一般に」入手可能な情報とはいえないものと解するのが相当である。
上記の考え方に照らし、学校要覧及び兵庫県教育関係職員録が照合可能な「他の情報」に該当するかどうかを検討する。
兵庫県教育関係職員録には、教職員の氏名、性別・担当学年・教科、学校名、学校の所在地、クラス数、生徒数等が掲載されており、兵庫県教職員組合が発行している。
兵庫県下の教育関係者に頒布されているが、広く刊行されているとはいえず、兵庫県立図書館のほか3市立図書館(神戸・西宮・明石)に開架されているだけであり、学校名等が分かっても教員の氏名が判明していない以上、一般人がこの職員録の存在及びそれが県立図書館等に配架されていることに容易に思い至るとは考えにくく、一般に入手可能な情報とはいえない。
よって、兵庫県教育関係職員録は「他の情報」に該当しない。
次に、学校要覧には、教職員の氏名、担当学年・クラス・教科・校務分掌等が掲載されており、所属教育委員会その他学校関係者(教職員、PTA役員等)には配布されているが、一般に配布されているものでなく、県立学校の学校要覧が兵庫県立図書館に開架されているだけである。
よって、一般人において、学校要覧の存在に思いが至りかつこれを入手することが容易であるとは考えられないと解され、「他の情報」には該当しない。
したがって、学校要覧及び兵庫県教育関係職員録が照合可能な「他の情報」に該当しない以上、⑮及び⑯の情報は、他の情報と照合することにより加害教員又は体罰を受けた児童生徒を識別しうる情報とはいえず、前段の非公開事由には当たらない。
(エ)⑰の情報については、実施機関によれば、それ自体では加害教員又は体罰を受けた児童生徒を識別できないが、他の情報と照合することにより学校名が識別でき、さらに、学校名と他の情報とを照合することにより、特定の個人が識別されうる情報であることから、前段に該当し非公開としたものである。
しかし、学校名を識別できたとしても、(ウ)で述べたように他の情報と照合することにより特定の個人が識別されうる情報とはいえないことから、⑰の情報は前段の非公開事由には当たらない。
(オ)⑱の情報については、実施機関によれば、学校名や被害児童生徒の所属する部活動名や体罰の状況等を明らかにした新聞報道がなされた体罰事故報告書につき、新聞報道された情報と組み合わせることにより特定の個人を識別できる情報であることから、前段に該当し非公開としたものである。
しかし、部活動名や体罰の状況と新聞報道された情報とを照合したとしても、特定の個人を識別できるとはいえないから、部活動名や体罰の状況等を記載した部分は前段の非公開事由には当たらない。
(3)第2文書のうち顛末書部分について
ア 当該部分には、加害教員が自らの視点で体罰事故に係る事実関係を述べたものが綴られているとともに、加害教員が自らの反省状況等の心情を述べたものも含まれている。
イ これらの情報は、加害教員個人の人格と密接に関係する情報であり、同号後段の非公開事由に該当する。
(4)第3文書について
ア 第3文書は、体罰を行った教職員を含む関係者に対して行った懲戒処分等について、県立学校又は市町教育委員会が実施機関に対して報告した文書である。
イ 加害教員その他の教職員が懲戒処分等を受けたことは、公務遂行等に関して非違行為があったということを示すにとどまらず、公務員の立場を離れた個人としての評価をも低下させる性質を有する情報というべきであるから、私事に関する情報の面を含むものということができ、このような情報は前段の非公開事由に該当すると解することが相当である。
ウ なお、異議申立人が依拠する18年判決も、第3文書に相当する「懲戒処分通知報告書」をイと同様の理由で非公開としているところである。
5 以上のことから、「第1 審査会の結論」のとおり判断するものである。
審査の経過
(参考)
年月日 | 経過 |
19. 4.16 | ・諮問書の受領 |
19. 5. 2 | ・諮問庁の意見書の受領 |
19. 5.21 | ・異議申立人の意見書の受領 |
20. 4. 22 (第195回審査会) | ・諮問庁から非公開理由の説明聴取 ・審議 |
20. 7. 28 (第198回審査会) | ・諮問庁から非公開理由の説明聴取 ・審議 |
20. 8. 25 (第199回審査会) | ・諮問庁から非公開理由の説明聴取 ・審議 |
20.10. 24 (第200回審査会) | ・審議 |
20.10.30 | ・答申 |