答申第455号
諮問第806号
件名:ブログへの業務上の情報の書き込みに関する報告書の不開示決定に関する件
答 申
1 審査会の結論
愛知県知事(以下「知事」という。)が不開示決定をした「ブログへの業務上の情報の書き込みに関する報告書」(以下「本件行政文書」という。)のうち、報告書本文のうち別表に掲げる部分を除く部分については、開示すべきである。
2 異議申立ての内容
(1) 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成20年3月14日付けで愛知県情報公開条例(平成12年愛知県条例第19号。以下「条例」という。)に基づき行った開示請求に対し、知事が同月24日付けで行った不開示決定の取消しを求めるというものである。
(2) 異議申立ての理由
異議申立人の主張する異議申立ての理由は、概ね次のとおりである。
ア 請求内容は、新聞報道で、すでに公開されていることである。
イ 今回の請求内容は、基本的には公開されるべきことである。不開示の理由に特定の個人が識別されるということであるが、全面的に非公開にする理由にはならない。今回は、違法性のあることをした職員の職務に関することである。職務上における内容について全面的に不開示にする理由にはならない。不開示にすることは、行政が、違法行為の隠蔽行為を行っていると言わざるを得ない。請求者の知る権利を侵している。
請求情報には、事実関係、正確な問題点の把握、原因解明など、今後の県民としての行政参加、及び行政に生かせるものであり公開することで本件と同様の問題の再発を防げるといえる。
ウ 条例第7 条第5 号に該当ということであるが、今回の請求を不開示にすることは、前記したように違法不当について隠蔽することになると言われても仕方のないことであり、請求の報告書は、報告義務に基づいて提出されたものであり、率直な意見交換等損われるということなら、不開示にあたって具体的に、開示をしたらどの部分がどのように行政内部で損われるかその説明がない(報告書の作成機関の部分を開示したらどのような問題があるかなど)。
エ 条例第7条第6号に該当するとのことである。そしてその理由として、公正かつ円滑な人事の確保に支障をきたすということであるが、もしそうであるとしたら、具体的にどのような支障があるか、各項目ごとにその説明が求められることである。全面的な不開示にすることの根拠、理由などが不明であり、理解できない。行政としての説明責任を果たしていない。何ら開示しない(報告書の、作成機関、表題、日時、該当者の職級なども開示されていない)とされたということは、行政として、職務怠慢としか言いようがない。違法不当なことである。
3 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は、次の理由により本件行政文書を不開示としたというものである。
(1) 本件行政文書について
本件行政文書は、職員による業務上の情報のインターネット上のブログへの書き込みについての本人からの申立書、所属長の意見書及び本人あるいは上司等関係者から聴取・収集した情報により事案の概要を記したもの等から構成される。なお、本件行政文書は職員の処分検討の資料とするものである。
(2) 条例第7条第2号該当性について
本件行政文書のうち、職員の所属、職、氏名、生年月日等あるいは職員以外の個人に関する情報は、特定の個人を識別することができるもの又は他の情報と照合することにより特定の個人を識別することができるものであることから、条例第7条第2号に該当する。
なお異議申立人は、異議申立書において、請求内容は新聞報道で既に公開されている旨主張するが、新聞報道で公開されたのは、職員の性別、年齢、担当業務及びブログの内容のごく一部であり、その他の本件行政文書に記載された情報は不開示決定の時点では公開されておらず、条例第7条第2号ただし書イに該当しない。
(3) 条例第7条第5号該当性について
本件行政文書は、職員の処分に関し、県の機関の内部における検討に使用される文書であり、公にすることにより、職員あるいは関係者から、職員に有利な、あるいは不利な判断を求めて、処分検討に関わる職員に対し、個人的に圧力をかけることが予想され、その結果、率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあることから、条例第7条第5号に該当する。
(4) 条例第7条第6号該当性について
本件行政文書は、職員の任命権者である知事による任命権の行使という人事管理に関する情報であり、こうした情報を公にすることになると、非違行為が発生した場合であっても関係者が開示されることを意識して正確な情報収集に協力が得られなくなり、非違行為発生の際における諸般の事情を客観的に把握することができなくなるなど、人事管理上の事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を生ずるおそれがあることから、条例第7条第6号に該当する。
(5) その他
異議申立人は、異議申立書において、報告書の作成機関、表題、日時等も含めて何ら開示しないのは行政として職務怠慢である旨述べるが、異議申立人が求める請求内容からいって、それらの情報のみ開示したとしても、請求の趣旨を充足しない。
4 審査会の判断
(1) 判断に当たっての基本的考え方
条例は、第1条に規定されているとおり、行政文書の開示を請求する権利を保障し、実施機関の管理する情報の一層の公開を図り、もって県の有するその諸活動を県民に説明する責務が全うされ、公正で民主的な県政の推進に資することを目的として制定されたものであり、原則開示の理念のもとに解釈・運用されなければならない。
当審査会は、行政文書の開示を請求する権利が不当に侵害されることのないよう、原則開示の理念に立って、条例を解釈し、以下判断するものである。
(2) 本件行政文書について
一般職に属する地方公務員が地方公務員法(昭和25年法律第261号)第29条第1項の各号に該当する場合においては、これに対して懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができることとされている。
実施機関によれば、県においては、知事が任命権を有する一般職の職員が非違行為等を行った場合、当該職員からの申立書等を添付した当該事案の事実関係を記載した報告書が、当該職員の所属する部局から知事に提出されるとのことである。
本件行政文書に係る非違行為は、職員が、自身が関わった行政処分の内容を、行政処分の発表前にインターネット上の日記であるブログに書き込んだというものであるが、本件行政文書は、懲戒処分の手続のために作成された当該非違行為に関する報告書であり、報告書本文、非違行為を行った職員(以下「被処分者」という。)から提出されたブログの写し(以下「ブログの写し」という。)、申立書及び所属長意見書から構成されている。
報告書本文には、被処分者の職名、氏名、職種、性別、生年月日、年齢、所属、経歴及び住所や、事案の概要、事実経過、非違行為に関する部局の意見、再発防止策等が記載されている。
ブログの写しは、被処分者が書き込んでいたブログを印刷したもので被処分者から提出されたものであり、被処分者の日記、ブログの閲覧等が可能であったグループのメンバーのニックネーム、メンバーが書き込んだコメントのほか、ホームページ上の広告、メニュー、カレンダー等が記載されている。
申立書には、被処分者自身が綴った非違行為の事実経過や心情のほか、文書名、日付、被処分者の所属、職、氏名及び印影が記載されている。
所属長意見書には、被処分者が行った非違行為についての所属長の意見のほか、文書名、日付、文書発信者の所属及び氏名が記載されている。
実施機関は、本件行政文書の全部を不開示としている。
(3) 条例第7条第2号該当性について
条例第7条第2号は、基本的人権を尊重する立場から、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができる情報(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)が記録されている行政文書は、不開示とすることを定めるとともに、特定の個人を識別することはできないが、なお個人の権利利益を害するおそれのある情報が記録された行政文書についても、同様に不開示とすることを定めたものである。
また、その一方で、ただし書イからニまでのいずれかに規定された情報が記録されている行政文書については、条例の目的に照らし、原則開示と個人の権利利益の最大限の尊重との調整を図ることにより、開示することとしたものである。
この考え方に基づき、本件行政文書が条例第7条第2号に該当するか否かを、以下検討する。
まず、被処分者は公務員であることから、被処分者が受けた処分に関する情報が職務の遂行に係る情報であるかが問題となる。しかし被処分者が処分を受けたという情報は、処分の対象となった行為が職務上の行為であるかどうかに関わらず、被処分者個人の私的側面を有する情報であるので、被処分者の職務の遂行に係る情報とは認められない。
次に、本件行政文書を構成するそれぞれの文書ごとに、検討する。
ア 報告書本文について
(ア) 当該文書のうち、別表の番号1 に掲げる部分には、被処分者の職名、氏名、職種、生年月日、地方機関名を除く所属、経歴及び住所が記載されている。また別表の番号2に掲げる部分には、事案の概要及び事実経過として、被処分者が従事していた業務、ブログの内容、被処分者の経歴及び非違行為発生前後の被処分者の状況が記載されている。そして別表の番号3に掲げる部分には、非違行為に関する部局の意見が記載されている。
これらの部分は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるもの又はその記載だけでは特定の個人を識別することはできないが、他の情報と照合することにより特定の個人が識別される可能性が高いものであると認められるため、条例第7条第2号本文に該当する。
なお、本件行政文書に係る懲戒処分は公表され、新聞報道されているが、当該部分がそのまま公表又は報道されているわけではなく、その他当該部分が慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報と解すべき特段の事情も見当たらないことから、本号ただし書イに該当しない。また、前述のとおり当該部分は同号ただし書ハに該当せず、同号ただし書ロ及びニに該当しないことは明らかである。したがって、当該部分は、条例第7条第2号に該当する。
(イ) (ア)で述べた部分を除く部分の中には、被処分者の性別、年齢及び処分の当時所属していた地方機関名と、 処分の対象となった非違行為の客観的態様及び被処分者が非違行為の事実を認めた旨が記載されている部分があり、当該部分は特定の個人を識別することができる情報であるから、条例第7 条第2 号本文に該当する。しかしながら、当該部分は非違行為を県が確認した時点又は処分時に公表されていることから、慣行として公にされている情報であると認められ、同号ただし書イに該当する。
(ウ) (ア)及び(イ)で述べた部分を除く部分については、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるもの又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものとは認められず、条例第7条第2号に該当しない。
イ ブログの写し、申立書及び所属長意見書について
ブログの写しは、被処分者が日々の出来事や感想などを個人的に記録し、それに対して被処分者から閲覧等を許可された者が感想等を書き込んだホームページの写しである。また申立書は、被処分者自身が非違行為の事実経過を詳細に説明し、自らの心情を綴ったものである。そして所属長意見書は、被処分者の行った非違行為についての所属長としての意見が記載されている。これらのことから、当該文書はいずれも全体として特定の個人を識別することができるものであると認められるため、条例第7条第2号本文に該当する。
なお、当該文書の内容はいずれもそのまま公表又は報道されているものではなく、また実施機関によれば、ブログの写しの原文はインターネット上のホームページに掲載されていたものではあるが、当該ページは被処分者によって許可された者でなければ閲覧できなかったものであり、かつ当該ページは県が非違行為を確認した直後に削除されているとのことである。したがって、当該文書はいずれも、慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報であるとは認められず、本号ただし書イには該当しない。また前述のとおり、当該文書はいずれも同号ただし書ハに該当せず、同号ただし書ロ及びニに該当しないことは明らかである。
したがって、当該文書はいずれも、条例第7条第2号に該当する。
(4) 条例第7条第5号該当性について
条例第7 条第5 号は、審議、検討又は協議に関する情報について、検討途中の段階の情報を開示することの公益性を考慮してもなお、県や国等の意思決定に対する支障が看過し得ない程度のものである場合には、当該審議、検討又は協議に関する情報が記録されている行政文書は、不開示とすることを定めたものである。
この考え方に基づき、本件行政文書のうち報告書本文及び所属長意見書が条例第7条第5号に該当するか否かを、以下検討する。
ア 報告書本文について
当該文書のうち、別表の番号3 に掲げる部分には、被処分者の行った行為が非違行為に該当するかについての、被処分者の所属部局としての意見が記載されている。懲戒処分は所属部局の意見を踏まえて決定されるものであり、当該部分は処分を決定するための審議、検討又は協議に関する情報であると認められる。
当該部分が公にされると、被処分者あるいは関係者から、被処分者に有利又は不利な判断を求めて、意見作成に関与する被処分者の所属部局の職員に対して不当な干渉がなされ、また、公となることを意識して率直な意見が得られず、あるいはその内容が形骸化するなどの事態を招き、その結果、所属部局の意見を踏まえて行われる処分に関する県の意思決定に対する支障が生ずるおそれがあると認められるため、当該部分は、条例第7条第5号に該当する。
しかしながら、報告書本文のうち当該部分を除く部分については、審議、検討又は協議に関する情報が記載されているとは認められないことから、条例第7条第5号に該当しない。
イ 所属長意見書について
所属長意見書には、所属長としての処分に関する意見が記載されている。前記アと同様に、懲戒処分はこの意見を踏まえて決定されるものであり、所属長意見書が公にされると、所属長に対する不当な干渉がなされる等により、県の意思決定に対する支障が生ずるおそれがあると認められる。
したがって、当該文書は、条例第7条第5号に該当する。
(5) 条例第7条第6号該当性について
本号は、県の機関又は国、独立行政法人等、他の地方公共団体若しくは地方独立行政法人が行う事務事業は、公益に適合するよう適正に遂行されるものであるが、これらの事務事業に関する情報の中には、公にすることにより、当該事務事業の性質上、その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものが含まれるため、これらの情報が記録された行政文書は不開示とすることを定めたものである。
この考え方に基づき、本件行政文書が条例第7条第6号に該当するか否かを、以下検討する。
ア 報告書本文について
当該文書のうち別表の番号2 に掲げる部分は、事案の概要及び事実経過について、被処分者の申立て及び関係者からの事情聴取に基づき記載されているものと認められる。これらの部分は、公にすることとなると、開示されることを意識して、非違行為等を行った職員が当該非違行為等についての率直で詳細な申立てをすることを躊躇したり、当該職員及び関係者に対してありのままの供述を求めたとしてもそれが期待できなくなるなど、非違行為等の発生の際における諸般の事情を客観的かつ正確に把握することが困難になるおそれが生ずると考えられる。
また、当該文書のうち別表の番号3 に掲げる部分には、前記(4)アで述べたとおり、被処分者の行った行為に関する被処分者の所属部局としての意見が記載されており、当該部分を公にすれば、意見作成に関与する職員に対して不当な干渉がなされる等のおそれがある。
したがって、これらの部分を公にすると、人事管理上の事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあると認められ、これらの部分は、条例第7条第6号に該当する。
しかしながら、報告書本文のうち上記の部分を除く部分については、公にしても人事管理上の事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあるとは認められず、条例第7条第6号に該当しない。
イ ブログの写し及び申立書について
ブログの写しは、非違行為の詳細を明らかにするための協力の一環として、公にせず他に知られることはないという前提で、被処分者が任命権者へ提出した資料である。ブログの原文が掲載されていたホームページを閲覧できたのは特定の者に限定され、また既に削除されていることは、前記(3)イで述べたとおりである。
申立書は、被処分者自身が非違行為等の事実経過を詳細に説明し、自らの心情を綴ったものであり、署名、捺印の上、任命権者へ提出したものである。申立書は、その性格から個人情報の中でもとりわけ機微にわたるものであって、公にせず他に知られることはないという前提で作成されるものである。
以上のことから、これらの文書を公にすることとなると、開示されることを意識して、非違行為等を行った職員が当該非違行為等についての率直で詳細な申立てをすることを躊躇したり、当該職員に対して当該非違行為等についての資料の提出などの非違行為等の全容を明らかにするための協力を求めたとしてもそれが期待できなくなるなど、非違行為等の発生の際における諸般の事情を客観的かつ正確に把握することが困難になるおそれが生ずることから、人事管理上の事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあると認められる。
したがって、ブログの写し及び申立書は、条例第7条第6号に該当する。
ウ 所属長意見書について
前記(4)イで述べたとおり、所属長意見書は、公にすれば所属長の率直な意見が得られず、また、その内容が形骸化するおそれがあることから、人事管理に関する事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる。
したがって、当該文書は、条例第7条第6号に該当する。
(6) まとめ
以上により、その余は判断するまでもなく、「1 審査会の結論」のとおり判断する。
別表
(審査会の処理経過)
諮問第806号
件名:ブログへの業務上の情報の書き込みに関する報告書の不開示決定に関する件
1 審査会の結論
愛知県知事(以下「知事」という。)が不開示決定をした「ブログへの業務上の情報の書き込みに関する報告書」(以下「本件行政文書」という。)のうち、報告書本文のうち別表に掲げる部分を除く部分については、開示すべきである。
2 異議申立ての内容
(1) 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成20年3月14日付けで愛知県情報公開条例(平成12年愛知県条例第19号。以下「条例」という。)に基づき行った開示請求に対し、知事が同月24日付けで行った不開示決定の取消しを求めるというものである。
(2) 異議申立ての理由
異議申立人の主張する異議申立ての理由は、概ね次のとおりである。
ア 請求内容は、新聞報道で、すでに公開されていることである。
イ 今回の請求内容は、基本的には公開されるべきことである。不開示の理由に特定の個人が識別されるということであるが、全面的に非公開にする理由にはならない。今回は、違法性のあることをした職員の職務に関することである。職務上における内容について全面的に不開示にする理由にはならない。不開示にすることは、行政が、違法行為の隠蔽行為を行っていると言わざるを得ない。請求者の知る権利を侵している。
請求情報には、事実関係、正確な問題点の把握、原因解明など、今後の県民としての行政参加、及び行政に生かせるものであり公開することで本件と同様の問題の再発を防げるといえる。
ウ 条例第7 条第5 号に該当ということであるが、今回の請求を不開示にすることは、前記したように違法不当について隠蔽することになると言われても仕方のないことであり、請求の報告書は、報告義務に基づいて提出されたものであり、率直な意見交換等損われるということなら、不開示にあたって具体的に、開示をしたらどの部分がどのように行政内部で損われるかその説明がない(報告書の作成機関の部分を開示したらどのような問題があるかなど)。
エ 条例第7条第6号に該当するとのことである。そしてその理由として、公正かつ円滑な人事の確保に支障をきたすということであるが、もしそうであるとしたら、具体的にどのような支障があるか、各項目ごとにその説明が求められることである。全面的な不開示にすることの根拠、理由などが不明であり、理解できない。行政としての説明責任を果たしていない。何ら開示しない(報告書の、作成機関、表題、日時、該当者の職級なども開示されていない)とされたということは、行政として、職務怠慢としか言いようがない。違法不当なことである。
3 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は、次の理由により本件行政文書を不開示としたというものである。
(1) 本件行政文書について
本件行政文書は、職員による業務上の情報のインターネット上のブログへの書き込みについての本人からの申立書、所属長の意見書及び本人あるいは上司等関係者から聴取・収集した情報により事案の概要を記したもの等から構成される。なお、本件行政文書は職員の処分検討の資料とするものである。
(2) 条例第7条第2号該当性について
本件行政文書のうち、職員の所属、職、氏名、生年月日等あるいは職員以外の個人に関する情報は、特定の個人を識別することができるもの又は他の情報と照合することにより特定の個人を識別することができるものであることから、条例第7条第2号に該当する。
なお異議申立人は、異議申立書において、請求内容は新聞報道で既に公開されている旨主張するが、新聞報道で公開されたのは、職員の性別、年齢、担当業務及びブログの内容のごく一部であり、その他の本件行政文書に記載された情報は不開示決定の時点では公開されておらず、条例第7条第2号ただし書イに該当しない。
(3) 条例第7条第5号該当性について
本件行政文書は、職員の処分に関し、県の機関の内部における検討に使用される文書であり、公にすることにより、職員あるいは関係者から、職員に有利な、あるいは不利な判断を求めて、処分検討に関わる職員に対し、個人的に圧力をかけることが予想され、その結果、率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあることから、条例第7条第5号に該当する。
(4) 条例第7条第6号該当性について
本件行政文書は、職員の任命権者である知事による任命権の行使という人事管理に関する情報であり、こうした情報を公にすることになると、非違行為が発生した場合であっても関係者が開示されることを意識して正確な情報収集に協力が得られなくなり、非違行為発生の際における諸般の事情を客観的に把握することができなくなるなど、人事管理上の事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を生ずるおそれがあることから、条例第7条第6号に該当する。
(5) その他
異議申立人は、異議申立書において、報告書の作成機関、表題、日時等も含めて何ら開示しないのは行政として職務怠慢である旨述べるが、異議申立人が求める請求内容からいって、それらの情報のみ開示したとしても、請求の趣旨を充足しない。
4 審査会の判断
(1) 判断に当たっての基本的考え方
条例は、第1条に規定されているとおり、行政文書の開示を請求する権利を保障し、実施機関の管理する情報の一層の公開を図り、もって県の有するその諸活動を県民に説明する責務が全うされ、公正で民主的な県政の推進に資することを目的として制定されたものであり、原則開示の理念のもとに解釈・運用されなければならない。
当審査会は、行政文書の開示を請求する権利が不当に侵害されることのないよう、原則開示の理念に立って、条例を解釈し、以下判断するものである。
(2) 本件行政文書について
一般職に属する地方公務員が地方公務員法(昭和25年法律第261号)第29条第1項の各号に該当する場合においては、これに対して懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができることとされている。
実施機関によれば、県においては、知事が任命権を有する一般職の職員が非違行為等を行った場合、当該職員からの申立書等を添付した当該事案の事実関係を記載した報告書が、当該職員の所属する部局から知事に提出されるとのことである。
本件行政文書に係る非違行為は、職員が、自身が関わった行政処分の内容を、行政処分の発表前にインターネット上の日記であるブログに書き込んだというものであるが、本件行政文書は、懲戒処分の手続のために作成された当該非違行為に関する報告書であり、報告書本文、非違行為を行った職員(以下「被処分者」という。)から提出されたブログの写し(以下「ブログの写し」という。)、申立書及び所属長意見書から構成されている。
報告書本文には、被処分者の職名、氏名、職種、性別、生年月日、年齢、所属、経歴及び住所や、事案の概要、事実経過、非違行為に関する部局の意見、再発防止策等が記載されている。
ブログの写しは、被処分者が書き込んでいたブログを印刷したもので被処分者から提出されたものであり、被処分者の日記、ブログの閲覧等が可能であったグループのメンバーのニックネーム、メンバーが書き込んだコメントのほか、ホームページ上の広告、メニュー、カレンダー等が記載されている。
申立書には、被処分者自身が綴った非違行為の事実経過や心情のほか、文書名、日付、被処分者の所属、職、氏名及び印影が記載されている。
所属長意見書には、被処分者が行った非違行為についての所属長の意見のほか、文書名、日付、文書発信者の所属及び氏名が記載されている。
実施機関は、本件行政文書の全部を不開示としている。
(3) 条例第7条第2号該当性について
条例第7条第2号は、基本的人権を尊重する立場から、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができる情報(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)が記録されている行政文書は、不開示とすることを定めるとともに、特定の個人を識別することはできないが、なお個人の権利利益を害するおそれのある情報が記録された行政文書についても、同様に不開示とすることを定めたものである。
また、その一方で、ただし書イからニまでのいずれかに規定された情報が記録されている行政文書については、条例の目的に照らし、原則開示と個人の権利利益の最大限の尊重との調整を図ることにより、開示することとしたものである。
この考え方に基づき、本件行政文書が条例第7条第2号に該当するか否かを、以下検討する。
まず、被処分者は公務員であることから、被処分者が受けた処分に関する情報が職務の遂行に係る情報であるかが問題となる。しかし被処分者が処分を受けたという情報は、処分の対象となった行為が職務上の行為であるかどうかに関わらず、被処分者個人の私的側面を有する情報であるので、被処分者の職務の遂行に係る情報とは認められない。
次に、本件行政文書を構成するそれぞれの文書ごとに、検討する。
ア 報告書本文について
(ア) 当該文書のうち、別表の番号1 に掲げる部分には、被処分者の職名、氏名、職種、生年月日、地方機関名を除く所属、経歴及び住所が記載されている。また別表の番号2に掲げる部分には、事案の概要及び事実経過として、被処分者が従事していた業務、ブログの内容、被処分者の経歴及び非違行為発生前後の被処分者の状況が記載されている。そして別表の番号3に掲げる部分には、非違行為に関する部局の意見が記載されている。
これらの部分は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるもの又はその記載だけでは特定の個人を識別することはできないが、他の情報と照合することにより特定の個人が識別される可能性が高いものであると認められるため、条例第7条第2号本文に該当する。
なお、本件行政文書に係る懲戒処分は公表され、新聞報道されているが、当該部分がそのまま公表又は報道されているわけではなく、その他当該部分が慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報と解すべき特段の事情も見当たらないことから、本号ただし書イに該当しない。また、前述のとおり当該部分は同号ただし書ハに該当せず、同号ただし書ロ及びニに該当しないことは明らかである。したがって、当該部分は、条例第7条第2号に該当する。
(イ) (ア)で述べた部分を除く部分の中には、被処分者の性別、年齢及び処分の当時所属していた地方機関名と、 処分の対象となった非違行為の客観的態様及び被処分者が非違行為の事実を認めた旨が記載されている部分があり、当該部分は特定の個人を識別することができる情報であるから、条例第7 条第2 号本文に該当する。しかしながら、当該部分は非違行為を県が確認した時点又は処分時に公表されていることから、慣行として公にされている情報であると認められ、同号ただし書イに該当する。
(ウ) (ア)及び(イ)で述べた部分を除く部分については、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるもの又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものとは認められず、条例第7条第2号に該当しない。
イ ブログの写し、申立書及び所属長意見書について
ブログの写しは、被処分者が日々の出来事や感想などを個人的に記録し、それに対して被処分者から閲覧等を許可された者が感想等を書き込んだホームページの写しである。また申立書は、被処分者自身が非違行為の事実経過を詳細に説明し、自らの心情を綴ったものである。そして所属長意見書は、被処分者の行った非違行為についての所属長としての意見が記載されている。これらのことから、当該文書はいずれも全体として特定の個人を識別することができるものであると認められるため、条例第7条第2号本文に該当する。
なお、当該文書の内容はいずれもそのまま公表又は報道されているものではなく、また実施機関によれば、ブログの写しの原文はインターネット上のホームページに掲載されていたものではあるが、当該ページは被処分者によって許可された者でなければ閲覧できなかったものであり、かつ当該ページは県が非違行為を確認した直後に削除されているとのことである。したがって、当該文書はいずれも、慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報であるとは認められず、本号ただし書イには該当しない。また前述のとおり、当該文書はいずれも同号ただし書ハに該当せず、同号ただし書ロ及びニに該当しないことは明らかである。
したがって、当該文書はいずれも、条例第7条第2号に該当する。
(4) 条例第7条第5号該当性について
条例第7 条第5 号は、審議、検討又は協議に関する情報について、検討途中の段階の情報を開示することの公益性を考慮してもなお、県や国等の意思決定に対する支障が看過し得ない程度のものである場合には、当該審議、検討又は協議に関する情報が記録されている行政文書は、不開示とすることを定めたものである。
この考え方に基づき、本件行政文書のうち報告書本文及び所属長意見書が条例第7条第5号に該当するか否かを、以下検討する。
ア 報告書本文について
当該文書のうち、別表の番号3 に掲げる部分には、被処分者の行った行為が非違行為に該当するかについての、被処分者の所属部局としての意見が記載されている。懲戒処分は所属部局の意見を踏まえて決定されるものであり、当該部分は処分を決定するための審議、検討又は協議に関する情報であると認められる。
当該部分が公にされると、被処分者あるいは関係者から、被処分者に有利又は不利な判断を求めて、意見作成に関与する被処分者の所属部局の職員に対して不当な干渉がなされ、また、公となることを意識して率直な意見が得られず、あるいはその内容が形骸化するなどの事態を招き、その結果、所属部局の意見を踏まえて行われる処分に関する県の意思決定に対する支障が生ずるおそれがあると認められるため、当該部分は、条例第7条第5号に該当する。
しかしながら、報告書本文のうち当該部分を除く部分については、審議、検討又は協議に関する情報が記載されているとは認められないことから、条例第7条第5号に該当しない。
イ 所属長意見書について
所属長意見書には、所属長としての処分に関する意見が記載されている。前記アと同様に、懲戒処分はこの意見を踏まえて決定されるものであり、所属長意見書が公にされると、所属長に対する不当な干渉がなされる等により、県の意思決定に対する支障が生ずるおそれがあると認められる。
したがって、当該文書は、条例第7条第5号に該当する。
(5) 条例第7条第6号該当性について
本号は、県の機関又は国、独立行政法人等、他の地方公共団体若しくは地方独立行政法人が行う事務事業は、公益に適合するよう適正に遂行されるものであるが、これらの事務事業に関する情報の中には、公にすることにより、当該事務事業の性質上、その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものが含まれるため、これらの情報が記録された行政文書は不開示とすることを定めたものである。
この考え方に基づき、本件行政文書が条例第7条第6号に該当するか否かを、以下検討する。
ア 報告書本文について
当該文書のうち別表の番号2 に掲げる部分は、事案の概要及び事実経過について、被処分者の申立て及び関係者からの事情聴取に基づき記載されているものと認められる。これらの部分は、公にすることとなると、開示されることを意識して、非違行為等を行った職員が当該非違行為等についての率直で詳細な申立てをすることを躊躇したり、当該職員及び関係者に対してありのままの供述を求めたとしてもそれが期待できなくなるなど、非違行為等の発生の際における諸般の事情を客観的かつ正確に把握することが困難になるおそれが生ずると考えられる。
また、当該文書のうち別表の番号3 に掲げる部分には、前記(4)アで述べたとおり、被処分者の行った行為に関する被処分者の所属部局としての意見が記載されており、当該部分を公にすれば、意見作成に関与する職員に対して不当な干渉がなされる等のおそれがある。
したがって、これらの部分を公にすると、人事管理上の事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあると認められ、これらの部分は、条例第7条第6号に該当する。
しかしながら、報告書本文のうち上記の部分を除く部分については、公にしても人事管理上の事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあるとは認められず、条例第7条第6号に該当しない。
イ ブログの写し及び申立書について
ブログの写しは、非違行為の詳細を明らかにするための協力の一環として、公にせず他に知られることはないという前提で、被処分者が任命権者へ提出した資料である。ブログの原文が掲載されていたホームページを閲覧できたのは特定の者に限定され、また既に削除されていることは、前記(3)イで述べたとおりである。
申立書は、被処分者自身が非違行為等の事実経過を詳細に説明し、自らの心情を綴ったものであり、署名、捺印の上、任命権者へ提出したものである。申立書は、その性格から個人情報の中でもとりわけ機微にわたるものであって、公にせず他に知られることはないという前提で作成されるものである。
以上のことから、これらの文書を公にすることとなると、開示されることを意識して、非違行為等を行った職員が当該非違行為等についての率直で詳細な申立てをすることを躊躇したり、当該職員に対して当該非違行為等についての資料の提出などの非違行為等の全容を明らかにするための協力を求めたとしてもそれが期待できなくなるなど、非違行為等の発生の際における諸般の事情を客観的かつ正確に把握することが困難になるおそれが生ずることから、人事管理上の事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあると認められる。
したがって、ブログの写し及び申立書は、条例第7条第6号に該当する。
ウ 所属長意見書について
前記(4)イで述べたとおり、所属長意見書は、公にすれば所属長の率直な意見が得られず、また、その内容が形骸化するおそれがあることから、人事管理に関する事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる。
したがって、当該文書は、条例第7条第6号に該当する。
(6) まとめ
以上により、その余は判断するまでもなく、「1 審査会の結論」のとおり判断する。
別表
番号 | 不開示が相当である部分 |
1 | 「1 職員」のうち、被処分者の職名、氏名、職種、生年月日、地方機関名を除く所属、経歴及び住所 |
2 | 「2 事実関係(経緯等)」のうち、「(1) 事案の概要」の第3段落及び第4段落と「(2) 事実経過」の第1段落から第5段落まで、第8段落及び第10段落 |
3 | 「3 守秘義務違反について」のすべて |
(審査会の処理経過)
年月日 | 内 容 |
20. 4. 4 | 諮問 |
20. 5. 29 | 実施機関から不開示理由説明書を受理 |
20. 5. 30 | 異議申立人に実施機関からの不開示理由説明書を送付 |
20. 9. 26 (第238 回審査会) | 実施機関職員から不開示理由等を聴取 |
20. 10. 31 (第242 回審査会) | 異議申立人の意見陳述 |
20. 11. 11 (第243 回審査会) | 審議 |
21. 1. 16 (第249 回審査会) | 審議 |