
昔の小説には教養小説的な側面を持つものも多くて、それはそれでかまわないし、それが当時の読者にとっての大きな魅力ではあったのだろうけれど、今の読者にとっては多少冗長と思えるかもしれない。ならば、変に抄訳などするくらいなら、これを日本の著名作家に少年少女向けに書き直させてしまえ!という「痛快世界の冒険文学」という講談社のシリーズがありました。菊地秀行がブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』を書いていたり、藤本ひとみが『三銃士』を書いていたりとなかなかマニアックというか、作家のこだわりが前面に出たシリーズでした。
19世紀フランスの作家でありSFの父とも呼ばれるジュール・ベルヌの小説もその1つ。オリジナルは地誌とか博物学的な好奇心を満足させようとする部分がかなり大きいのですが、そのヴェルヌの『神秘の島』を担当したのが児童ファンタジー文学の佐藤さとるです。
南北戦争のさなか、南軍拠点であるバージニア州首都リッチモンドはグラント将軍率いる北軍により包囲されてしまった。この包囲網を突破するために南軍が用意していた気球を利用して脱走しようとした北軍支持のサイラス技師たちだったが、嵐によって南軍も北軍も飛び越え、絶海の孤島へと漂着してしまう。
地図にもない島に辿り着いた人々はそこをリンカーン島と名づけ自活することを決意するが、その島には秘密が隠されていた……。
昔、小学校の図書館で読んで以来だったので、こんな話だったかしらというようなオリジナルとの比較はできず。NHK教育で放映していたカナダ製作の連続ドラマ『MYSTERIOUS ISLAND(1995)』もこんな感じだった気がします。
ちなみに、児童文学、古典SF、アニメ映画の原作としてジュール・ヴェルヌの『海底二万里』は有名ですが、あるいはそのメインキャラであるネモ船長の知名度は高いと思うのだけれど、この『神秘島物語』がその後日談であることはあまり知られていない気がするし、もう1作『グラント船長の子供たち』と合わせて三部作ということはまったく知られていない気がするのですが、いかがでしょうか?
1.大英帝国の植民地支配に復讐心を燃やすネモ船長の潜水艦が世界の大海を往く『海底二万里』。
2.行方不明の冒険家グラント船長を探すため、スコットランド貴族とその仲間が世界中を旅し、反乱を起こした水夫を島流しにして帰還する『グラント船長の子供たち』。
3.島流しにされた水夫に迎えが来る『神秘島物語』。
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