付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「ロビンソン・クルーソー(下)」 ダニエル・デフォー

2009-08-27 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 35年間も無人島に島流し。奇跡の生還を遂げ、その間にブラジルに持っていた農園の権利が膨らんで財産家に。素敵な奥さんを見つけてイギリスで結婚して7年、2人の子供に恵まれて早61歳。農園経営も順調というロビンソン・クルーソー。
 平均寿命が30代前半という17世紀末のイギリスの話です。私だったら「そろそろ足ることを知ってもいいんでない?」と言いたくなりますが、ダメなんですね。この男は……。
「神様が行けとあなたにお命じになっておられるのでしたら、わたしにも一緒に行けとお命じになっておられると思います」
 そんなことを言う“できた”妻が死んでしまったものだから存在意義を見失ってしまいます。まだ上の子が5歳かそこらという2人の子供は人に預けて財産を信託し、またふらふらと航海に……って、酷い親だよなあ……。碇ゲンドウって、絶対こういうタイプですよね。
 そんなロビンソンが今度はアフリカ・アジア方面にふらふら航海する旅の物語で、彼の残してきた無人島の後日譚が半分くらい。

 物語の展開そのものよりもキャラクターの描写や会話に紙幅が費やされるのが昨今のライトノベル的小説。物語の展開そのものやキャラクターの描写よりも見慣れぬ世界での風習や博物学的関心事に紙幅が費やされるのがベルヌの小説。そしてこの話は、物語の展開そのものよりも宗教的命題に関する言及と経済取引に関する克明な記録に紙幅が費やされています。これが第2部。ちなみに第3部『ロビンソン・クルーソー反省録』は文学史か経済史の研究者しか読まない、信仰と倫理と社会問題の思索ばかりなんだとか。
 キリスト教的寓話だそうだけれど、「産めよ増やせよ地に満ちよ、後は野となれ山となれ」でいいんですか? それとも反面教師? 確かに、いわゆる名作文学には『小公女』とか『秘密の花園』など「金持ちの両親に放置された少年少女の物語」が目立つ気がします。少なくとも、お金持ちの両親が子供の傍にいる名作って読んだことがないな。そういう時代だったのでしょうか?

【ロビンソン・クルーソー】【ロビンソン・クルーソーのその後の冒険】【ダニエル・デフォー】【海賊】【餓死】【宣教師】【放浪癖】
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「少女ファイト(4)」 日本橋ヨヲコ

2009-08-27 | スポーツ・武道
「特別な人間なんていねんだよ。そいつが何をやってきたかが特別なだけだ」
 だから自分のふがいなさを才能やセンスのせいにするなと、黒曜谷高校女子バレー部コーチ、由良木政子の言葉。

【少女ファイト】【日本橋ヨヲコ】【バレーボール】
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「理由あって冬に出る」 似鳥鶏

2009-08-27 | 学園小説(ミステリ)
……何が出るかというと「幽霊」が出る。

 使い道の決まらないまま放置された校舎にさまざまな文化部が寄せ集まって生まれた芸術棟。そこにフルートを吹く幽霊、もしくは行方不明の部員の霊が出るという噂に練習のできなくなった吹奏楽部をなんとかするため、吹奏楽部部長らの夜番に付き合うことになった美術部の葉山君。
 ところが予想に反して本当に幽霊が現れたため、真相解明のため文芸部部長である伊神さんに出馬を要請する羽目に陥るのだが……。

「本質的に人は皆、矢追純一だ」
 怪奇現象がそこで起きれば、怖いとか思う以前に真偽を確かめてみたくなるものなのだ。

 「コミカル学園ミステリ」というふれこみだけれど、コミカルというのとはちょっと違うかな。キャハハガハハと笑い飛ばすようなものではないですね。クリスティーのミス・マープルものとか、クレイグ・ライスの『スイートホーム殺人事件』とか、北村薫の『覆面作家は二人いる』とか、あんな感じのちょっとクスリとかニヤリとか笑ってしまう感覚の作品に、ライトノベル的な学生生活のフレーバーを振りかけた……といった雰囲気です。ちょっと前なら富士見ミステリー文庫あたりに登場していて不思議はないかもしれませんが、第16回鮎川哲也賞佳作で創元推理文庫からの登場です。等身大の高校生が直面する、謎と大人社会の暗黒面と友情の物語。
 まだ荒削りという感じなところはありますが、話として面白いので問題なし。前代未聞の斬新なトリック、議論の余地のない動機、すべての描写や会話が謎解きにかかわってくる緻密な構成……というような珠玉の本格ミステリを求める人には期待はずれだと思いますが、そういう人はクイーンの『フランス白粉の謎』かクリスティーの『オリエント急行殺人事件』あたりを読み返していればよろしい。
 ただ、あの柳瀬さおりの花言葉への反応について、葉山君はもっときちんと考えるべきです。

【理由あって冬に出る】【似鳥鶏】【toi8】【第16回鮎川哲也賞佳作】【アイヌ語】【花言葉】
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