★人生やり直し

　平凡な一般人なんだけれど、異世界や戦国時代に転生してチートなスキルや前世知識でぶいぶい言わせて波瀾万丈な冒険を……あるいは、それはなくても幼い頃から大人の意識があることでスタートダッシュをかます話がこの10年で急増。ＴＳ転生して女優やアイドルになるとかもあります。高校生あたりが主人公だと、別に逆行転生しなくても気持ちの切り替えとか偶然の出会いに転機があるのだけれど、アラサーやアラフォーになると人生巻き戻さないとなかなか転機は訪れないのです。

『アラサーのオレは別世界線に逆行再生したらしい』翠川稜（2019）
　30そこそこで事故死した、コミュ障ボッチで陰キャだったアラサー男が15年前の15歳から人生をやり直す物語。ちょっと気持ちを変えてみたら、ブラックな社会人としての人生経験だって立派な武器になって愉しい人生が待っているのだ。

『陰キャだった俺の青春リベンジ』 慶野由志（2020）
　30そこそこで過労死したアラサー男が高校２年生から人生をやり直す物語。ちょっと気持ちを変えてみたら、ブラックな社会人としての人生経験だって立派な武器になって愉しい人生が待っているのだ。

『俺のクラスに若返った元嫁がいる』猫又ぬこ（2021）
　離婚届を提出した帰りに自動車事故で死んだアラサー男が、高校入学時点に人生がまき戻っていたのだけれど、クラスメイトに元妻がいて、どうやら彼女にも前世の記憶があるらしく……という、別れた夫婦の恋愛やり直し譚。

　過去に戻ってやり直しというのはタイムトラベルものの王道で、ハインラインの『夏への扉』が代表だけれど、もっともっとささやかな幸せの物語です。特別なものでなくてもいい。自分に周囲に認められていないだけで実はスゴい能力があるってことはないし、リクルートしても成功するとは思えないけど、中高生くらいの時分に社会人としての10年くらいの人生経験とか実務能力があれば、より良い道が開けていたかもしれない、今のダメダメな人生を劇的に改善できるんじゃない？というスタンスの、優しい世界の物語にしてサラリーマン小説の変奏曲です。
　自分が異世界の密林の奥地や戦国時代に放り込まれてもなんとかできるとは思えないけど、勝手知ったる高校時代くらいに戻れるならワンチャンなくない？という中高年読者の心をくすぐるのです。