付け焼き刃の覚え書き

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「星へ行く船」 新井素子

2012-09-26 | 宇宙・スペースオペラ
 もし「ライトノベル」という言葉の定義が、「中高生を主なターゲットとした文庫で、表紙やイラストに専門の挿絵画家ではなくマンガ家やアニメーターの作品を使用したもの」というものなら、その先駆的作品の1つ。
 時期的なことでいえば、1980年に学研の『高一コース』に連載され、1981年に集英社のコバルト文庫にまとまったものですから、高千穂遥の『クラッシャー・ジョウ~連帯惑星ピザンの危機』の方が1977年刊行で最初期なんだけれども、ジャンルへの影響という点ではこちらも互角。
 新井素子の作品としては平均的なレベルにすぎないのだけれど、雑誌連載中に竹宮恵子の挿絵がついていたことから評判となり、新井素子の出世作となります。文庫にまとまったとき、表紙以外は別の人に差し替えられてしまったのが痛恨。竹宮イラスト完全収録の愛蔵復刻版って出ないかな?

 家出した森村あゆみが乗り込んだのは星へ行く船。家を捨てるついでに地球を捨ててしまったのだが、そのまま星の世界へ抜け出せるほど甘い世の中ではなかったのだよ……。

 家出少女の成長物語で探偵ストーリー。SFとしてはぬるめ。

 コバルト文庫は当初から中高生向けの愛や性をテーマにした少女小説やノンフィクションが売りのレーベルで、『私は13歳』なんかは女子の間に大流行していたようでした(男子には内緒)。そんな時代に、『星へ行く船』を書店で探して回る男子生徒の恥ずかしさといったら……。

 ところが一部にジャッキー・チェンとかYMOとかのムック調のものがあったり、アニメのノベライズがあったりと試行錯誤しているうちに、いつの間にかアニメのノベライズが増え、ロマンス小説の流れからロマンチックSFへと流れ、気がついたら明らかに少女向けなんだけれどアニメ映画のノベライズとかはみんなここから出ている……というレーベルになってました。
 若桜木虔の『宇宙戦艦ヤマト』とか、藤川桂介の『1000年女王』とか、みんな買ってたよね? 『宇宙戦士バルディオス』も『サイボーグ009 超銀河伝説』も『エースをねらえ!』もここですし、「たんぽぽ娘」が読みたければ風見潤の「海外ロマンチックSF傑作選」を買うしかなく、ゆうきまさみがイラストを描いて火浦功が『スターライト☆だんでぃ』を発表し、大和真也が『フォックスさんにウインクを』シリーズでブームとなり、イラスト陣もさえぐさじゅん、赤星たみこ、川原由美子、すぎ恵美子、藤田和子、高田明美、ふくやまけいこ、童夢梨乃、田渕由美子、めるへんめーかー……。
 そりゃあ、コバルト文庫の作品が含められないライトノベル論争など歴史的に無意味ですね。

【星へ行く船】【新井素子】【竹宮恵子】【コバルト文庫】【あたし】【広川太一郎】

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