付け焼き刃の覚え書き

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「大誘拐」 天藤真

2010-06-14 | ミステリー・推理小説
「あれだけはあかんわ。かわいい子どもさろうて、金ゆすって……あれ、人間のすることやないわ」
 銀行強盗でも何でも良いから誘拐だけはやめてくれと秋葉正義の言葉。

 悪事から足を洗うことに決めたスリ師の戸並健次が最後の仕事に選んだのは、紀州一の大富豪、日本一の山林地主である柳川家の当主とし子刀自の誘拐だった。ムショ仲間の正義と平太と協力し見事誘拐に成功した3人だったが、誘拐された82歳の老婦人は身代金が5000万円と聞くと激怒した。安すぎる、ふざけるな、身代金はきりよく100億や! ビタ一文負からんで……。

 スペースオペラでいうなら『お祖母ちゃんと宇宙海賊』。犯罪に巻き込まれた老嬢が、逆に犯人も警察も振り回して大暴れという話。
 1991年に岡本喜八監督で映画化され、劇場で観た私らは緒形拳と北林谷栄の対決、あごを振り回される嶋田久作、アイゼナッハ提督のような天本英世の指揮ぶり、樹木希林の猪突猛進などに爆笑したもんです。キャスト表を見ただけで泣けてくるような映画でしたが、先に原作を読んでいた(たぶん)はざまくんが「原作を読まなくてはいけません。それで映画が省略せざるを得なかった部分を埋めてこそ納得できる部分もあるのです」というものですから、トクマが映画とタイアップして出していた新書版を購入。
 映画もすごいけれど、こちらも傑作だよ!と最終的には文庫版の天藤真推理小説全集まで買いそろえてしまいましたが、それだけの価値はありました。レーザーディスクも買いました。DVDも買いました。手元に置いて何度も観て読んでは、ラストシーンに涙するのは職業柄なのかもしれません。
 書評やレビューでよく「本当に悪い人は出てこない作品」などと書いてありますが、ちょっと違う気がします。とし子刀自がしっぺ返しを食らわそうと一世一代の勝負に出た相手こそ本当の「悪いヤツ」なのではないでしょうか?

 つい最近の映画と思っていたけれど、気がつけば緒形拳も北林谷栄も天本英世も景山民夫も中谷一郎も鬼籍に入っていて寂しい限り。

【大誘拐】【天藤真】【営利誘拐】【生前贈与】【雑損失】【相続】

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