付け焼き刃の覚え書き

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「風柳荘のアン」 ルーシー・モード・モンゴメリ

2020-01-31 | その他フィクション
「愛する者がいれば、どんなに貧しくても、そんなことは、問題じゃないんです」
 メリルのおかみさんの言葉。

 サマーサイドの高等学校に校長として赴任したアン・シャーリー。しかし、なぜか彼女を嫌うプリングル一族は大人から子供まで嫌がらせや不服従、慇懃無礼な態度で、同僚の副校長も彼女に嫉妬してか非協力的だ。
 そんな四面楚歌の状態でも、アンはめげることなく、日常の日々に歓びを見いだしていく……。

 定番の村岡花子版でいう第5赤毛のアン「アンの幸福」で、アンが教師として赴任した先での3年間の物語。以前に集英社文庫から3冊目まで出ていたものが、文春文庫でリブートされての4冊目。レベッカ・デューが登場する巻。
 ときどき映画とかコミックなどで「今の若者は××の面白さや価値を分からない(もしかしたら存在そのものを知らない)」という年寄りの嘆きを聞きますが、それは共通認識となる知識がないから。新しいものは古いものを土台にして生まれてきますから、古いものより洗練されていて面白いのは当然で、古いものに面白さを見つけるなら当時の位置づけとか後に与えた影響とか分かってないと理解できるわけがないのです。でも、新しくて面白いものが幾らでもあるのに、わざわざ古いものを掘り起こすなんて……。
 そんなことを思ってしまう松本侑子の新訳版です。とにかく全体の1/4が注釈と解説という、当時の文化風俗・政治から引用されている聖書や小説や詩の原典解説まで詰め込んだ1冊。「ガス灯」とは石炭ガスを燃やす灯火という「そうか、もうこれさえ解説しないと分からない可能性が?」というレベルから、この言い回しはシェイクスピアの第4幕1場、184行のセリフ、これは保守党党首マクドナルドの有名な言葉のもじり、それは旧約聖書「伝導の書」第二章二節の引用とかびっしり。脚注で分かる、登場人物の出自や教養レベル……ですね。これくらいは当時の人なら読んで理解できたのかな。今のラノベでいうなら「認めたくないものだな、若さゆえの過ちというものは」というセリフとか黒髪黒衣で無双する剣士とかのモチーフを100年先に解説するようなものです。

 挿入されているエピソードのいくつかは、モンゴメリがそれまでにあちこちに発表していた短編を加筆して取り込んだものなんだそうな。過去に売れなかったものをパッケージ変えて再利用するあたり、モンゴメリもなかなかです。

【風柳荘のアン】【ルーシー・モード・モンゴメリ】【松本侑子】【文春文庫】【殉教者列伝】
 
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