付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

★少女マンガの中のSF(2)

2017-07-03 | 雑談・覚え書き
『樹魔』 水樹和佳/水樹和佳子(1979-1980)
 巨大な流星群によって壊滅的な打撃を受けた地球が、地球連邦政府を生みだし、少しずつ復興を進めている25世紀。南極で局地的な異常が観測された。温度が上昇し、植物が育ち始めているのだ。調査のため南極の地に降り立った<研究都市>の天才科学者イオ・フレミングは、謎の少女ディエンヌに出会う……。
 これを読んだのは初出の『ぶーけ』ではなく、1980年の「少年/少女SFマンガ競作大全集」に再録のとき。
 もともとは地球崩壊からの再生、植物の異常増殖と知性化を描いた短編『樹魔』ですが、これに人類の高次への進化を描いた完結編の『伝説』がセットになり、コミック化の際には『樹魔・伝説』と表記されるようになりますが、これを文庫にしたのがSF専門のハヤカワJAレーベルというあたりにSFファンの評価が伺い知れます。1981年度星雲賞コミック部門受賞作品というのも納得。

『夢みる惑星』 佐藤史生(1980-1984)
 大学のSFマニアの先輩に一推しされたのが、ポスト24年組の佐藤史生。掲載誌が「プチフラワー」というそれまで読んでいなかった雑誌だし、エルリックみたいに病的に見える絵柄は、誰かに勧められなければ読まず嫌いだったでしょう。
 ネットワーク上で意思を持った電子頭脳と大乗仏教や古神道の神々が争う『ワン・ゼロ』とか、巨大な世代間交易船で宇宙を旅する人々を描いた複合船シリーズとか、いかにも理知的な本格SFストーリーはマニア好みです。
 でも、好きな作品は、ジャック・ヴァンスの『竜を駆る種族』にインスパイアされたとおぼしき『夢みる惑星』。さまざまなドラゴンを家畜化し、使役したり戦争に使っている世界が舞台で、次期国王にもと期待され、宗教の中心である「谷」の大神官にも望まれた第一皇子イリスは、世界崩壊の危機を察知するが、それは既に個人でも国家でもどうにもならない段階にまで到達していた。彼は人の踊り子に心引かれていたが……という、1つの文明と種族が崩壊しようとする中で、公的な立場と私的な感情に折り合いをつけていく主人公の生き様が描かれます。

『記憶鮮明』 日渡早紀(1984-1999)
 ニューヨーク市内で連続する爆破事件。だが、その犯人を目撃したと思われる少女パセリ・モーガンは死んでしまった……ため、警察は彼女のクローンを再生して証言を引き出そうとした。ところが彼女の証言があやふやなため、2人目のクローンを用意したが、彼女の証言もあやふやで、さらに3人目が……。
 記憶は鮮明なのに、それは自分の記憶じゃないというシチュエーションをテーマにした作品。もともとコメディでデビューした作者ですが、そちらに疲れて「記憶鮮明」を書き、これがシリーズ化して、記憶鮮明2というべき転生テーマの『ぼくの地球を守って』が大ヒットしてしまい、「この作品はフィクションです!」とアナウンスしないといけなくなるほど、前世の仲間探しというスピリチュアル・ブームを引き起こしてしまいます。 

『ダークグリーン』 佐々木淳子(1982-1988)
 超能力SF『那由他』や宇宙漂流譚『ブレーメン5』など80年代に少女マンガ界でSF作品を発表し続けた佐々木淳子ですが、名前を知ったのは『ぱふ』だったか『奇想天外』だったか、SFやコミックの情報誌などがこうした少女マンガSFを後押ししていた感じがあります。SFファンなら青年マンガとか少女マンガとか気にせず読むのは当たり前だよねと。その代表作は『ダークグリーン』かな。
 世界中で同じ悪夢を見る人が多発した。この悪夢の中で死んでしまうと、現実でも死んでしまうという。このRドリームと呼ばれるようになった悪夢の中で戦士となった北斗は、生き延びるためにゼルと呼ばれる怪物と戦い続けることになるのだが……という、これは夢であってもゲームではないという作品。
 編集部的には問題があったらしく、「週刊少女コミック」から「コロネット」に掲載誌を変更しながら描き続け完結させることとなります。

『スター・レッド』 萩尾望都(1978-1979)
 萩尾望都のSF作品といえば『11人いる!』とか『銀の三角』とか多々ありますし、光瀬龍の『百億の昼と千億の夜』やレイ・ブラッドベリの『ウは宇宙船のウ』などの原作付も数手がけていますが、あえて挙げるのは『スター・レッド』。こちらも「週刊少女コミック」連載。
 昼は名門校のお嬢さまである徳永セイは、夜は暴走族のリーダーという顔を持つが、本当の彼女は火星に恋している。彼女の本名はセイ・ペンタ・テュパール。今は存在が抹消されている火星植民者は、過酷な環境に適応するための超能力を身につけており、それは世代を重ねる毎に強力になっていくが、セイはたった1人の第5世代(ペンタ)だった……ということで、みんなモノ・ジ・トリ・テトラ・ペンタとギリシャ語を口ずさむようになっていたのでした。
 『宇宙戦艦ヤマト2199』でも、放棄された火星コロニー出身という設定のキャラが白髪・赤い目というのは、たぶんレッド・セイがスタッフのイメージにあったのだと思います。

『あおいちゃんパニック!』 竹本泉(1983-1984)
 特にガチガチのSFファンではない青少年まで一気に転んだのが、竹本泉の描く『あおいちゃんパニック!』。
 中等部の2年に転入してきた早川あおいは、実は高重力の惑星出身の宇宙人の父親と地球人の母親のハーフの少女。隠しているつもりでも人間離れした身体能力は隠しようもなく、本人の性格もあって大騒ぎを引き起こす……という「あたりまえの学園生活に入り込んできた宇宙人」という、エブリデイマジック系スラップスティック・コメディ。
 自分の周囲では、みんなあおいちゃんの本名、チャチャ・モチャノチャ・ヌートの1は諳んじられてました。

『まるいち的風景』 柳原望(1995-2001)
 ロボットが日常生活に入り込んできた時代の悲喜こもごもなドラマを、主に開発者視点から描いたハートウォーミングなロボットSF。
 少女マンガに限らずマンガに登場するロボットというと、なにかと理想の恋人とか人類の天敵あるいは味方のように描かれることが多いのですが、ここで語られるロボット「まるいち」はあくまで産業機械。自意識も感情もなく、ただプログラミングされるままに行動するだけですが、そこに人間が勝手に思い入れをしたり、勝手に嫌ったりするだけなのです。それは自動車やパソコンといった新しい技術による道具がかつて通った道に過ぎません。
 モノはモノ。それに価値を与えるのは、あくまで使い手である人間でしかないのです。

『トラブル急行』 弓月光(1982)
 巨大貿易会社の社長の娘アルコは実家に連れ戻されるのを嫌い、宇宙飛行士養成学校にいた沢村騎士とパペッティア人ロップを道連れに逃走。漂着した先で古代文明の遺産と遭遇し、折り鶴型のバイオシップとその端末である女性アンドロイドのマスターとなったことから、アルコは運輸業を立ち上げる。宇宙船1隻・社員3名の零細企業ながら、高速輸送力と低コストと高い防御力を実現した運輸業はたちまち脚光を浴びるが、それを狙う宇宙海賊も少なくなかった……という、バイオシップ、パワードスーツ、パペッティア人、セクサロイドなどハインラインやニーブン系のSFガジェットがごろごろ出てきますが、あくまで少女マンガで掲載誌は「週刊マーガレット」。佐々木淳子もそうでしたが、あまり本格的になりすぎるとマニア評価は高くても、本来の読者層が置いてきぼりになり、編集部に切られちゃうのです。 

 お薦め本の紹介というのは、メディア的には今は「この××がすごい!」みたいに区分けされた切り口で内容紹介が語られることが多いけれど、80年代には『少年少女SFマンガ競作大全集』みたいな企画があり、少女マンガだろうが成人向け雑誌掲載の作品だろうがひとまとめに再録されていて、これを読んでいるだけで普通だったら手に取らない劇画誌や少女マンガの作品にも触れることができ、そこから沼にはまっていくようになっていたのです。
 最近の少女マンガSFというと、どんなのがあるでしょうか。最近は週刊の少女マンガ誌というもの自体が消滅しているし、マニアックな作品はマニアックな雑誌や発表媒体が普通にあります。そもそも自分が本や雑誌を読まなくなってきているので、すっかり世情に疎くなっています。
 文明社会が崩壊した未来でのサバイバル、田村由美の『7SEEDS』は無事に完結。清水玲子の『秘密』やよしながふみの『大奥』もSFといえばSFですよね。
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「神殺しの英雄と七つの誓約(エルメンヒルデ)7」 ウメ種

2017-07-03 | 異世界転移・召喚
「何かを殺すって事は、別の何かから恨まれるって事だ。それが魔族であれ魔物であれ、変わらない」

 魔王シェルファが生まれたての神ソルネアを掠い、神を殺す武器でもあるエルメンヒルデを奪ったのも、すべては神殺しの英雄である山田蓮司との決着をつけるため。彼と戦うことだけが、魔王の存在意義となっていた……。

 「英雄ではない」と言い張り続ける男の英雄譚もきっちり7巻にて決着。現代の日本的という意味で正統派のファンタジー英雄譚で、四半世紀前ならハヤカワFTのラインナップに加わっていても不思議ではありません。
 自分が願って手に入れた力、神を殺す武器“エルメンヒルデ”に固執するレンジの姿は、ある意味、ガラテアに恋をしたピグマリオンのようです。周囲の少女たちはみんな良い子たちなので、ピュグマリオンほど現実の女性に絶望してはいないと思うのですが。ちょっと悲しく思えないでもありません。
 後日譚は別にあるわけで、いずれそちらも書籍で読めるかと楽しみに待っています。

【神殺しの英雄と七つの誓約7】【ウメ種】【柴乃櫂人】【OVERLAP NOVELS】【本格異世界ファンタジー】【十三人と仲間達の平穏】
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