ホルマリンのマンネリ感

札幌出身苫小牧在住、ホルマリンです。怪しいスポット訪問、廃墟潜入、道内ミステリー情報、一人旅、昭和レトロなどなど…。

三十路記念の旅 西と南の果てへ その3

2024-01-27 00:13:34 | 旅行(道外)2020~
1日目 午後4時 ~縁と宴~



北海道苫小牧市を出発して約23時間、ようやく最初の目的地である与那国島へ到着した。
こぢんまりした空港から外へ出てみると車通りは少なく、ほとんど虫の鳴き声しか聞こえない。
以前訪問した利尻島でも驚いたものだが、やはり離島は静かである。

予約している民宿のおじさんが空港に迎えに来てくれるとの事で、先ほども電話で到着時間を伝えていたのだが、駐車場や車寄せに姿は見えず。
やや不安になったが、よく見ると空港前には送迎の車待ちと思しき旅人がチラホラいらっしゃる。
スマホで宿に電話中であろう筋肉質のおじさんが直観的に同じ宿泊場所だと感じ、もう少し様子を見てみることにした。

空港内のお土産屋さんなどを下見してから再び外へ出ると、建物の前に黒いミニバンが停まっていた。
宿のおじさんはこれまたガタイが良いという噂を聞いていたので、ひと目見てすぐに分かった。
無事に後部座席へと乗せてもらい、案の定、先ほどのおじさんも相乗り。
もう一人、助手席に物静かそうな70代くらいの男性を乗せて出発した。


1月だというのに車の窓が全開なのにびっくりだが、入ってくる風は生暖かい。
車窓から見える風景は高低差のある山肌に濃い緑が密集し、なにやら島のあちこちに神聖な場所がありそうだなという印象。

5分ほどで車は宿のある祖納(そない)の集落へ到着した。
ここが与那国島で最も栄えている場所のようだ。

車は1台通るのがやっとの入り組んだ住宅街へとスイスイ入ってゆく。
道中、島に数えるほどしかない共同売店や郵便局の場所を案内してくれる。
思ったよりも宿の周辺が開けていることに安心するが、やはり閉店時間は早い。
そして車は住宅街の中にある「旅の宿・阿檀」に到着した。


開けっ放しの正面玄関から3人一緒に中に入れてもらう。
まずはこの宿で今日、あすの2泊させてもらうのだが、宿のおじさんとの会話を聞くとあとの2人も同じ日程で、島を出るときの飛行機も同じ便のようだ。
さらに「自転車で島を観光」という明日の予定もどうやら一緒……。
これは集まるべくして集まった3人なのか、それともこの島へ訪れる旅人はみな考えることが一緒なのか。

案内された私の部屋は近ごろリフォームされたようで、とても綺麗であった。
部屋に入る前、2つ隣の部屋となった筋肉質のおじさんが「K岡です。また夜に話しましょう」と笑った。
似たような旅人に会えて嬉しそうである。明るそうな人だ。



午後5時。宿の食堂での夕食は午後7時との事で、まだ時間があるので宿の周辺を散歩してみることにした。
集落の向こうに見えるのは標高231メートルの「宇良部岳」。日本最西端の山で、世界最大の蛾「ヨナグニサン」の重要な生息地になっているとのこと。
高い建物がないので高さが際立っているのかもしれないが、与那国島にこんな立派な山があったのか。


人通りが少ない集落内は静かだが、あちこちから微かに草刈りの音が聞こえるのがこれまた南国らしい。
私は部外者なので、すれちがう方々には極力挨拶を心掛けた。
緩やかな坂を下り、島のメイン通りを目指す。





途中、民家の壁に与那国の地酒「どなん」の手書き看板があった。
沖縄といえば泡盛。こちらは島内にある日本最西端の酒造所・国泉泡盛の名産品で「国境の酒」ともいわれる。
遠く離れた沖縄本島や九州へは渡りにくく「渡難」と呼ばれたのが名前の由来なのだとか。
なかでも台湾の影響を受けたといわれる度数60度の「花酒」は、琉球王国時代からの由緒ある酒だという特例扱いで島内でのみ製造が許されている。


メイン通りに出ると、程なく与那国町役場の庁舎を見つけた。日曜日なのでしんと静まり返っている。
島に消防署が無いため、庁舎の前には公用車と一緒に消防車両が2台待機している。


メイン通りを挟んで南側までもう少し足を延ばしてみる。
所々に見られる赤い瓦屋根の平屋や、石灰岩を積んだ石垣が沖縄らしく風情がある。
生暖かい風に乗って漂う南国の植物の匂いは、2018年に冒険した四国も思い出し懐かしい。
足元を見ると、ヨナグニサンや名産のカジキなどがデザインされた日本最西端のマンホール。



壁のようにそびえる急崖の向こう側へ、太陽が徐々に見えなくなってきていた。
少し早いが、これが日本で一番遅い夕陽か……。感慨深い。


午後7時、夕食の時間になったので宿の食堂へ向かった。
この日の宿泊者は10人ほどいたようで、予想に反して賑わっていた。


この日のメニューは鶏肉の煮込み料理にホッケのフライ、沖縄そばなどかなりボリュームがある。
程なくして、先ほど一緒に宿に着いたK岡さんと男性が入ってきて私の隣に着席した。
3人とも先ほど顔を合わせているので自然と会話が始まる。

K岡さんは神戸在住の自営業で、貿易系の仕事で世界中を飛び回っているらしい。
昨年末に与那国島の海底遺跡と、島の山中に巨大な「人面岩」があるという情報をたまたま見つけて、居てもたってもいられずすぐさま来島を決意。
「日本人のルーツと琉球王国の謎を解明しに来た」という。
どうやら文化人類学やオカルト系に造詣が深いようだ。

与那国の海底遺跡は有名だが、人面岩は今日の今日まで全く知らなかった。
調べてみると、確かに自然形成されたとは思えぬ不可思議な形の巨大岩が熱帯林の中にあるらしい。
今回の旅の最大の目的はこの人面岩を見ることだそう。

もう一人の70代くらいの男性はN村さんといい、京都からの来島。
静かそうな見た目だったが全国各地でフルマラソン参加経験があり、現在はアルバイトでお金を貯めながらの離島めぐりが趣味という。
最南端の波照間島は先日訪問済みだが、ここ最西端の与那国島は今回が初。
中々アグレッシブな人で話が合う。ちなみに北海道にも幾度となく来道経験があるとか。

3人で話が盛り上がり、酒好きのN村さんが先ほど商店で入手した「どなん」(30度)を持ち寄る。
私は明日に影響するのが怖いのでひと口だけで失礼したが、意外にも飲みやすい印象を受けた。

K岡さんはこれぞ旅の醍醐味とばかりにロック割でどんどん飲み、さらに陽気に。
「ヒグラシの声を美しいと感じるのはポリネシア人と日本人だけなんですよ!」とだんだんテーマが壮大になってきた。
西の果てでの最初の夜は意外と長くなりそうだ……。

次回、いよいよ日本最西端の地へ。
続く。
コメント
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