(「河北新報」令和5年1月10日付け記事より引用)
貸し農園85カ所で5,000人労働
法定雇用率目的800者利用
法律で義務付けられた障害者雇用を巡り、企業に貸農園などの働く場を提供し、就労を希望する障害者も紹介して雇用を事実上代行するビジネスが急増していることが9日、厚生労働省の調査や共同通信の取材で分かった。十数事業者が各地の計85力所で事業を展開。利用企業は全国で約800社、働く阻害者は約5千人に上る。 (2面に関連記事)
大半の企業の本業は農業とは無関係で、障害者を雇うために農作物の栽培を開始。作物は販売せず、社員に無料で配布するケースが多い。違法ではないが「障害者の法定雇用率を形式上満たすためで、本当の意味での雇用や労働とは言えない」との指摘が相次ぎ、国会も問題視。厚労省は3月までに対応策を打ち出す方針だ。
多くの企業は障害者に適した仕事を用意し、法定率に見合った人数を雇うのに苦労している。
代行ビジネスは2010年ごろに現れ、事業者、農園数とも年々増加。事業者が働きたい障害者と指導役を募集し、企業に紹介②企業が障害者らと雇用契約を結び、事業者に人材紹介料や農園の利用料などを支払う仕組みだ。農園には複数の企業の障害者が集められ、給与は各企業から支払われる。働くのは知的、精神障害者が多い。
事業者によって運営方法や料金は異なる点もあり、厚労省は昨年1月から全国の労働局を通じて実態を調査。農園は昨年11月末現在、首都圏や愛知県、大阪府、九州を中心に85力所あった。東北6県では宮城の1カ所のみ。利用企業は東京など大都市圏が多く、大手の有名企業も複数利用している。
背景には、障害者雇用促進法に基づき一定規模の企業に義務付けられる雇用率が近年、引き上げられてきたことがある。10年前は1.8%だったが現在は2.3%。法定率を満たしていないと、企業は法令順守を問われるほか、官公庁の入札で不利になることもある。
障害者側にとっても福祉目的の作業所での工賃が全国平均で月約1万6千円にとどまる一方、企業に雇用されれば十数万円の月給が得られ、金銭面ではメリットがある。
ただ障害者団体からは批判が多く、衆参両院は昨年12月に成立した改正法の付帯決議で、代行ビジネスを利用しないよう企業の指導などを検討することを政府に求めた。
柔らかな排除
日本障害者協議会の藤井克徳代表の話
「法律は守らないといけないけど、障害者を雇うのは面倒だ」という企業の意識が透けて見える。利用企業のモラルに問題がある。働いて生み出した成果物が賃金につながっておらず、本当の意味での「働く」とは言えないだろう。法定雇用率という量は満たしていても、雇用の質は置き去りにされている。気付きにくい柔らかな形だが、本質的には障害者の排除だ。企業には、障害者の能力が足りない部分を補う工夫や配慮をもっと求めたい。障害者が働いても十分な収入が得られない状況につけ込まれており、福祉事業者の努力や公的な所得保障の拡充も必要だ。
試行錯誤重ね真の共生を
【解説】貸農園などで障害者雇用を事実上代行するビジネスを巡っては、障害者の福祉や就労支援に取り組む人たちの間で以前から、違和感を訴える声が上がっていた。企業の本業に貢献できる形で一般の社員と共に働き、障害者が働きやすいよう試行錯誤を重ねることで真の共生につなげるのが理想、との考え方があるからだ。
通常の雇用手法としては、障害者ができる業務を切り出したり環境を整えたりして、元々ある仕事を担ってもらうという形が主流だ。だが時間や手間、ノウハウが必要になる。代行ビジネスが生まれた背景には、そうした事情もある。
利用企業は法定雇用率を達成でき、障害者は企業の社員という立場と給与を得られる。ビジネス事業者は利益を上げられ、産業が少ない地域では雇用の受け皿にもなる。一見、誰も損をしていないことが問題を分かりにくくしている。
だが、本来なら別の形で働ける人が代行ビジネスに流れ、本人の成長や労働力としての活用を妨げている可能性がある。長い目で見れば社会の損失にもなりかねない。
貸し農園85カ所で5,000人労働
法定雇用率目的800者利用
法律で義務付けられた障害者雇用を巡り、企業に貸農園などの働く場を提供し、就労を希望する障害者も紹介して雇用を事実上代行するビジネスが急増していることが9日、厚生労働省の調査や共同通信の取材で分かった。十数事業者が各地の計85力所で事業を展開。利用企業は全国で約800社、働く阻害者は約5千人に上る。 (2面に関連記事)
大半の企業の本業は農業とは無関係で、障害者を雇うために農作物の栽培を開始。作物は販売せず、社員に無料で配布するケースが多い。違法ではないが「障害者の法定雇用率を形式上満たすためで、本当の意味での雇用や労働とは言えない」との指摘が相次ぎ、国会も問題視。厚労省は3月までに対応策を打ち出す方針だ。
多くの企業は障害者に適した仕事を用意し、法定率に見合った人数を雇うのに苦労している。
代行ビジネスは2010年ごろに現れ、事業者、農園数とも年々増加。事業者が働きたい障害者と指導役を募集し、企業に紹介②企業が障害者らと雇用契約を結び、事業者に人材紹介料や農園の利用料などを支払う仕組みだ。農園には複数の企業の障害者が集められ、給与は各企業から支払われる。働くのは知的、精神障害者が多い。
事業者によって運営方法や料金は異なる点もあり、厚労省は昨年1月から全国の労働局を通じて実態を調査。農園は昨年11月末現在、首都圏や愛知県、大阪府、九州を中心に85力所あった。東北6県では宮城の1カ所のみ。利用企業は東京など大都市圏が多く、大手の有名企業も複数利用している。
背景には、障害者雇用促進法に基づき一定規模の企業に義務付けられる雇用率が近年、引き上げられてきたことがある。10年前は1.8%だったが現在は2.3%。法定率を満たしていないと、企業は法令順守を問われるほか、官公庁の入札で不利になることもある。
障害者側にとっても福祉目的の作業所での工賃が全国平均で月約1万6千円にとどまる一方、企業に雇用されれば十数万円の月給が得られ、金銭面ではメリットがある。
ただ障害者団体からは批判が多く、衆参両院は昨年12月に成立した改正法の付帯決議で、代行ビジネスを利用しないよう企業の指導などを検討することを政府に求めた。
柔らかな排除
日本障害者協議会の藤井克徳代表の話
「法律は守らないといけないけど、障害者を雇うのは面倒だ」という企業の意識が透けて見える。利用企業のモラルに問題がある。働いて生み出した成果物が賃金につながっておらず、本当の意味での「働く」とは言えないだろう。法定雇用率という量は満たしていても、雇用の質は置き去りにされている。気付きにくい柔らかな形だが、本質的には障害者の排除だ。企業には、障害者の能力が足りない部分を補う工夫や配慮をもっと求めたい。障害者が働いても十分な収入が得られない状況につけ込まれており、福祉事業者の努力や公的な所得保障の拡充も必要だ。
試行錯誤重ね真の共生を
【解説】貸農園などで障害者雇用を事実上代行するビジネスを巡っては、障害者の福祉や就労支援に取り組む人たちの間で以前から、違和感を訴える声が上がっていた。企業の本業に貢献できる形で一般の社員と共に働き、障害者が働きやすいよう試行錯誤を重ねることで真の共生につなげるのが理想、との考え方があるからだ。
通常の雇用手法としては、障害者ができる業務を切り出したり環境を整えたりして、元々ある仕事を担ってもらうという形が主流だ。だが時間や手間、ノウハウが必要になる。代行ビジネスが生まれた背景には、そうした事情もある。
利用企業は法定雇用率を達成でき、障害者は企業の社員という立場と給与を得られる。ビジネス事業者は利益を上げられ、産業が少ない地域では雇用の受け皿にもなる。一見、誰も損をしていないことが問題を分かりにくくしている。
だが、本来なら別の形で働ける人が代行ビジネスに流れ、本人の成長や労働力としての活用を妨げている可能性がある。長い目で見れば社会の損失にもなりかねない。