消えゆく霧のごとく(クンちゃん山荘ほっちゃれ日記)   ほっちゃれ、とは、ほっちゃれ!

きらきら輝く相模湾。はるか東には房総半島の黒い連なり。同じようでいて、毎日変わる景色。きょうも穏やかな日でありますよう。

高村薫『冷血』 その1

2022年01月24日 12時12分02秒 | 読書の楽しみ、読書の...


 高村さんの作品にはぐぐっと引き込まれることがしばしばあるのですが、この『冷血』は作中に出てくる場所という場所が文字どおりすべておらの見知った所、土地勘のある場所でしたので、上下を一気に読了してしまいました。
 
 埼玉・本庄の利根川端で育ち、川崎のパチスロ店員を辞めたばかりの若い男Aが、「大きな仕事 (犯罪) をしよう」とインターネットの裏サイト (ほんまにそんなもんがあるんやろか!) で呼びかけたところ、東京・板橋の新聞配達員で三重・四日市港近くで育ったやはり若い男Bが応じてくる。ふたりは、池袋駅西口の広場で落ち合った後、東京の郊外をぐるりと回る国道16号線沿いに“獲物”を求めて車で走り巡る。深夜、東京・町田の高ヶ坂郵便局のATMを重機を使って強奪しようとしたりするが、はかばかしくなく、相模原などで何件かのコンビニ強盗には手を染めた。それは“成功”するが、目論んでいた「大きな仕事」には程遠いために、ふたりは言うに言われぬフラストレーションを抱えることになる。
 
 というわけで、ふたりは結局、東京・赤羽駅から近い古い住宅地にある、夫婦ともに歯医者である旧家に深夜侵入して盗みを企てるのですが、忍び込んでみれば留守であるとの予想に反して家人が起きてきたため、まったく思いがけないことに一家四人、夫婦と子どもふたりを惨殺してしまう結果になってしまうというプロットなのです。
 作品は、この犯罪の前後を、ふたりの生い立ちはもとより、犯行後の捜査から裁判、判決、Bの病死、Aの死刑執行、までを詳細に描いていくのですが、おらがこの作品を取り上げたのは、実はこの本筋ではなく、まったく別の記述に心ひかれたからなのです。
 
 それは、捕らわれた犯人Aの求めに応じて、主役の刑事が差し入れる書籍類の中にたまたま赤松宗旦著、柳田國男校訂『利根川図志』という江戸末期の地誌があったことがひとつ。また、犯人Bがいたく愛していた映画として『パリ、テキサス』があげられていたことです。主役のナスターシャ・キンスキーにひどく思い入れがあったというくだりを読むやいなや、おらの中の時計が急速に逆回転していくのを感じたのです。
 
 というわけで、次回は『利根川図志』について、その次は『パリ、テキサス』について、ほんの少しだけ書いてみたいと思います。じゃね!

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