静かの海

この海は水もなく風も吹かない。あるのは静謐。だが太陽から借りた光で輝き、文字が躍る。

「古代ローマ帝国の遺産」展をみる

2009-09-26 11:14:05 | 日記
 昨日(09・9・25)上野の西洋美術館に『古代ローマ帝国の遺産」展を見にゆく。上野公園は久しぶり。公園の中央あたりの道路上で、中国雑技団のメンバーと称する7~8人が、すり切れたようなテープの音楽に合わせて、アクロバットを披露していた。一番若い少女は16歳とか。人間業とも思えない妙技。終わって少女たちが小皿を持って回ったが集まる銭は少ない。
 さて展覧会のこと。この種の展覧会としては珍しく空いていて、ゆっくり思う存分鑑賞できたのは幸せであった。主催は国立西洋美術館、東京新聞、NHKである。あまり熱心に宣伝しなかったのか・・・それが幸いした。
 出品はナポリ国立考古学博物館のものが中心で、あとはポンペイ考古収蔵庫、その他から若干。ナポリ考古学博物館などは、そう簡単に行ける所ではないだけに幸せであった。最近の美術展会場は薄暗く作品だけにライトを当てるところが多い。まるでバロック絵画のように。今回の会場は部屋全体が適当な明るさで、その明るさは、大理石の塑像の美しさを見事に提示していた。出展品はナポリ博物館所蔵のごく一部に過ぎないだろうが、このくらいが丁度いいのかも知れない。あせらずに一つ一つの作品に落ち着いて対峙することができた。「カリアテッド」もよかったし、「アルテミス」像もすばらしかった。特別出品として新しく発掘された「アレッツォのミネルヴァ」と題するブロンズの像も望外だったし、近年発掘のソンマ・ヴェスヴィアーナ出土の「豹を抱くディオニュソス」も実に美しい作品であった。きっと、まだまだ美しい作品が地下に眠っていることだろう。また、ポンペイ出土の「モザイクの噴水」の幻想的な華麗さにはど肝を抜かされるほどであった。
 古代のローマではあちこちの公共広場、バシリカ、神殿、競技場、劇場、浴場などにの公共施設に無数といっていいほどの肖像が飾られていたという。昼も暗くなるほど彫像が市中に林立していたとも・・・誇張であろうが。もちろん宮殿や裕福な個人の邸宅の中に取り込まれてしまう作品もあっただろうが、多くが大衆の目に触れる場所に飾られた。たとえば、ほんの臨時に作られたスカウルスの劇場に3000体の青銅像が立ち並んだという。このような世界は決して再び現れないだろう。『イーリアス』や『オデュッセイア』の世界だってそうだ。
 始めに、ナポリでなく東京でこれを見られたのは幸せだと書いた。たまたま私が首都圏に住んでいたので比較的容易だったに過ぎない。その「幸せ」も多分幻影だろう。人の幸不幸は容易に判断できるものではない。


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