静かの海

この海は水もなく風も吹かない。あるのは静謐。だが太陽から借りた光で輝き、文字が躍る。

機能しない民主主義

2014-01-16 04:02:10 | 日記

   1401機能しない民主主義

                         (1401)

                       2014・01・18

(一)

 原水爆禁止2013年世界大会に来日したオリバー・ストーン映画監督は次のような感想を述べた。

 今、アジアではかってなく軍拡が進んでいることを懸念している。中国と対抗するオバマ政権の「アジア基軸」戦略は世界にとって危険である。日本は米国の手先になっているが・・・米国との軍事同盟から脱退し、世界に対する道徳的な権威となり、東アジアに平和をもたらしてほしい。「脱オバマ」を追求してほしい。

 また、オリバー・ストーン監督と共に「もうひとつのアメリカ史」を制作したアメリカン大学歴史学科准教授のピーター・カズニック氏は、アメリカン大学と立命館大学共催の「平和の旅」でストーン監督と合流して広島・長崎・沖縄を訪れた。そのおり彼は次のように述べた。

 「変化」が期待されたオバマ政権は、最近になってブッシュ政権の元報道官が「ブッシュが4期目を勤めているようだ」と言ったほど、ブッシュ政権のひどい政策のいくつかを合法化、組織化した。(スノーデン事件に関連して)・・・多くのアメリカ人にとって、とどめの一撃だった・・・オバマ大統領は内部者らを前例がないほど凶暴に訴追している。カーター元大統領は「アメリカでは現在、民主政治が機能していない」と述べている。さらにオバマ大統領は、世界各国に米軍基地をつくって「米軍事基地帝国」を維持している。

オバマ氏も散々である、身から出た錆びと云えばそれまでかもしれないが。一方、安倍首相は、国内で愛想つかされているオバマ氏から「失望」されてしまった。だけど安倍さんは意気軒昂、馬耳東風、蛙の面に小便、なにしろ、歴代首相と比較しても世論調査の支持率はそんなに低下していないらしい。とくに財界の支持は圧倒的とのこと。戦前の政党政治を支えたのは農村における地主階級と都市におけるブルジョアジーだったが今日においては財界といわれる金権の大勢力である。株価は上がる、輸出は伸びる、巨大な富の源泉である原子力産業は再浮揚し、沖縄県知事は金権の前に屈服した。

 (二)

「ヒトラーは、ドイツ人の魂のなかに強烈な宗教的力を覚醒し動員することに成功する。私は、ヒトラーに深い宗教的感動を覚えたドイツの若い(福音派)神学者たち、そして教師、学生、大学教授、市民、小市民、少年少女との出会いを絶対に忘れないだろう。と同時に、あらゆる年齢層のカトリック婦人、これも見逃すわけにはいかない。・・・良きカトリックの徒にふさわしく、女性を人的資源として、一丸となった信仰の潜在力として利用することを心得ていた。心の底から何百万という婦人がヒトラーに投票した。ヒトラーは、自分が彼女らの『魂の花婿』であることをわきまえていた。(カトリックの教会歌はイエスを『甘美なる魂の花婿』と名づける)(フリードリッヒ・ヘール『われらのヨーロッパ』311ページ)。

新聞記事に次のようなのがあった(13/12/26,毎日)。

「今年7月11日午後。鹿児島市のJR鹿児島中央駅構内は、平日だというのに数千人が集まり、身動きがとれないほどだった。安倍晋三首相が改札口に姿を現すや、『キャー』『安倍さーん』と歓声が沸いた・・・」。かつての「純ちゃーん」と同じだ。この記事には、福井市を訪れたときの、人の波でもみくちゃになっている姿の写真もついていた。私は以前、戦後日本のファシズムは小泉首相のときから具体的姿を現し始めたのではないかという意味のことを書いた。「安倍さーん」は「純ちゃーん」の発展形態である。

「誰も気づかないでおわった。あの手口に学んだらどうかね」・・・麻生副総理の歴史的発言である。おばちゃんたちの狂躁は静かではないが、気づかせないで事を運ぶには最適である。 

一昨年末総選挙での自民党圧勝は、この狂躁の賜物である。出始めにこそ憲法96条改訂でつまずいたけれども、あとは順風満帆、向うところ敵なしという勢いで参院選挙でも圧勝した。安倍内閣は、秘密保護法で若干つまずいたけれどもまだまだ支持率は高い。首相も自信満々、12月26日には靖国参拝まで果たして一層の自信を得たようだ。12月30日、安倍首相は東京金融市場の大納会に、現役の首相としては初めて出席、「来年もアベノミクスは買いだ」と喜色満面で演説し、財界と息のあった姿を国民に披露した、それの姿を披露したのはもちろん大メディアで。年の瀬、一国の首相とあろう者は、まず、凍てつく大地の上で寒さと空腹に苦しむホームレスの人たちを訪れるのが順序だろう・・・そう感じた人も少なくはないと思うが。

(三)

 戦前、日本は立憲君主国であった。曲りなりにも司法、行政、立法の三権があり法治国家の体をなし、政党政治も行なわれていた。大正期から昭和初期にかけての教育行政などには、今日の硬直した権力的行政よりも自由闊達な側面もあった。そういう自由な面を発展させることも可能な筈だったが、それを日本型ファシズムが蹂躙した。「満州事変」から「支那事変」、そして「大東亜戦争」へと民族の狂騒は高まった。

 ワイマール憲法は当時世界一民主的な憲法だといわれた。ナチズムはその中から生まれた。言い換えれば、ナチズムはワイマール憲法の申し子である。つまり、民主主義の申し子みたいなものである。もっと明確に言えば、民主主義がファシズムを生み出した。人は詭弁だというだろう。だが、かつて戸坂潤はこういった「合法的な議会政治主義が、如何に合法的にファシズムそのものを齎したか・・・」(『日本イデオロギー論』)。戸坂は「治安維持法」という議会で制定された法律によって検挙され獄死に追い込まれた。麻生氏は、身内の会合だからか、うっかり本音を漏らした、これは彼が国民を見くびっているからだろう。だが歴史は確かに合法的にファシズムが齎らされる可能性を示している。

 (四)

いまや安倍内閣の独裁が可能になった。この政権の誕生にあたって、鳩山・菅・野田と続く民主党政権が貢献したことは誰もが認めるところだ。

 戸坂潤は「社会民主主義がファシスト政権の確立に如何に絶対不可欠な要因であったかは、イタリア・ドイツ・その他の国の歴史的前例で判断することが出来る」と述べた。これは戦前の外国の例である。今の日本の民主党がそうだと今はいわない。しかし、なんと見事に安倍政権の登場の花道を用意したことか。とくに野田政権は、なんと見事に主役登場の露払いを果たしたことか。ところが元首相の細川護煕氏が野田宰相誕生に奔走したと聞いて驚いた(1/17「毎日」夕刊)。間接的に細川氏は安倍政権誕生に貢献したわけだ。その野田氏は、細川氏の脱原発の旗幟を明確にすべきだという忠告に耳を貸さず、原発事故の終息宣言を出し、公約を無視して消費税増税に踏み出した。

 そして安倍自民党政権誕生の花道をしつらえたのは誰であったか。大手のマスメディアである。ずっと以前から、小選挙区制にもとづく二大政党政治こそが民主政治の正しいあり方であるなどと、大キャンペーンを張り続けた、くりかえし、くりかえし。

カーター氏は「アメリカでは現在、民主政治が機能していない」というが、もともとアメリカの民主主義というものは、そんな程度のものなのだ。アメリカやイギリスなどの二大政党政治が非民主的であることは学校でも教えてくれる。

(五)

 東京都の知事選が行なわれることになった。東京や大阪の知事選では、タレントやタレント的な大衆的人気のある人物が当選するという風潮が長く続いている。マスメディア特にテレビ、タレント、世論調査が大切にされ尊重される。これが近代の民主主義である。民主主義は素晴らしいものだと勘違いしている人たちの信仰にもとづく。

ヒトラーもムッソリーニも東条英機もマスコミの寵児だった。その内、東条英機はそのカリスマ性をまだ失ってはいない。神として祀られ、総理大臣その他の大臣、国会議員などが群れを成して参拝する。安倍首相の靖国参拝に賛成が七〇%以上という世論調査もあるらしい。特に青年層の支持率が高いとも言われる。

 そういう情勢の中で、元首相の細川氏が、原発反対の一点で小泉元首相とタッグを組んで立候補するという。

 ヒトラーだっていいことを言った。国民の健康管理や社会保障などでなかなか立派な提案をし実行もした。それがファシズムへの道を踏み固めた。耳障りのいい演説で民衆を惹きつける。民衆は、ハーメルンの笛吹き男についてゆくように奈落の底へとついてゆくのだ。日本民族は明治以降、日清戦争・日露戦争・第一次大戦・シベリア出兵・満州事変・日中戦争・太平洋戦争と、ハーメルンの笛を聴きながら破滅への道を歩んできた過去をもつ。