一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

新刊、旧刊とりまぜて
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『地政学入門』を読む。

2006-04-28 01:56:50 | Book Review
本書の初版は、1984年刊行であるから、データ等にはいくぶん古い点がある(特に、旧ソ連関係)。
けれども、小生が、本書を読もうとした動機は、「黒船来航」を「地政学」では、どのように捉えているかを知るためだった。つまりは、19世紀半ばのアメリカ合衆国の外交的意図はどの辺にあるかを、「地政学」で明らかにしているのではないか、と思ったからである。
したがって、旧ソ連に関する部分のデータが古くとも、何ら差し支えないのだが、19世紀中葉のアメリカ合衆国の外交に関する記述がなければ、意味がなくなる。

本書の「第三章 アメリカの地政学」を読んでみる。

まずは〈モンロー主義〉の説明。
「一八二三年に大統領モンローが議会への教書のなかで対ヨーロッパ外交の基本方針を声明した」
その基本方針が、〈モンロー主義〉と呼ばれるもので、
次の3原則からなる。
(1)非植民の原則:南北アメリカ大陸に対する植民地活動の禁止。
 *当時は、太平洋岸を南下しようとするロシア帝国の活動と、それに対抗しようとするスペインのカリフォルニアでの活動が見られた。
(2)非干渉の原則
(3)非介入の原則
つまりは、ヨーロッパとは独自に、アメリカ大陸の活動が行なわれるべきであるとの原則である。

その後、
「アメリカ合衆国においては、その大西洋的な構成要素と太平洋的なそれとをどう調和させるか、という政治的な大問題の発生ををみた。これは、単に文化上の摩擦という理由ばかりでなく、同時に国防上の配慮からも、まさに深刻な考察の対象にならずにはいない。」
「独特のモンロー主義という地政学的な理論は、最初は新大陸にたいする旧半球の政治的干渉を排除することから出発したが、やがて世紀の変わりめ頃から、東半球(イースタン・ヘミスフィア)の勢力に対抗して、西半球(ウェスタン・ヘミスフィア)、つまり南北両アメリカの自主性をいかにして保つか、という新しい命題に対処することを迫られるようになった。」

次に〈モンロー主義〉を受け継いでの「シオドア・ルーズベルト大統領の一九〇四年の年次教書でのべた見解」、つまり〈ルーズベルト・コロラリー〉。
「われわれは、モンロー主義を主張し……極東において戦場を限定するために努力をし、さらに中国の門戸開放を維持することによって、合衆国自身と人類全体の利益のために行動した」
合衆国の極東外交の方針、
「中国の領土保全と政治的独立の保持」
である。

さて、こうして見てくると、〈黒船来航〉は必ずしも合衆国の大方針に基づくものではないことが明らかになる。
〈モンロー主義〉は、あくまでも旧大陸(ヨーロッパ諸国)からと新大陸(南北アメリカ諸国)とを分離させようとするものであり、〈ルーズベルト・コロラリー〉は、〈黒船来航〉より時代的に後の方針だからである。

したがって、〈黒船来航〉は、南北戦争後の合衆国の西部への発展の延長線上にしか考えられないのだが……。

ちなみに、著者には『ペリーは、なぜ日本 に来たか』(新潮選書)なる著作があるようであるので、次にはそちらに当ってみたい。

曽村保信
『地政学入門―外交戦略の政治学』
中公新書
定価:本体660円(税別)
ISBN4121007212