のんびりかな打ち日記  ini's blog

NikonD7100やSonyRX100M3で撮影した画像と日々の出来事を“ かな入力 ”でのんびり綴るブログです。

さまよう刃

2008-08-07 07:49:47 | 通勤快読

今野敏さんのライト感覚な小説ばかりもなんなので、久々にずっしりテーマの重い東野圭吾さんのさまよう刃を読みました。
凶悪犯罪、少年犯罪の多発する今の日本に対して、とてもタイムリーに問題を投げかける小説です。著者の主張が強く伝わってきますね。

愛する一人娘を強姦され殺された父親が、警察よりも先に犯人にたどりつく、犯人は未成年、法の裁きを受けさせることもできるが、それが遺族にとっていたたまれない結果を招くことは目に見えている。そして父親は“冷静に考えて”復讐する道を選ぶ。

犯人が未成年でもなければ、少なくとも日本にはまだ死刑という判決があります。
もちろんどんな判決が出ようとも殺された娘が帰ってくるわけではないし、気がおさまることもありません。
でも法の裁きを受けさせるよりどころは、せめて憎い凶悪犯人に対する死刑判決かも知れません。

その意味でこの小説は、死刑制度の是非論を一蹴しているところもあります。
この上、死刑制度まで廃止されたなら凶悪犯罪の被害者の遺族はたまらない、もう自分で復讐するしかないんじゃないのか。そんな主張も感じます。

この父親が犯人の一人を殺し、もう一人の犯人を追う間、当然、父親もまた一人の人間を殺した殺人犯として警察に追われます。

ここで読者はこの父親がもう一人の犯人を見つけて復讐をとげさせてやりたいか、先に警察に捕まって犯罪を重ねるのを止めさせたいか、読者自身の気持ちが問われているように感じます。
私はもちろん、この父親に復讐を遂げさせてやりたい、それまでは警察に捕まって欲しくないと思って読み進みました。
大半の読者がそう思うのではないでしょうか。そしてそう思わせることこそが著者の狙いでしょう。
なぜなら、その思いはすでに今の世の中では間違っているとされているからですね。
気持ちの矛盾を起こさせてあらためて問題点を見つめさせる手法でしょうか。
そのために犯人の少年はあくまで悪人に、そして父親はあくまで善人として書かれています。
実際はそこまで明確ではないから難しいのですが。
とにかく少々荒削りな部分も勢いで読まされてしまう内容です。
ラストはやや端折った感がありますが、著者としては結末以前に目的を果たしているのかも知れません。