6月1日の日記で取り上げた西部ゼミナール(5月28日)では西部氏を含めて4人の議論でしたが、内容は西部氏の発言(おしゃべり)が大部分でした。西部氏は原発問題に関連して「技術は安全なはずがない」という論旨で、一見公平な立場を装いながら、実はお粗末な原発擁護論を展開していることをはしなくも露呈していました。
今回は、同ゼミナールにおいて発言は少ないのですが、京大大学院教授の佐伯啓思氏の発言を取り上げておきます。彼が原発推進論者であるかどうかは知りませんが、彼の経済面から原発擁護論には聞き捨てならないものがあります。彼の言説は、彼だけにとどまらず原発推進論者の一般的知識人に共通するものです。
佐伯教授の発言:
原発の問題というのは、例えば少し前までは、基本的に火力発電でやってきた。火力発電の場合は非常にコストが高くつく。化石燃料は資源が枯渇するので価格が上がってくる。環境問題とコストが高い。
その代替エネルギーとして原発になってきた。原発ははコストが非常に安くつく、しかも古い原発は、減価償却を終ってしまうと、ほんとうに物凄く安いらしいですから、原発というのは、コストを抑えて電気料を抑えて、我々は利益を上げて、我々はいい生活をしようという経済のメカニズムが、一方にあって、もしそれを認めるなら、原発を認めなきゃしようがない。原発を認めないなら、こういう生活スタイルを変えるというふうに考えなきゃーしようがない。それは大きな選択の問題です。
佐伯氏の言説は、原発に対して余りにも無知で、しかも経済性を重視しすぎた見方である。通常の工場と同等の原価償却のことしか頭にない。古い原発ほど危ない、原発の場合は少なくとも減価償却が終れば廃炉にするべきである。
日本原子力発電は今月3日、微量の放射性ガスが外部に漏れた敦賀原発2号機(福井県敦賀市)のトラブルは、放射性ガスが通る配管に33カ所の微小な穴が開いていたことが原因と発表した。同社は1987年の運転開始以来、この配管の点検をしていなかったことも明らかにした。【共同通信】
2004年8月9日、福井県美浜町の関西電力美浜原子力発電所3号機(加圧水型軽水炉、出力82万6千キロワット)で、突然2次冷却系復水管が破断した。この事故で建屋で作業をしていた221人の内、11人がやけどを負って病院に運ばれ、5人が死亡、1人重体、5人が重軽傷という、運転中の原発の事故としては過去最悪の事故となった。この冷却用パイプは 本来は肉厚約1センチあるはずのものが、最小で約1・4ミリまで磨耗していた。この事故は、老朽化した原発を無理やり稼動させたことによるものである。
最大の問題は、高温高圧下で水流が乱れる場所で「減肉磨耗」が起こり得ることが工学的に予想されていたにも関わらず、破断部分は3号機が運転を始めた1976年以降、一度も点検されていなかったことだ。なんという杜撰な管理であるか呆れるしかない。
原発は冷却用パイプが施設内を張り巡らされており、物理的衝撃(地震を含む)に弱いことは素人でもわかる。そして現実にこれまで起きている事故の殆どすべてが、パイプに関連する事故であることが、それを裏付けている。情報によると福島原発では、施設内に約80kmのパイプが張りめぐらされていると言う。
佐伯氏の言う、「原発の経済性及び枯渇する化石燃料資源の視点」が如何に杜撰なものであるか、5月26日文化放送、吉田照美氏が小出裕章助教にインタビューしている内容を以下に書き起こしてみましたので、ご覧いただきたい。
吉田: 先ず、小出先生にお伺いしたいのは、そもそも原子力の発電コストは、ほかの発電方法にくらべて経済的なことなのかということですが、そのあたりからお聞きしたい。
小出: 日本の原子力が始まった頃には、原子力による発電は凄く安いので、電気料は2千分の一くらいになるという宣伝がよくなされていた。米国などでは、値段もつけられないくらいにやすくなると言われていた時代がありました。
ところがやってみたら、原子力発電はたいへんお金がかかるものだということに気がついたんですね。
ただ、それでも通産省とか経産省とかが発表する発電コストをみると、なにか原子力発電の方が安いように、皆さん思わされてきました。
吉田: そうですね。電気事業連合が発表している発電コストをみると、1kwhの発電コストは原子力が5.3円、火力が6.2円、水力が11.9円 こういう感じになっているんですが、こういう数字は一般人としてどう解釈すれば・・・
小出: それは、いわゆるモデルを立ててですね 石油、石炭の値段がいくら、 そしてそこに原子力発電所では、たとえば何パーセント稼動、火力は何パーセント動きますという、仮定に仮定を重ねてはじき出した結果なんですね。
でも、それが正しくないということを、立命館大学の大島堅一さんという人が証明してくれました。
吉田: あーそうですか。どういうふうにですか?
小出: 企業というのは、それぞれ有価証券報告書というのを、実際の経営データを公表するのですね。そのじっさいの経営データに基いて、大島さんが計算したところ、原子力というのは一番高いということを示してくれました。
吉田: どんな数字が出たんですか?
小出: 大島さんのデータによると 1970年からこんにちにいたるまで、原子力、火力、或いは水力を計算しているのですが、一番高いのは水力です。原子力と火力は、単なる発電単価だけを見ると火力のほうが1円ほど高いようにみえるけれど、原子力発電をやろうとすると地方自治体に落とすお金がかかる、それをいれると逆転して、原子力の方が逆に1円高くなることを示してくれました。
吉田: へーっ、これは原発を停めたほうが電気代がやすくなるというっわけですか。
小出: 勿論そうですね。将来的なことを考えると、原子力なんてさっさとやめたほうがやすくなります。
吉田: ほーっ、原子力のほうはコストからみても、破綻しているくらいの感じでいいんですか。
小出: 勿論です。こんどの福島原発事故のお金が一体いくらかかるか。そんなものを上乗せしたら、当方もない電気代になります。
吉田: 発電コストの問題なんか関係ないほど嫌なものになっていますね。
小出: そうです どう考えていいのかわからないほどの費用が・・・
吉田: 原子力開発をすすめた理由の一つがですね。 石油などの化石燃料の枯渇と言われているんですが、化石燃料がなくなったら原子力に頼らざるを得ないという論理はどうなんですか?
小出: 私自身はそういうふうにおもって原子力に足を踏み入れたにんげんです。
吉田: そうですか、小出先生もそうなんですか?
小出: はい、そのようにずーっと言われてきています。 私もそれを信じて原子力に入ったんでっすが、実際に調べてみたんです。 原子力の燃料はウランですね。ウランというのは、石油に比べても数分の一、石炭に比べると数十分の一しかありません。それを考えると、実に馬鹿げた資源だったんですね。化石燃料も勿論なくなりますけれど、それより遥かに早くなくなる資源、こういう資源なんです。
吉田: ほー、結局原子力推進派というのは、そのあたりをどのように理屈をつけるんですか?
小出: 知りません、彼らに聞いてみてください。
吉田: ほー、そうですか。それはここを是非聴いてみたいですね。ただ、電力供給の3割を原子力発電がまかなっているというふうに言われていますけれども、今の生活を維持しようと思うと原発を止めることは、不可能と言うんですが、そのあたりは?
小出: 全く可能です。何故かというと、確かに原子力発電が実際に発電している量は3割近くありますが、その一方で火力発電所は約半分停めておかねばならない程あまっている。
吉田: 停めるほど余っているんですか?
小出: そうです。だから原子力で発電している分を停めてある。火力発電所を稼動すれば、充分あるんです、全く問題ありません。
吉田: そこをごまかしてきているんですね。 はーっ、腹が立ちますね、聞くたびに・・・要するに日本国民はだまされ続けてきたんですね、これ、・・・
小出: そうです、東京電力という巨大産業が、原子力をやらないと電気が足らないと、嘘をいいつづけてきて、日本人の多くがだまされつづけてきたんですね。
吉田: 悲しいね、これ・・・原子力発電にかかるコストということで、お金のほかに地球環境に対するコストということもあるわけですけれども、 温暖化防止のためには、二酸化炭素の排出量の少ない原子力発電が有効であるという人がいっぱいいるわけですよ。その点に関しては小出先生、はっきり答えをだしていただくと?
小出: 化石燃料、石油、石炭、天然ガスでもそうでけど、燃やせば二酸化炭素が出るわけです、それは当たり前のことです。でも、二酸化炭素というのはこの地球という星にとって絶対必要なものなんです。植物が光合成で二酸化炭素を、植物が自分の身体に取り入れる一番大切なものなんです。それが、なんかいかにも悪者に言われているわけです。一方では、化石燃料でなく原子力を使ったらどうなるかと言うと、出てくるのは放射性核分裂生成物ですね。それは、あらゆる意味で、生命体にとって有害な物質なのです。
そういうことに目をつむって、何か二酸化炭素がいかにも悪いという宣伝がなされてきているんですね。二酸化炭素が悪いと言うなら、じゃあ、核分裂生成物は、一体どうなんだということも議論しなければならないと思います。
私は核分裂生成物というものを始末するのに、これからですね、重荷を背負っていかねばならないのです。実はこれから百万年間重荷を背負っていかねばならないんですが、そのためのエネルギーと、一体どれだけのお金がかかるのか、そのための作業のために、どれだけの二酸化炭素を出さなければならないかを考えたら、原子力は最悪だと私は思っています。
吉田: あの、中曽根さんとか与謝野さんとかはそのあたりの認識はないんですかね?
小出: 彼らはですね、例えば中曽根さんなんかは、原子力は国力というくらいで、いわゆる国家というものにとって原子力、つまり「核」というものと同じなんですけど、それを持っていることが、国家にとって大切だという、そういう考え方がひとつなんですね。
吉田: いま福島原発で起きている、あーいうことが、そういうことを全くというか気にとめない発言が続いているのはどういうわけなんでしょうか。
小出: それは中曽根さんたちに聞いてみてください。
吉田: ほんとうに聞いてみたいですね、 中曽根さん、与謝野さんを前にして、その点は貴方たちどう考えているんだと・・・。子供たちのことをどう考えているんだと、日本のね。
ここにメモが届いているんですけれど。広島原爆に使われた放射能物質は800グラムで、100万kwhの原発一基が1年間に出す放射性物質は1トンというのは、この数字は本当の数字なんですね?
小出: そうです。
吉田: 恐ろしいね・・・・こういう数字も知らない日本人が圧倒的に多いですよね。
小出: 原子力というのは、殆ど情報統制という形で、正確な情報というのは国の方から流れて来ない。
吉田: だから、テレビや新聞もそれに習って、こいう数字をはっきり打ち出さないというのは、もうなんか犯罪に等しいですよね?
小出: マスコミがダメだったということだと思います。
吉田: そういうことですね。これはマスコミも大反省しなければならないですね。今も改まっていないのは大問題ですね。
小出: 私もそう思います。
以上。