円高のままでは、真の景気回復にはなり得ない。
前回為替レートは1㌦90円台が定着していると書きましたが、昨日から本日にかけてのNY市場、本日の東京市場でも88~89円台となり、いっそう円高になっています。
ここまで円高になれば、一部の輸出企業を除いては輸出価格(ドル価)を値上げしなければ採算にあわない。輸出価格を上げれば買い手がつかず、価格競争に負ける。輸出を諦め内需主導に切り替えたいところである。しかし、日本の景気悪化で国内需要が衰弱してしまっているので、内需に頼ることも不可能に近い。
そこで前回述べたように、個人所得を政府主導で膨らませれば、需要が一応戻るだろう。だが需要は戻ったとしても国内産に対する需要に向かうかと言えば、そう簡単にはいかない。
その理屈は次の通りです。
① ドル安円高は輸出を抑制させるだけではなく、輸入の増加を促進させ、国内産よりも輸入品の方が圧倒的に安くなる。
② これまで長期にわたって国民の所得を低下させてしまったため、国民は安い物指向になっている。
③ 国民の所得を増やせば、需要は活発になるだろう、だが割高な日本製品への需要の高まりは鈍いだろう。
円高を放置したままでは、国民の需要先は割高な国内品への需要に向かわないだろう。食料自給率を高めようとしても自給率が高まらない理由と同じ理屈です。輸入を半強制的に抑えれば、FTA(自由貿易協定)に反するとして世界中から非難される。
為替を変動相場制に身をゆだねてしまったがために、迷惑大国米経済に振り回されて日本独自の経済政策が機能しないのである、日本経済をコントロールしようとしてもできなくなってしまったのです。
鳩山首相の「東アジア共同体」構想が、「脱USドル」を念頭においた発言ならば、一応評価できる。しかし、その場合でも中国は簡単には応じないだろう。その理由は、中国の通貨「人民元」は変動相場制ではないので、米経済の事情によって「人民元」の為替レートは左右されない。現状のままでも何の痛痒も感じないからである。ちなみに、昨年リーマンショック前9月の中国の通貨「人民元」は、1usドル6.83~6.84元で、現在も同じレベルである。一方の日本円は昨年9月は1usドル105~108円で、現在は90円~88円である。
国際競争力って一体何なのさ?と言いたくなります。
為替を抜きにして、グローバリゼーションや国際競争力や自由貿易協定(FTA)を語る無意味さをエコノミストたちはわかっているのだろうか。
前回、次のように記述したことを思い出していただきたい。
””現在為替レートは1㌦90円台が定着している。これはある意味で、アメリカの保護政策と言える。何故なら為替による鎖国だからである。””
この意味するところは、アメリカは「ドル安」によって世界から体のいい輸入拒否もしくは抑制する政策を採っていることと同じだから、体のいい「保護主義」だというわけである。
ところがである、驚くべきことに「ドル安」は「円」に対してだけであって他の通貨に対しては「ドル安」になっていないのである。例えば、ユーロはリーマンショック前の水準と殆ど変わらず、1usドルは0.68~0.70ユーロのままであり、英ポンドに対しては逆に10%近く米ドル高になっています。「人民元」は言うまでもなく同じレベルを保っています。
日本だけが何故円高? 「米ドル安は日本をターゲット」にしていると言っても言い過ぎではない。本ブログで何度も指摘しているように、日本経済はここ15年間近く、成長(名目GDP)をストップさせたままである、当然のことながら、一人当たりGDPも20位まで落下、個人所得も大幅に減少させています。その間に世界の各国は約2倍の経済成長を遂げています。09年も昨年に続きマイナス成長が予測されています。これらの状況からみれば、「円高」になる要素は全くない、むしろ「円安」になってもおかしくない。それでも「円高」とはこれ如何に?
亀井金融相が、中小企業や個人ローン支払い猶予(モラトリアム)を与えたいという気持ちは、痛いほどわかる。しかし、現状の「円高」のままでは、最長3年間のモラトリアムを与えても状況が改善するする見通しがたたない。日本の中小企業は今後、残念ながらさらに倒産が増える可能性が高い。
日本の経済を支えてきた中小企業が壊滅的打撃を受けて、日本企業が世界と戦えなくなれば、そのときから遅すぎた「円安」がはじまるだろう。
日本は徹底的にいじめにあっているのだろうか(笑)。これもひとえに、メイドインUSAの変動相場制に身をゆだねてしまったからである。変動相場制とは、聞こえはいいが「市場原理主義の最たるもの」である。日本はあなた任せの取り返しのつかない付けを払わされていると言うしかない。しかし、経済学者も一般のエコノミストたちも誰一人として変動相場制の弊害について論ずる者はいない。
藤井財務大臣も変動相場制容認派であり、彼を補佐する財務省特別顧問として行天豊雄氏を迎えている。
行天氏は、1985年当時の大蔵省の国際金融局長としてプラザ合意に立会い、日本を代表する通貨マフィアとして知られている。どうみても国益派とは思えない。変動相場制からの離脱などの発想ができるとは思えない。日本は本当に悲しい国になってしもうた。
次回も為替についてもう少し。