猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

日米豪、初の戦略対話―中国への懸念共有

2006-03-26 16:40:48 | 日米同盟
 さる18日に、オーストラリアのシドニー郊外にあるオーストラリア海軍基地で、麻生外務大臣、ライス米国務長官、ダウナー豪外相による初の日米豪閣僚級戦略対話が行われた。こういう対話が今まで行われなかったことの方が、驚くべきことである。この対話の持つ意義は、アジア太平洋地域の平和と安定のために日米豪を中核とする環太平洋の民主国家群による連携を密にしていく方向性が明確になった点である。参加国は、もちろん我が国も含めて、負担と責務を分担していかねばならない。在日米軍基地再編の問題も、決して中央政府と地元のせめぎ合いなどに矮小化されるべきではなく、この文脈で理解されるべきである。
 今回の日米豪外相対話での最大の議題は、何といっても中国の急速な軍拡とそれが周辺地域に与える脅威である。米国当局の高官や公式レポートがしばしば指摘している通り、中国の軍拡の意図が不透明である点に重大な懸念が示された。ダウナー豪外相は「中国は何のために軍事費を急激に膨らまさざるを得ないのか、説明しないと周りの国は不必要な疑心暗鬼にさいなまれる」と述べ、他の二人も同調した。もっとも、急速な軍拡の意図を中国が包み隠さず正直に公開したから直ちに緊張が緩和されるかといえば、そんなことはない。例えば、中国が「実は軍事費は今まで公表してきた額の約3倍(これは米国当局やアナリストの間で有力な説である)でした。意図は、米国の軍事力をはねのけて台湾を武力併合するためです」などと”正直”に発表したと仮定してみればすぐに分かることである。お互いに軍縮に向かおうという明確な共通認識がなければ、軍事費や軍備に関する透明性をいくら高めても無意味である。もちろん、中国の軍備に関する不透明性を指摘することで言わんとするところは「貴国の軍拡は看過し得ない」ということなのだが、この表現を今後も繰り返すべきかどうかは再考の余地があると思う。もっと直接的な表現の方がよいのかもしれない。
 また、「日米豪がアジア太平洋地域における民主主義の発展や強化へ、協力の枠組みを強化する」と明記したことも、共産党による独裁国家である中国を牽制するものであることは言うまでもない。この、民主主義推進路線は昨年ブッシュ大統領や小泉首相が相次いで演説で述べた路線であり、今後の対中戦略の方向性を大枠で規定するのもである。すなわち、自由・民主主義・人権の価値で独裁国家中国を「封じ込める」ということである。これは、ある意味で、ジョージ・ケナンがかの有名なX論文で主張した対ソ封じ込めの本来の意図に近いといえないこともない。 それから、インドとのグローバル・パートナーシップの強化を謳っている点も、当然の方向性とはいえ、やはり注目されるべきところである。インドは対中牽制にとって不可欠な国である。しかし、今まで米国が国防総省を中心にインドへ働きかけてきたものの不調であった。インドは「米国の対中戦略のコマにはならない」という姿勢を貫いてきたからである。最近の、米国によるインドの核開発”容認”は、相互主義的発想への転換であるし、今回明確に打ち出されたインドとのグローバル・パートナーシップの強化は、この地域へのインドの発言力向上に繋がるものであるから、インドの立場をより重視したものといえる。今後の課題としては、是非とも外相対話にインドを加えるべきである。
 中国関連以外では、イランの核開発への懸念や、イラク撤兵の時期などが議題となった。イラク撤兵に関しては、麻生大臣が「撤退するにしても、しかるべき理屈が立たない。みんな困っている」と記者団に語ったように、イラクにおいて本格政権の樹立が遅れ不安定が続いているため、日本だけが”逃げ出す”わけにはいかないのである。イラク撤兵の時期などが議題となった。イラク撤兵に関しては、麻生大臣が「撤退するにしても、しかるべき理屈が立たない。みんな困っている」と記者団に語ったように、イラクにおいて本格政権の樹立が遅れ不安定が続いているため、日本だけが”逃げ出す”わけにはいかないのである。 
 さて、今後のアジア太平洋の安全保障対話については、まず、先にも述べたとおり、インドの参加が不可欠である。さらに、米国との同盟を軸に民主国家による連携を強めていくという立場から、タイ、フィリピン、インドネシアといった東南アジアの海洋国家群をも含めた対話を活発に進めていくべきである。現に、米国はインドネシアに対して武器輸出の全面解禁を決定し、対テロ戦争でのパートナーとしての位置づけを明確化した。地政学的に見ると大陸国家ではあるが、地域の民主国家という意味からすれば、もちろん韓国も排除する理由はない。対米二国間同盟の並立という、この地域におけるハブ・アンド・スポークと称される同盟構造は、対米二国間同盟を堅持しつつも、スポーク同士の連携をも強化する形を目指すべきであろう。NATOのような条約に基づく集団防衛機構が今すぐ可能とは考えられないが、常設的な『アジア太平洋戦略対話』は必要となるに違いない。

[日米豪戦略対話・共同声明の骨子(読売新聞3月19日付より引用)]
1、3カ国は、アジア太平洋地域に焦点をおき、世界的な安定と安全の維持に取り組む共通の目的を有する。会合は戦略対話を強化する点で重要な一歩。この地域における民主主義の発展や強化、協力の枠組みの強化が関心事項。
1、中国によるこの地域への建設的な関与を歓迎し、東南アジア諸国連合や韓国などとの協力拡大に合意。
1、インドとのグローバル・パートナーシップ強化の重要性を認識。インドの民生用原子力施設を国際的な保障措置の下に置く決定は、不拡散体制の範囲拡大に向けた積極的第一歩。
1、イランの核計画に重大な懸念を有する。速やかにイランが全ての濃縮関連活動を停止し、国際原子力機関(IAEA)に完全に協力することを要求。
1、テロ対策と大量破壊兵器の拡散防止へ協力を強化。日米豪のテロ担当大使による定期的協議の開催を再確認。
1、日本の国連常任理事国入りへの支持を再確認。 



(参考記事)
[日米豪、初の戦略対話 中国への懸念共有]
 【シドニー=笠原健】麻生太郎外相は十八日(日本時間同)、シドニー市郊外のオーストラリア海軍基地で、ライス米国務長官、ダウナー豪外相と初の日米豪閣僚級戦略対話を行った。この結果、軍備増強を続ける中国に対し、国際社会の責任ある勢力となるよう求めることで一致し、共同声明を発表した。
 麻生外相は会談後、記者団に「中国は急激に経済力、軍事費が伸びているが、中国の意図が見えないから疑心暗鬼になる」と述べ、戦略対話で中国の急速な軍拡への懸念が共有されたことを強調した。ただ、共同声明では「中国の建設的な関与を歓迎する」との表現にとどまった。
 サマワに駐留する陸上自衛隊の撤収時期について、麻生外相は「新政府ができ権限が移譲されてからということを条件としていたが、新政府ができていない」として、なお状況を見極めて判断するとの確認にとどまった。
 共同声明はまた、イランの核計画に「重大な懸念」を表明。すべてのウラン濃縮関連活動を停止するようイランを説得するために、各国が国連安全保障理事会で協調行動をとる必要性も盛り込まれた。
     ◇
 ■「牛肉停止は過剰」ライス長官
 【シドニー=笠原健】日米豪の戦略対話に先立ち行われた日米二国間の戦略対話で、ライス国務長官は、日本の米国産牛肉の全面輸入停止措置を「過剰ではないか」と批判し、早期輸入再開を要求した。
 これに対して、麻生外相は「米農務省の検査体制に疑問があり、疑問を払拭(ふっしょく)することが必要だ。そうでなければ日本の消費者は、米国産牛肉を受け入れない」と反論し、現状では早期再開は困難だとの考えを伝えた。
 米軍再編問題では、月内の最終報告取りまとめに向け協議を継続することを確認するにとどまった。
(産経新聞) - 3月19日3時3分更新


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2 コメント

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環太平洋同盟 (tsubamerailstar)
2006-03-28 00:07:48
これは町村&大野コンビの昨年のGWの遺産ですね。米中首脳会談前ということもあるでしょうが、やはり「中国によるこの地域への建設的な関与を歓迎」というステークスホルダー期待論を一応表に出しているのが特徴的ではあります。

AEIは日米印豪の結束への期待を表明するレポートを書いていましたが、実際日本としてもこれに尽きると思います。

その意味で昨年末のEASにインドや豪州、NZを巻き込んだ日本の動きは私は評価しています。実際そういう形でASEAN諸国に「踏み絵」踏ませるような感じで動くのが現時点でのベターな策ではないかと思います。
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基本は揺るがないでしょうね (猫研究員。(高峰康修))
2006-03-28 02:11:16
環太平洋同盟のような形以外あまり想像できないし、現実的な日本の対応としても、日米同盟を基盤にそれを発展させていく以外にありませんね。これは、誰が政権を握っても濃淡やニュアンスの違いがあっても変わらないんじゃないかなあ。

趣旨は同様ですが、マイケル・グリーンが簡潔にまとめた読売新聞への寄稿があったのでhttp://blog.goo.ne.jp/idol510/e/e49bc38ae2cdccfd7060e6010823cd4fにアップしておきました。目新しい内容でもありませんがご覧くださいませ。アーミテージレポートの続編もその路線でまとめられると思いますので…。
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