保険会社が言わないホントの保険の話 「保険の無料セミナー、想像以上に納得できなかった」 執筆者 保険コンサルタント 後田亨 2012年6月22日 日経無料記事
http://mx.nikkei.com/?4_60583_45563_4
「専門家の知識が顧客本位に利用されるとは限らない」。過日、ある金融機関が主催するマネーセミナーに参加した時の感想です。講師の肩書は「ファイナンシャルプランナー」で、老後資金を準備するために「投資型保険」の利用を勧める内容でした。
私は、基本的に「今どきの保険で老後資金を準備するのは合理的でない」と考えているので、どんな話がされるのかと疑心暗鬼で出向きましたが、想像以上に納得がいかないものでした。
活用が推奨されていた保険は「変額終身保険」です。通常の「終身保険」との違いは、将来の保険金支払いに備え、積み立てられる保険料について、リスクを取った運用がなされることです。
そのため、解約時に払い戻される「解約返戻金」と保険金の額が運用成績に応じて変動します(ただし、死亡保険金は契約時の金額が最低保証されています)。
セミナーは、老後資金作りは、預貯金だけでは限界があるので、「投資信託」を利用して、株式や債券を毎月一定額購入することが有効であるという話から始まりました。
「変額終身保険」は、「投資信託に保険機能がついているもの」と定義されていたので、「投資信託」の利点を説くことは欠かせないということでしょう。実際、投資対象の組み合わせによるリスクとリターンの説明などは、納得がいくものでした。
しかし、ここで素朴な疑問が生じます。「投資信託」が有用なのであれば、わざわざ保障機能を追加した「投資型保険」を利用する必要はないのではないか? と。
この点については「投信は値下がりしたら、積み立てを続けるのが怖くなったりする。逆に値上がりしたら、売って利益を確定したくなる。その点、保険は強制的に積み立てが出来る」と説明されました。
そして「死亡保障が付いている分など、諸経費がかかるデメリットもあるとはいえ、生命保険料控除など税制面でのメリットや継続のしやすさを考えると保険がおすすめ」と結論づけられました。
保険契約には、自己資金の増減への感応度を緩和する魔法でもあるのでしょうか? 運用目的で、敢えて解約返戻金が変動する保険に加入する場合、契約の継続を迷う局面が増えてもおかしくない気がします。
また、強制貯蓄効果は、一定額を給与振込口座などから自動的に別口座に振り替える仕組みを使えば、保険でなくても期待できます。
さらに経費については、決定的なデメリットと言えます。セミナーで配布されたパンフレットに35歳男性が、毎月1万9千円強の保険料を25年間払い込み、3.5%で運用される場合の試算例が載っているので、投資信託で同額の積み立てを行う場合と比べるとわかります(投資信託の販売手数料はゼロで、保有期間中0.5%の手数料がかかることにします。つまり、実質的には3%で運用される設定です)
25年後の成果は、投資信託が858万円、保険では614万円です。払込総額は約575万円ですから、保険では結果的に0.5%程度の運用に終わったのと同じ計算になります。高い経費率が響いているのは明らかでしょう。
講師が言及していた税控除のメリットは、他の保険商品活用との兼ね合いもあり、不確実な側面がありますが、経費の発生は確実なものです。来場者のことを思えば、セミナーで強調されるべきなのは、この点だったはずです。
ところが、終了後に行われていたのは、保険代理店での無料相談への誘導でした。
昨春に出た「週刊ダイヤモンド」によると、この保険の販売手数料は、最上級代理店の場合、1年目に年間保険料の50%、5年間では、年間保険料の92%となっています。
一般の方が、各種の無料セミナーに参加なさる場合は、「開催目的」を強く意識することが重要でしょう。
すべての無料セミナーがダメだとは決して思いませんが、こちらについては、私も全くの同感です。そもそも余剰資産を3.5%で運用したいのならば、資産の一定比率は株式や株式に資産のほぼ全てを投資する株式投信に投資せざるを得ず、だったら最初から資産の大部分を定期預金や低信託報酬のMMFなど貯蓄性商品で運用して、一定比率を手数料が格安のネット証券の投資信託で運用すれば済む話ですし、変額終身保険の場合は、契約時の死亡保険金もそう高い水準ではなく保険商品としても中途半端。
生命保険料控除など税制面でのメリットについても、自営業者向けの小規模企業共済等掛金控除と異なり全額が所得控除の対象となるものではなく、また生命保険がほぼ全ての国民に浸透したことから、今では生命保険料控除という制度を存続し続ける社会的意義も薄くなり、将来的には控除枠そのものが見直される可能性だって否定できないだけに、所得控除効果を必要以上に強調する姿勢も個人的には感心しません。
まして25年も運用してその間の運用利率がたった0.5%程度では、将来金利が上昇した時に実質価値が目減りする可能性の方が高いでしょうし、どうも最近は変額保険にしても、ディリバティブを活用した複雑怪奇な一部の投信にしても、最初に手数料稼ぎありきの商品が増えているように感じます(*)し、営業に勧められたからという理由で加入するのではなく、あくまでもご自身が必要な金融商品を取捨選択して欲しいと思います。
*株式市場全体が急上昇&かつ個別株が物色されているような特殊な相場局面でもない限り、販売手数料も信託報酬も高いアクティブ投信が、保有コストの安いノーロード(販売手数料が無料)で信託報酬も安い一部のインデックス投信に、運用成績で何年間も勝ち続けることは限りなく困難だと個人的には考えています。
日本人はどうも掛け捨てという言葉が嫌いな方が多いように感じますが、保険はあくまでもご自身(とその家族)に必要な保障をお金を出して買うもの。何が何でも保険商品で固めるのではなく、保険は保険。投資は投資、貯蓄は貯蓄 と割り切った方が合理的ではないかと思います。
http://mx.nikkei.com/?4_60583_45563_4
「専門家の知識が顧客本位に利用されるとは限らない」。過日、ある金融機関が主催するマネーセミナーに参加した時の感想です。講師の肩書は「ファイナンシャルプランナー」で、老後資金を準備するために「投資型保険」の利用を勧める内容でした。
私は、基本的に「今どきの保険で老後資金を準備するのは合理的でない」と考えているので、どんな話がされるのかと疑心暗鬼で出向きましたが、想像以上に納得がいかないものでした。
活用が推奨されていた保険は「変額終身保険」です。通常の「終身保険」との違いは、将来の保険金支払いに備え、積み立てられる保険料について、リスクを取った運用がなされることです。
そのため、解約時に払い戻される「解約返戻金」と保険金の額が運用成績に応じて変動します(ただし、死亡保険金は契約時の金額が最低保証されています)。
セミナーは、老後資金作りは、預貯金だけでは限界があるので、「投資信託」を利用して、株式や債券を毎月一定額購入することが有効であるという話から始まりました。
「変額終身保険」は、「投資信託に保険機能がついているもの」と定義されていたので、「投資信託」の利点を説くことは欠かせないということでしょう。実際、投資対象の組み合わせによるリスクとリターンの説明などは、納得がいくものでした。
しかし、ここで素朴な疑問が生じます。「投資信託」が有用なのであれば、わざわざ保障機能を追加した「投資型保険」を利用する必要はないのではないか? と。
この点については「投信は値下がりしたら、積み立てを続けるのが怖くなったりする。逆に値上がりしたら、売って利益を確定したくなる。その点、保険は強制的に積み立てが出来る」と説明されました。
そして「死亡保障が付いている分など、諸経費がかかるデメリットもあるとはいえ、生命保険料控除など税制面でのメリットや継続のしやすさを考えると保険がおすすめ」と結論づけられました。
保険契約には、自己資金の増減への感応度を緩和する魔法でもあるのでしょうか? 運用目的で、敢えて解約返戻金が変動する保険に加入する場合、契約の継続を迷う局面が増えてもおかしくない気がします。
また、強制貯蓄効果は、一定額を給与振込口座などから自動的に別口座に振り替える仕組みを使えば、保険でなくても期待できます。
さらに経費については、決定的なデメリットと言えます。セミナーで配布されたパンフレットに35歳男性が、毎月1万9千円強の保険料を25年間払い込み、3.5%で運用される場合の試算例が載っているので、投資信託で同額の積み立てを行う場合と比べるとわかります(投資信託の販売手数料はゼロで、保有期間中0.5%の手数料がかかることにします。つまり、実質的には3%で運用される設定です)
25年後の成果は、投資信託が858万円、保険では614万円です。払込総額は約575万円ですから、保険では結果的に0.5%程度の運用に終わったのと同じ計算になります。高い経費率が響いているのは明らかでしょう。
講師が言及していた税控除のメリットは、他の保険商品活用との兼ね合いもあり、不確実な側面がありますが、経費の発生は確実なものです。来場者のことを思えば、セミナーで強調されるべきなのは、この点だったはずです。
ところが、終了後に行われていたのは、保険代理店での無料相談への誘導でした。
昨春に出た「週刊ダイヤモンド」によると、この保険の販売手数料は、最上級代理店の場合、1年目に年間保険料の50%、5年間では、年間保険料の92%となっています。
一般の方が、各種の無料セミナーに参加なさる場合は、「開催目的」を強く意識することが重要でしょう。
すべての無料セミナーがダメだとは決して思いませんが、こちらについては、私も全くの同感です。そもそも余剰資産を3.5%で運用したいのならば、資産の一定比率は株式や株式に資産のほぼ全てを投資する株式投信に投資せざるを得ず、だったら最初から資産の大部分を定期預金や低信託報酬のMMFなど貯蓄性商品で運用して、一定比率を手数料が格安のネット証券の投資信託で運用すれば済む話ですし、変額終身保険の場合は、契約時の死亡保険金もそう高い水準ではなく保険商品としても中途半端。
生命保険料控除など税制面でのメリットについても、自営業者向けの小規模企業共済等掛金控除と異なり全額が所得控除の対象となるものではなく、また生命保険がほぼ全ての国民に浸透したことから、今では生命保険料控除という制度を存続し続ける社会的意義も薄くなり、将来的には控除枠そのものが見直される可能性だって否定できないだけに、所得控除効果を必要以上に強調する姿勢も個人的には感心しません。
まして25年も運用してその間の運用利率がたった0.5%程度では、将来金利が上昇した時に実質価値が目減りする可能性の方が高いでしょうし、どうも最近は変額保険にしても、ディリバティブを活用した複雑怪奇な一部の投信にしても、最初に手数料稼ぎありきの商品が増えているように感じます(*)し、営業に勧められたからという理由で加入するのではなく、あくまでもご自身が必要な金融商品を取捨選択して欲しいと思います。
*株式市場全体が急上昇&かつ個別株が物色されているような特殊な相場局面でもない限り、販売手数料も信託報酬も高いアクティブ投信が、保有コストの安いノーロード(販売手数料が無料)で信託報酬も安い一部のインデックス投信に、運用成績で何年間も勝ち続けることは限りなく困難だと個人的には考えています。
日本人はどうも掛け捨てという言葉が嫌いな方が多いように感じますが、保険はあくまでもご自身(とその家族)に必要な保障をお金を出して買うもの。何が何でも保険商品で固めるのではなく、保険は保険。投資は投資、貯蓄は貯蓄 と割り切った方が合理的ではないかと思います。