コムスン:「介護」退場…残る制度問題 2007年9月5日 毎日
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20070905k0000m040165000c.html
コムスンの在宅系事業の売却先が4日選定され、3カ月に及ぶ「騒動」は終止符を打った。設立は1959年だが、99年にグッドウィル・グループの子会社となって以来、CMを駆使して訪問介護事業のトップランナーに急成長したコムスン。その悪質さにより介護現場から退場し、施設系はニチイ学館に、在宅系は都道府県ごとに分割されて継承されることが決まったが、介護保険制度の抱えるさまざまな問題は残されたままだ。第2のコムスンを生む土壌は続いている。
◇報酬下がり競争激化…支え手も悲鳴
「コムスンは特別だ。他の事業者にもある不正請求とは質が違う。これまで例を見ない悪質さだった」
コムスンに対する処分を発表後、厚生労働省幹部はそう指摘した。
不正請求を繰り返し、処分逃れのための事業所廃止届を次々と提出。それが本社指示で行われ、親会社「グッドウィル・グループ」の折口雅博会長も了承していた。
しかし東京都が06年に実施した立ち入り検査では、コムスンだけでなく、訪問介護大手のニチイ学館やジャパンケアサービスでも不正請求が明らかになった。不正の総額は3社で計4億2646万円。背景には、経営を支える「介護報酬」の相次ぐ引き下げがある。
高齢者の増加に伴い、介護保険の総費用が増え続けている。07年度予算で7兆4000億円。制度がスタートした00年度(3兆6000億円)の2倍以上だ。政府は給付費抑制のため、事業者へ支払う報酬の単価を03年度(平均2.3%減)、06年度(先行改定分も含め平均2.4%減)と2回にわたり引き下げた。また、06年の介護保険法改正では家事のサービスを制限。これらが事業者を直撃した。
人件費の比率が高い訪問介護事業(在宅系)の収入は、ほぼすべてが介護保険からの給付に頼る。特に東京都内では「3社が激烈な事業展開をしていた。報酬改定でますます薄利になり、多売、拡大をせざるを得ない状況だった」(都幹部)という。
一方、今回の騒動の最中に、低水準の給与にもかかわらず高い志で仕事に励むヘルパーたちが、周囲から悪事の加担者のように非難されるという出来事も起きた。
介護労働者の月収は全労働者平均の6~7割。介護福祉士有資格者の4割が介護職に就かないなど人材難が深刻化している。年間離職率は2割と際立って高い。介護報酬抑制は介護職離れをより促しかねない。
今後10年間に必要と試算されている新たな介護労働者は40万~60万人。
コムスンの第三者委員会は4日、「譲渡先選定の最大の難関は介護を担う職員確保だった。厚労省は、報酬加算の工夫など、意欲ある介護職員確保のための措置を」との内容の要望書を厚労省に提出した。
◇「一網打尽」排除に賛否…連座制規定
コムスン追放に力を発揮したのが、06年の介護保険法改正で新設された厳しい連座制などの規定だ。事業所は6年ごとの更新制となり、1カ所で不正があると、以後5年間は全国どこででも新規申請も更新もできなくなった。
もともと00年4月施行の介護保険法は「性善説」に立ち、事業者を「事前」でなく「事後」で規制した。自治体への新規申請では、書類の不備がなければ受理された。このため当初から架空請求など不正が相次いだ。不正請求などが発覚して指定取り消しになった事業所は今年3月までに478カ所。ピークの03年度には105事業所が指定を取り消された。こうした現状から「巨悪」排除の切り札として設けられたのが連座制だった。
広域で事業展開する介護事業者にとって連座制は脅威だ。
ニチイ学館の寺田明彦会長は「ある事業所が指定取り消し相当の問題を起こしたら、地域住民や行政と良好な関係にある他県の事業所も一網打尽で廃業。(影響する範囲が)あまりに広すぎる」と疑問を呈する。
また寺田会長は「事業所責任者の配置基準違反で報酬返還を求められることがある。利用者に対するサービスに何の落ち度がなくても、です。(法律に)大きな間違いがあるのではないか」と話し、「不適正」と「不正」を区別する法改正の必要性を訴える。
「質の悪い事業者は淘汰(とうた)される。事業者を不正に走らせない仕組みづくりが重要」(厚労省の有識者会議での議論)が関係者の共通認識だが、規制のあり方が今後の焦点となっている。
◇業界「経営続かない」…抜本改革を
「コムスンの在宅系サービス引き受けに名乗りを上げたのは、利用者のためではなく、ヘルパーが欲しいから」
都内中心に訪問介護を展開するある企業は本音を明かす。高齢化が進むなか、「成長産業」と期待された介護ビジネス。だが、業者が直面しているのは深刻な人手不足や収益悪化で、抜本的改革を求める声も高まっている。
介護保険制度の導入では、国の積極的な後押しもあって、異業種からの介護業界への参入が相次いだ。大手では、コムスンの親会社、グッドウィル・グループの本業は人材派遣。ニチイ学館は医療事務代行だ。居酒屋チェーンのワタミも介護事業を拡大している。ツクイのように、不況業種の建設業からも目立つ。全国の訪問介護の事業所数はNPO法人なども含め、介護保険制度スタート時00年の9833カ所から、06年は2万911カ所と2倍以上に増えた。だが、介護報酬引き下げなどで、「この制度の下で黒字を上げるのは不可能に近い」と、業者からは悲鳴が上がる。
コムスンから210億円で老人ホームなどの施設系事業を買い取ることが決まったニチイ学館。部屋代や食費などで保険外収入が見込める施設系は、訪問介護などの在宅系より採算性が高いとされる。だが、「次の改定では施設系の報酬が引き下げられるはず」(介護大手)と、高値での買い取りに冷ややかな目も向けられている。
ジャパンケアサービスは、在宅系で最も多い13都道県での引き受けが決まった。だが「06年の報酬改定で当社の経営は厳しい打撃を受けた」と対馬徳昭会長。自らが会長を務める業界団体は、厚労省に報酬引き上げを要請しているという。
コムスンの訪問介護事業所が16事業者に分割譲渡される事が決まりましたが、その一方で介護市場独特の問題を指摘した記事があったので紹介します。
やはり一番大きいのは介護報酬の問題。厚生労働省は介護給付費総額を抑えるために、介護報酬を2度に渡って大幅に引き下げましたが、日本経済の回復と共に、相対的に他の職種の求人条件が良くなり、介護福祉士有資格者の4割が介護職に就かないなど人材難が深刻化(働く側から見れば、介護労働者の月収は全労働者平均の6~7割程度。これだけ格差があれば、最初から介護職に就きたくてこの世界に入った人はまだしも、他に就職先がなくて仕方なく介護職についていた方はまず転職するでしょうね…)。一部には外国人労働者の導入という意見もあるようですが、この報酬格差を何とかしない限り、仮に外国人労働者を受け入れても不法滞在化するリスクの方が余程高いように思います。
連座制も現行の運用では問題がありますね。元々は介護保険が導入された当時、悪質な業者を排除する仕組みがなかったために、不正請求が頻発。その反動もあり、このような厳しい制度が導入されたようですが、現行制度では事業所数の多い介護事業者程、一旦不正があった時の影響度が大きいですし、コムスンが取り消し処分を受ける直前に事業所を廃止しようとしたような(他の業界から見れば、あまりにも露骨な処分逃れも)、この事業所だけではなく、他の事業所まで5年間新規申請ができなくなってしまうことを恐れてのことではないでしょうか。
例えば、連座制を継続するにしても、『同一県内の事業所に限る』とするとか金融庁の処分のように『違反した事業所は○年間の業務停止、その他の事業所は○週間の業務停止 当然、違反事業所の同一県内での新規申請は認めない』といった段階的な処分を課すことも検討しても良いと思います。
いずれにせよ、利用者に迷惑をかけないことが大前提になってきますし、勿論あまりにも悪質な業者は排除する仕組みが必要ですが、次の大改正までに、制度の運営についても見直しを行い、変えていくべきところは変えていく姿勢も必要かと思います。
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20070905k0000m040165000c.html
コムスンの在宅系事業の売却先が4日選定され、3カ月に及ぶ「騒動」は終止符を打った。設立は1959年だが、99年にグッドウィル・グループの子会社となって以来、CMを駆使して訪問介護事業のトップランナーに急成長したコムスン。その悪質さにより介護現場から退場し、施設系はニチイ学館に、在宅系は都道府県ごとに分割されて継承されることが決まったが、介護保険制度の抱えるさまざまな問題は残されたままだ。第2のコムスンを生む土壌は続いている。
◇報酬下がり競争激化…支え手も悲鳴
「コムスンは特別だ。他の事業者にもある不正請求とは質が違う。これまで例を見ない悪質さだった」
コムスンに対する処分を発表後、厚生労働省幹部はそう指摘した。
不正請求を繰り返し、処分逃れのための事業所廃止届を次々と提出。それが本社指示で行われ、親会社「グッドウィル・グループ」の折口雅博会長も了承していた。
しかし東京都が06年に実施した立ち入り検査では、コムスンだけでなく、訪問介護大手のニチイ学館やジャパンケアサービスでも不正請求が明らかになった。不正の総額は3社で計4億2646万円。背景には、経営を支える「介護報酬」の相次ぐ引き下げがある。
高齢者の増加に伴い、介護保険の総費用が増え続けている。07年度予算で7兆4000億円。制度がスタートした00年度(3兆6000億円)の2倍以上だ。政府は給付費抑制のため、事業者へ支払う報酬の単価を03年度(平均2.3%減)、06年度(先行改定分も含め平均2.4%減)と2回にわたり引き下げた。また、06年の介護保険法改正では家事のサービスを制限。これらが事業者を直撃した。
人件費の比率が高い訪問介護事業(在宅系)の収入は、ほぼすべてが介護保険からの給付に頼る。特に東京都内では「3社が激烈な事業展開をしていた。報酬改定でますます薄利になり、多売、拡大をせざるを得ない状況だった」(都幹部)という。
一方、今回の騒動の最中に、低水準の給与にもかかわらず高い志で仕事に励むヘルパーたちが、周囲から悪事の加担者のように非難されるという出来事も起きた。
介護労働者の月収は全労働者平均の6~7割。介護福祉士有資格者の4割が介護職に就かないなど人材難が深刻化している。年間離職率は2割と際立って高い。介護報酬抑制は介護職離れをより促しかねない。
今後10年間に必要と試算されている新たな介護労働者は40万~60万人。
コムスンの第三者委員会は4日、「譲渡先選定の最大の難関は介護を担う職員確保だった。厚労省は、報酬加算の工夫など、意欲ある介護職員確保のための措置を」との内容の要望書を厚労省に提出した。
◇「一網打尽」排除に賛否…連座制規定
コムスン追放に力を発揮したのが、06年の介護保険法改正で新設された厳しい連座制などの規定だ。事業所は6年ごとの更新制となり、1カ所で不正があると、以後5年間は全国どこででも新規申請も更新もできなくなった。
もともと00年4月施行の介護保険法は「性善説」に立ち、事業者を「事前」でなく「事後」で規制した。自治体への新規申請では、書類の不備がなければ受理された。このため当初から架空請求など不正が相次いだ。不正請求などが発覚して指定取り消しになった事業所は今年3月までに478カ所。ピークの03年度には105事業所が指定を取り消された。こうした現状から「巨悪」排除の切り札として設けられたのが連座制だった。
広域で事業展開する介護事業者にとって連座制は脅威だ。
ニチイ学館の寺田明彦会長は「ある事業所が指定取り消し相当の問題を起こしたら、地域住民や行政と良好な関係にある他県の事業所も一網打尽で廃業。(影響する範囲が)あまりに広すぎる」と疑問を呈する。
また寺田会長は「事業所責任者の配置基準違反で報酬返還を求められることがある。利用者に対するサービスに何の落ち度がなくても、です。(法律に)大きな間違いがあるのではないか」と話し、「不適正」と「不正」を区別する法改正の必要性を訴える。
「質の悪い事業者は淘汰(とうた)される。事業者を不正に走らせない仕組みづくりが重要」(厚労省の有識者会議での議論)が関係者の共通認識だが、規制のあり方が今後の焦点となっている。
◇業界「経営続かない」…抜本改革を
「コムスンの在宅系サービス引き受けに名乗りを上げたのは、利用者のためではなく、ヘルパーが欲しいから」
都内中心に訪問介護を展開するある企業は本音を明かす。高齢化が進むなか、「成長産業」と期待された介護ビジネス。だが、業者が直面しているのは深刻な人手不足や収益悪化で、抜本的改革を求める声も高まっている。
介護保険制度の導入では、国の積極的な後押しもあって、異業種からの介護業界への参入が相次いだ。大手では、コムスンの親会社、グッドウィル・グループの本業は人材派遣。ニチイ学館は医療事務代行だ。居酒屋チェーンのワタミも介護事業を拡大している。ツクイのように、不況業種の建設業からも目立つ。全国の訪問介護の事業所数はNPO法人なども含め、介護保険制度スタート時00年の9833カ所から、06年は2万911カ所と2倍以上に増えた。だが、介護報酬引き下げなどで、「この制度の下で黒字を上げるのは不可能に近い」と、業者からは悲鳴が上がる。
コムスンから210億円で老人ホームなどの施設系事業を買い取ることが決まったニチイ学館。部屋代や食費などで保険外収入が見込める施設系は、訪問介護などの在宅系より採算性が高いとされる。だが、「次の改定では施設系の報酬が引き下げられるはず」(介護大手)と、高値での買い取りに冷ややかな目も向けられている。
ジャパンケアサービスは、在宅系で最も多い13都道県での引き受けが決まった。だが「06年の報酬改定で当社の経営は厳しい打撃を受けた」と対馬徳昭会長。自らが会長を務める業界団体は、厚労省に報酬引き上げを要請しているという。
コムスンの訪問介護事業所が16事業者に分割譲渡される事が決まりましたが、その一方で介護市場独特の問題を指摘した記事があったので紹介します。
やはり一番大きいのは介護報酬の問題。厚生労働省は介護給付費総額を抑えるために、介護報酬を2度に渡って大幅に引き下げましたが、日本経済の回復と共に、相対的に他の職種の求人条件が良くなり、介護福祉士有資格者の4割が介護職に就かないなど人材難が深刻化(働く側から見れば、介護労働者の月収は全労働者平均の6~7割程度。これだけ格差があれば、最初から介護職に就きたくてこの世界に入った人はまだしも、他に就職先がなくて仕方なく介護職についていた方はまず転職するでしょうね…)。一部には外国人労働者の導入という意見もあるようですが、この報酬格差を何とかしない限り、仮に外国人労働者を受け入れても不法滞在化するリスクの方が余程高いように思います。
連座制も現行の運用では問題がありますね。元々は介護保険が導入された当時、悪質な業者を排除する仕組みがなかったために、不正請求が頻発。その反動もあり、このような厳しい制度が導入されたようですが、現行制度では事業所数の多い介護事業者程、一旦不正があった時の影響度が大きいですし、コムスンが取り消し処分を受ける直前に事業所を廃止しようとしたような(他の業界から見れば、あまりにも露骨な処分逃れも)、この事業所だけではなく、他の事業所まで5年間新規申請ができなくなってしまうことを恐れてのことではないでしょうか。
例えば、連座制を継続するにしても、『同一県内の事業所に限る』とするとか金融庁の処分のように『違反した事業所は○年間の業務停止、その他の事業所は○週間の業務停止 当然、違反事業所の同一県内での新規申請は認めない』といった段階的な処分を課すことも検討しても良いと思います。
いずれにせよ、利用者に迷惑をかけないことが大前提になってきますし、勿論あまりにも悪質な業者は排除する仕組みが必要ですが、次の大改正までに、制度の運営についても見直しを行い、変えていくべきところは変えていく姿勢も必要かと思います。