山本伸一は、マンデラ副議長の行動は、広い意味での人間教育者の役割を担ってきたと述べ、その功労に対して、創価大学から最高栄誉賞を贈りたいと伝えた。そして、同席していた学長から同賞が副議長に手渡された。
さらに、伸一は、南アフリカ共和国は「花の宝庫」と呼ばれ、喜望峰一帯では七千種を超える植物が育っていることに触れ、仏典の王・法華経には、「人華」という美しい言葉があることを紹介した。
「人華」の . . . 本文を読む
マンデラは、獄舎にあって、囚われた人たちが、それぞれの専門知識や技術を教え合う学習の組織をつくった。また、あらゆる障害と戦い、政治囚の“学ぶ権利”を拡大していった。そうして、「ロボットのような群衆」をつくり出す、牢獄による「精神の破壊」と「知性の否定」を克服していったのである。
伸一は、この獄中闘争に言及した。
「貴殿が牢獄を“マンデラ大学”ともいうべき学習の場に変えた事実に、私は注目したい . . . 本文を読む
北川敬美は、和子に、話し合おうと、何度も声をかけた。和子は、「まだ、お弁当を食べていないから」「掃除があるから」と、さまざまな理由をつけて、拒否し続けた。だが、とうとう話し合いにこぎ着けた。
北川は、同情では、和子は変わらないと思った。彼女のために、皆が、触れないようにしている手の障がいのことも、あえて言おうと心に決めた。でも、それは、人間関係に決定的な亀裂を生むかもしれない。自分の気持ちが . . . 本文を読む
総会を記念して、青年教育者の人間教育実践の体験談集が、『体あたり先生奮戦記』として発刊されたのである。 青年たちは、この本を、真っ先に、山本伸一に届けた。伸一は、本を宝前に供え、題目を唱えたあと、ページを開いた。そして、一気に、最後まで目を通したのである。
そこには、都心の小学校で六年生二十人の担任となり、児童のすさんだ心を一新し、スポーツで、中学入試で、見事な成果を収めた、あの萩野悦正の体験も . . . 本文を読む
さらに、伸一は、めざすべき人間教育とは何かについて、論じていった。
「人間教育の理想は、『知』『情』『意』の円満と調和にあります。つまり『知性』と『感情』と『意志』という三種の精神作用を、一個の人間のうちに、いかに開花させていくかが課題であります」
「知」は、ものを知る能力一般を意味し、理性や悟性も、そのなかに含まれる。さらには、情報洪水といわれる現代にあって、与えられた情報という素材を、自 . . . 本文を読む
教育は、「未来への対応」であり、伸一自身、それを人生の最終事業と決め、世界の各大学を訪問して対話を重ね、教育の在り方を探究してきたことを述べた。
そのなかで、パリ大学ソルボンヌ校を訪問した折、アルフォンス・デュプロン総長が、教育にとって何よりも大事なのは、“よく聞くこと”であると語っていたことを紹介した。
パリ大学は、ド・ゴール政権を揺さぶることになる、一九六八年(昭和四十三年)の「五月革命 . . . 本文を読む
入会した木藤優の面倒をみてくれたのは、紹介者である学友の母親“イネさん”であった。彼女は、平凡な主婦であったが、幾つもの病を乗り越えた体験をもち、限りなく明るく、仏法への確信に満ちあふれていた。
その“イネさん”が、木藤に、信心の基本から、根気強く教えてくれたのである。
彼が、仕事で、会合などに出席できず、深夜に帰宅すると、アパートのドアに、励ましのメモが挟んであった。
「心配しています . . . 本文を読む
木藤優(きとうまさる)は、やがて、“壁”に突き当たった。担任した五年生のクラスで、学校を抜け出す児童が、後を絶たないのだ。男子二十五人のうち、十五人ぐらいがいなくなってしまうこともあった。捜しに行くと、近くの河原でたむろしていた。また、シンナーを吸う子もいた。
木藤には、“自分は、心理学を学んできた。だから、子どもたちを変えられる!”という自負があった。仕事に情熱を注いだ。
市の教育研究所 . . . 本文を読む
山本伸一は、「教育・家庭の年」の出発にあたって、教学理論誌『大白蓮華』一月号に、「教育」と題する詩を発表した。教育部員や父母はもとより、人間を育成しようとする、すべての人たちに指針を示し、励ましを送りたかったのである。そこに、こう詠った。
子どもはわが所有物ではない
子ども自身が所有者であり
ひいては
人類共有の宝であるという
尊敬の上に立った教育が
時代転換のエネルギーとなるからだ
. . . 本文を読む
教育部のメンバーは、人間教育運動を本格的に推進していくために、教育目的を教育者自らがつくることから着手し、「人間教育運動綱領」の発表をめざしていった。
メンバーは、まず、大前提となる〝次代を担う人間像〟を探究することから始めた。 将来、子どもたちが幸福になり、よりよい社会を築いていくには、どういう人間が求められるのか――何度となく意見交換し、あらゆる角度から検討を重ねるなかで、めざすべき人間像 . . . 本文を読む
教育を蘇生させるには、もちろん制度的な問題の解決も重要である。しかし、一切の根本となるのは、教育の実質的な主体者であり、推進者である、教師自身の人間的成長を図っていくことである。学校教育では、教師こそが子どもたちの最大の教育環境であり、教師と子どもの、生命と生命の触れ合い、啓発にこそ、教育の原点があるからだ。また、制度的な問題が、どこにあるかを、いちばん実感しているのも、教育現場で懸命に汗を流す教 . . . 本文を読む
萩野は、不安を感じ、迷い、悩んだ。“経験の浅い自分に、このクラスの担任という大役を果たすことは、無理かもしれない……”
その時、山本伸一の、少年少女は「人類の宝」「世界の希望」という言葉を思い起こした。
“そうだ。みんな、未来を担う尊い使命をもって生まれてきたんだ。その宝の子どもたちに、だめな子なんているはずがない。一人ひとりが、すごい使命をもっていることを教えてあげるのが、私の役目だ” . . . 本文を読む
子どもが、叱られると思っている時に叱るのは、下手な叱り方である。逆に反感をいだかせてしまうこともある。
叱るというのは、大人の感情をぶつけるのではなく、子どもに反省させる心をもたせることである。
「だめな子なんていません」というのが、萩野の教師としての、仏法者としての確信であった。 . . . 本文を読む
「人格を育成することほど、偉大な仕事はない。教育こそ、新しき世紀の生命であります。実に今日ほど、教育の重要性が叫ばれる時代はありません。かつては、国家主義的な教育が一世を風靡した。それが今、ことごとく挫折し、人間教育に視点があてられるようになりました。人間としていかにあるべきか――これが今日の最大のテーマとなっております」 . . . 本文を読む