伸一は、謝意を表したあと、この日を記念し、「新たな民衆像を求めて――中国に関する私の一考察」と題する講演を行った。
中国は、「神のいない文明」(中国文学者・吉川幸次郎)と評され、おそらく世界で最も早く神話と決別した国であるといえよう。
講演では、司馬遷が、匈奴の捕虜になった武将・李陵を弁護して武帝の怒りを買い、宮刑に処せられた時、「天道」は是か非かとの問いを発していることから話を起こした。 . . . 本文を読む
さらに、伸一は、未来を考えるにあたっての、自分の態度を語った。
「私は未来予測という作業は、未来はどうなるかではなく、未来をどうするか――ということに真の意義があると思います。
一人ひとりの人間の生きることへの意志が人生の全体に反映され、その時代を彩り、やがて歴史へと投影されていく。新しい道は、こうして開かれていくと信じています。したがって未来は、現在を生きる一人ひとりの胸中にある、さらに日々 . . . 本文を読む
「あなたは、文明の旅をして来られたわけですね。ところで、高度に発達した文明をもった国々が滅び去った共通の原因は、どこにあると思われますか」
伸一は答えた。
「すばらしい質問です。もちろん、そこには、国内の経済的な衰退や内乱、他国による侵略、あるいは疫病の蔓延、自然災害など、その時々の複合的な要素があったと思います。しかし、一言すれば、本質的な要因は、専制国家であれ、民主国家であれ、指導者をはじめ、 . . . 本文を読む
ピラミッドの建設は「本質的に自発的活動であった」のであり、その建設の労苦のなかで、エジプト人が初めて「民族の意識をもつ国民になった」ことこそ、ピラミッドがエジプト史上に果たした真の意味があったとする見方もある。今日まで残っている大型のピラミッドは、すべて、このクフ王の大ピラミッドを中心にして、一世紀ほどの間につくられている。大ピラミッドは、まさにエジプト民族の“昇りゆく太陽”のごとき勢いの結晶であ . . . 本文を読む
山本伸一は、ヒトラーのユダヤ人迫害の経緯を語った後、強い口調で言った。
「忘れてならないのは、ヒトラーも、表向きは民主主義に従うふりをし、巧みに世論を扇動し、利用していったということだ。民衆が、その悪の本質を見極めず、権力の魔性と化した独裁者の扇動に乗ってしまったことから、世界に誇るべき“民主憲法”も、まったく有名無実になってしまった。これは、歴史の大事な教訓です」 . . . 本文を読む
「正義の思想は人民によって具現される」とは周恩来総理の鋭い洞察であった。その人民を見下して足蹴にし、栄耀栄華にふける権力者は、必ず滅び去る。それは歴史の鉄則といってよい。また、中国唐代の帝王学の書『貞観政要』には「国は人民を本とし」とある。これは万古不易の原理である。根本の人民を忘れれば国は崩壊する。 . . . 本文を読む
賢人は安全な所にいても危険に備え、邪な愚人は、危険な状態にあっても、それに気づかず、ただ安穏を願うというのである。栄枯盛衰は時流が決するのではない。人間の一念と行動が決するのだ。 . . . 本文を読む