その猫を見かけるようになったのは札幌の一番暑い頃だったと思う。
最初に気づいた時、その猫は豊平川・ウオーターガーデンの柴垣の
中から顔を出していた。
最初は川沿いの家の外飼い猫が遊びに来ているのだと思っていた。
しかし何日たってもその猫はそこらへんにおり、捨て猫だと気づいたのは
数週間後のことだった。
試しにカリカリ(猫の餌のこと)をあげてみると、やはりガツガツと食べている。
我が家にはすでにわがままなお嬢様ニャンコ達もいるので連れて帰るのも
ためらわれ、逢うたびに餌を置く日々が過ぎていた。
豊平川沿いは冬になると積雪場となるので野良生活が続けられる場所ではない。
それでなくても真冬に氷点下10度以下になる札幌で野良猫が屋外生活を送るのは
不可能と言える。
意を決してキャリー片手に野良猫捕獲を試みるが上手くはいかなかった。
タイミングの神様は何時も不意にやってくる。
或る朝、いつものように河川敷散歩をしていると餌をもらうことに馴れた
野良猫が近づいてきた。
キャリーや袋を持っていないので捕まらないことを知っているのだ。
「猫は首の後ろをつかまれると大人しくなる」
突然首の後ろをつかまれて我が家に連れてこられた野良猫は
餡子(アンちゃん)と呼ばれることになった。