烏有亭日乗

烏の塒に帰るを眺めつつ気ままに綴る読書日記

軍事学入門

2007-06-20 20:05:07 | 本:社会
 『軍事学入門』(別宮暖朗著、ちくま文庫)を読む。
 十九世紀以降の先史について具体例を挙げながら、軍事・外交について素人にもわかるように解説した本である。戦争を始めるにあたってどのような計画がなされるのか、勝算をどう見極めるのか、戦後処理はどのようにするのかなどなど論じられることは具体的である。平和論者からみればいわゆるタカ派の議論なのであるが、現実論者の著者からすれば、「非武装中立」などというお題目を唱える平和論者こそ、客観的に世界を分析しなさいよということになる。考えてみれば、学校の授業ではまず軍事学のことは教わらない。だからおそらくほとんどの日本人は軍隊が実際にどのような構成で、どう動くのかということには詳しくないはずである。歴史で習うのは政治史が中心で、戦争はあくまでそれに付随する事件であるから、実際の戦争のケース分析などはない。たんなる観念として戦争は避けるべきだと教われば、戦争絶対反対という抽象的なことしか考えられなくなる。戦争は悲惨であることは間違いない。避けるべきであることも間違いない。しかし戦争勃発の原因や軍備、戦争の遂行について知らなければ、戦争回避についての備えの知識は実らない。
 著者としては、軍事全般についてもっと現実的なことをより多くの人に知ってほしいということだろう。そして何よりも戦争を未然に回避するためには先制攻撃をいかに回避するかということが何よりも重要であること、そのために他国の軍事バランスを考慮して現実的な外交戦略を行っていくことが国家の生き残りのためには必要であることがメッセージとして感じられる。
 トルストイの言葉をもじっていえば、平和な国家というものはどれも似たようなものであるが、戦争を行っている国家はどれもそれぞれの事情があるものなのだ。平和について論じるためには平和以上に戦争について知った上で議論する必要があるとこの本を読んで感じた。