業務日誌

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あいつの名はケアマネージャー

特養優先入所指針 その3

2008年04月27日 | 事例検討
【根回し】
ねまわし ―まはし 2 (名)スル
(1)木を移植するに先立ち、根の周囲を切り詰めて細根を発達させておくこと。
(2)事を行う前に、関係者に意図・事情などを説明し、ある程度までの了解を得ておくこと。
「関係方面に―する」
---------------------------------------------------------goo辞書より

介護サービス事業というヤ○ザな業界におりますと、この根回しがいかに大切かをイヤというほど思い知らされます。
以前私が青かった頃は、根回しという言葉にあまりいい印象を持ってなかった。
今だって本当はそうです。
でも、それは単なる誤解でした。
実はとってもとっても大切なことなんですよね。



さて、選択の余地なし+突然だったとはいえ、運よく徒然荘という特養に入ることが出来たというのに、家族の意向でわがひがし会系列の“あいの家”への転所を目指すことになったジェシカ。
ジェシカの夫ディカプリオのケアマネであり、ジェシカの元ケアマネでもあり、かつひがし会に勤務している私のところに、この夫婦の次女サブリナから相談の電話がかかってきました。

「特養から特養への転所ですか!?」
ハナシを聞いて、最初私はそりゃすごく驚きました。
「一体どうしてですか(⇒バカかあんたらは)?徒然荘に何か問題でもありましたか(⇒入りたくても入れない高齢者が、それこそ特養難民と言われるくらいいて困っているというのに)?」
サブリナは、転所したい理由として
・今いる徒然荘はたしかに良い特養かもしれないが、スタッフの対応がもうひとつ気に入らないし、全幅の信頼というカンジではない。
・姉ローラが探してきた“あいの家”は、全国的にも評価が高く、また、社会福祉実習中の甥(ローラの息子)たちの間でも評判が良かった。それを聞いて、どうしてもそこに母を入所させたくなった。
というふたつをまず挙げました。

そんなの自己都合じゃん、と思いました。
特養に入れた後ろめたさから、「ここはダメだ」「他のもっといい施設に入れたい」などと言い出したりする、厄介な家族感情ではないかと。
実際ジェシカは、多少の問題はありましたが、やっと徒然荘になじんできつつあるんです。わざわざよそに移す必要性が感じられなければ手伝えない、と思いました。
そこで私は
「私はジャシカさんにとっては『もと』のケアマネですし、サブリナさんたちご家族の思いを私が否定するつもりはまったくないのですが」
と前置きして、なんとか転所を考え直すように説得にかかりました。
あきらめさせようと思ったんです。

「だいいち、ジェシカさんの住所地はひがし市ひがし区ですよね?“あいの家”はK市ですよ。K市にはご親戚か何かおられますか?」
ジェシカにはK市在住の親類はおろか、友人知人すらいませんでした。
「ひがし市のような大きな市にはあまり関係ないのですが、たしかK市には『地域枠』みたいなものがあったと思います。地域住民を優先して入所させましょうというしばりのことです。
たとえば『親戚がジェシカの面倒をみることになりました』と、徒然荘を退所したとして、K市に住所を移して…という裏技ぐらいは必要ですよ。それが出来ますか?」
サブリナ沈黙。

前回も書きましたが、特養入所者が、入所している特養に特に問題があるワケでもないのに転所を希望しても、スムーズに移れるはずはありません。
どこでもいいというならハナシは違うでしょうが、サブリナやローラの目指すあいの家は300人以上の待機者を抱える優良特養です。
特養から特養へは移れません、という法律はありませんが、リアルに無理です。

また、特養には特養のオキテというか、モラルがあります。
徒然荘は県内に複数の特養をもっていますし、“あいの家”のあるK市にもやっぱり徒然荘その3だかその4だかがたってます。
そうヒョイヒョイ受け入れてしまってはカドたちまくります。

どう考えてもこの話は無謀すぎると思い、腹も立ってきました。

「住所は今のままで、ジェシカさんをなんとか老健に飛ばして、つまりワンクッションおいてまた別の特養へ、という方法もありますが、老健にしても、現在特養に入所している状態では、そうすんなりと入れませんよ。緊急性も必要性も感じられないし、説得力がありません。もし私が、もとのケアマネとして、相談員にバックの事情を聞かれたとしても、私自身がこの転所に緊急性も必要性も感じられないので、『よろしくお願いします』と言う自信がありません」
私はそう言って、この転所話には一切協力すまいと、それをハッキリとサブリナに伝えようと思いました。

しかし、このあと彼女の話を聞いているうちに、ローラとサブリナ姉妹がジェシカを“あいの家”に入れたいと思う理由が、他にもあったということがわかってきたんです。


                        つづく