学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

無題

2007-07-08 20:54:47 | Weblog
空は快晴である。
昨夜遅く実家へ帰省し、数ヶ月ぶりに帰った
自分の部屋から外を眺めてみる。
田んぼの青々とした稲が風に揺られ、
稲と稲が触れ合う音が耳に心地よい。

こう天気が良くては、家に居る道理はあるまい。
久しぶりに仙台市博物館へ行くことにした。
博物館では、エジプト考古学者である
吉村作治先生の発掘調査の展覧会を開催しているとのこと。

開館時間を少し過ぎたあたりに博物館へ到着したが、
すでに駐車場はすべて埋まっていて、
数台の車が待っている状態だった。
不快な表情をしている運転手の顔を見ると、
自分は車で来なくて良かったと思った。

私が目を引いたのは、小さな「アフロディテ像」と
美しく、品位をたたえたコバルトブルーの「ミイラマスク」だった。
特に「ミイラマスク」は圧巻であった。
あの現世ではない、どこか遠くを見ている目の表情、
くどいが品位と威厳を漂わせる姿。
あの目と視線を合わせるには一定の勇気が必要な気がした。

この展覧会、総合としてみると、あまり良くなかった。
吉村先生の功績はすばらしいものであることはよくわかったが…。
そもそも、わざわざ仙台市博物館でエジプト展を行うコンセプトが
良くわからない。(私は何か仙台とつながりがあるのだと思っていた)
また、展示室のもっとも最初に吉村先生が感銘を受けたとされる本を
ずいぶんと豪華な展示ケースに入れているのに私は驚かされた。
吉村先生がエジプト考古学に興味を持ったことはよくわかるが、
あんな主を凝らしたケースに入れる必要は全くないと思うのだが。
あまり博物館の学芸員は関わっていないのだろうか。
その他、色々と言いたいことはあるのだが、ここまでにしておく。
ここ最近の仙台市博物館は非常に面白い展覧会を開催していただけに、
これはがっかりであった。

今日は少し辛口の批評である。
なぜ辛口なのかは自分でもわからない。
展示を見ていると、何だかやけに腹が立って、
私らしくも無い、どうも妙な心地である。

実習生のいない夏

2007-07-06 20:58:20 | Weblog
例年、8月になると博物館実習生が来て、
当館で学芸員の仕事を学んだり、手伝ってもらったり
するのですが、今年は珍しく希望者がいませんでした。

当館は、7、8月に大規模な展示を行うので、
少しでも人手が欲しい状態。
いつもの夏であれば、実習生に手伝ってもらえるのですが、
今年はそれができないから、ちょっと大変な予感。

大学生のフレッシュな力が欲しい!と切に願う、
7月の夜でした・・・。

近頃の文学

2007-07-05 20:21:53 | Weblog
芥川賞と直木賞の候補作が挙がりました。
果たして、どの作家が受章するのでしょうか。
今年は小説家だけではなくて、脚本家や漫画家も
エントリーしているそうで、大変多種多様な
職業の方がいらっしゃるそうです。

ちなみに、私はあまり最近の作家では、
村上春樹さん以外はほとんど読みません。
私はもっぱら古典ばかり読むのです。
本棚に目をやると、ほとんど岩波文庫ばっかり。
ときどき角川文庫が混じる程度でしょうか。
本棚を見ると、その人の好みが良くわかるでしょうね(笑)

古典は読んだ後に、達成感があります。
難しい数学の問題が解けたり、登山をして
頂上まで上り詰めたような感覚。
あるいは非常に考えさせられたりと・・・。
そんな心地が好きなのです。

近頃の文学は、正直に申し上げてわからないのです。
それほど個人の表現する内容が多種多様になっているのでしょうが、
あまりにも文章が軽すぎやしないかと思うのです。
川端康成はかつて「文字を書くことは写生することとなんら変わりないのですが、
それが今の若い作家にはできない人が多いようで・・・。」
と憂いていました。
文豪が途絶えて久しい日本文学(そもそも文豪などというのが
古いのかもしれません)。
これから一体どこへ向かうのか。

そんな近頃の文学について思った話でした。

築100年の小学校

2007-07-04 20:14:14 | Weblog
今日は仕事で築100年の小学校へ行ってきました。
もちろん、全てが建てられた当時のままでは
ありませんが、どことなく気品漂う雰囲気。

洋風建築で、天井がとても高いのと、
廊下の窓が大変高い位置にあって大きいのが
特徴のように見えました。

私の住む街では、歴史的な建造物はほとんどなく、
ましてや100年前の洋風建築など見たこともなかったのですが、
意外なことに、小学校が残っていたんですね。
空襲にもあわず、よく残っていたものだと感心します。

私は明治、大正期の建築がとても好きなので、
興味深く観る事が出来ました。
私と同じく、明治、大正期の建築に興味がある方は、
山形県の鶴岡市や宮城県の登米をオススメ致します!



南方熊楠に惹かれる

2007-07-03 20:26:12 | Weblog
南方熊楠という人物は御存知でしょうか。
明治から昭和にかけての博物学、生物学、民俗学など
多種多様な専門を持つ学者。
また十八ヶ国語を自由に操ることができたといいます。

彼は抜群の記憶力を持っていたそうですが、
その記憶力を養った方法が、おそらく、
本の筆写。幼い頃から本を書き写す方法で、
その本をまるごと自分の知識にしてしまうという
破天荒な勉強方法で、すさまじい量の知識を得たと
いいます。

何とはなしに伝記を読んでいましたら、
彼の興味を持ち始めました。
私は勿論、博物学や生物学は専門外なのですが、
同じ学を仕事とするものとして、
熊楠の勉強方法は興味深いものでした。
さすがに私は本をまるごと筆写するという
方法は取れないと思いますが、彼の
学問に対する情熱に感じ入った次第です。

しばらく熊楠に夢中になりそうな予感(笑)

ショパン、ベストアルバムを買う

2007-07-02 20:35:00 | Weblog
カーテンを開けると、空はどんよりと
灰色に染まっていました。
せっかくの休みなのに、朝からこんな天気だと
うんざりしますが、今は梅雨の時期ですから
しかたがないことなのかもしれません。

何とはなしに街へ出かけて、
ショパンのベストアルバムを買ってきました。
早速、一番好きな名曲「英雄ポロネーズ」を
かけてみる。
爽快なリズムが、雨でふさぎこんだ気持ちを
ふきとばしてくれるような心地。

ショパンのおかげで、明日から、また仕事を頑張ろうという
気持ちになれた休日でした。
(私は単純ですね:笑)


晩年の小林清親

2007-07-01 22:00:08 | Weblog
今日からいよいよ7月ですね。
テンプレートを花火に変えてみました。

さて、今日は再び栃木県にある那珂川町馬頭広重美術館へ行ってきました。
展覧会のメインはもちろん広重の作品なのですが、
私が実際に美術館へ行ってみると、小企画展として、
小林清親の版画も展示されていました。
今日は小林清親の作品を見て思ったことを書きたいと思います。

小林清親は、最後の浮世絵師とも呼ばれる人物。
版画に遠近法を取り込んで、これまでにない陰影を強調させた
「光線画」と呼ばれる作品を描きました。
「光線画」は東京名所図絵でいかんなく発揮され、それまでの
浮世絵とはまったく違う趣になっています。

さて、このたび美術館で展示されていたのは、清親晩年の作。
日本名所図絵(肝心のメモを忘れてしまった!)と呼ばれる
一連の作品で日本三景や栃木県の神橋などが描かれています。

私は、一目見ただけで、おやっと何か違和感を感じました。
感覚的なものですが、何か力がないな、と。
あの「光線画」を描いた人と同一人物とは到底思えませんでした。
画題は面白いものもありましたが、線が弱々しく、
滝などの表現方法もどこか頼りない感じです。

解説パネルには、明治に入り、近代的なものを求める
人々とのニーズと合わず、あまり期待されたほど売れなかったと
ありましたが、おそらく、それだけではなくて、
晩年になり画力が落ちたせいでもあったのではないでしょうか。

すこし寂しい気持ちのする小林晩年の作品でした。