学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

癒しを埴輪に求めて

2010-03-24 20:15:29 | 読書感想
曇りが雨になって、雨が雪に変わる。春とは思えないほど、寒い一日でした。暖かい日がなかなか続きませんね!

今日の空模様の如く、目まぐるしく変わりゆく時代の流れ。近頃、心の癒しを求めに美術館に足を運ぶ人が多いそうです。おそらく、これから先も目まぐるしく、忙しい時代は続くのでしょう。今後、ますます癒しを求めに美術館へいらっしゃる方は多くなってゆくものと思います。

癒しのアート、といえば、思い浮かぶのが「埴輪」です。いわずもがな「埴輪」は、古墳時代(3世紀末から8世紀)に作られた素焼きの焼物ですね。死者の霊を慰めるために作られたとされ、古墳の周りを取り囲むように配置されました。教科書などで紹介される「埴輪」は人物や馬、家などの形象ですけれども、もっと調べてゆくと、鷹匠や道化師、巫女、動物では猿、鹿、鶏など多種多様でユニークなものがあります。これらの「埴輪」は、とにかくかわいらしい(笑)同じ焼物でも、縄文時代の土偶のような不気味さ、怖さがほとんどないんですね。また、「埴輪」の人物のなかには、人が笑った表情のものもあり、この古墳時代には一体どのような精神性を持った人たちが生活していたのか、とても興味が沸いてきます。私にとって「埴輪」は、まさに「癒し」です。

「埴輪」、特にその眼について、哲学者であり、文化史家の和辻哲郎(1889~1960)は『人物埴輪の眼』という随筆(本人は短文と読んでいたそうです)を書いています。弥生時代からの系譜が「埴輪」に見られ、眼は「魂の窓」であり、それがのちの「推古仏」にもつながってゆくのだと述べています。文化のバトンタッチ、といったところでしょう。

「埴輪」は一般的に美術館ではなく、博物館で見られるものですが、癒しを求めたい時にはちょっと会いに行くのもいいかもしれませんね!

●『和辻哲郎随筆集』 岩波文庫 1995年
 ※『人物埴輪の眼』は上記の本に収められています。
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