不定形な文字が空を這う路地裏

レコードの溝の数


日々は痴呆症のように過ぎる、こめかみを強く押しながら昨日の夢を思い出そうとしている、連続する無、連続する退屈、ともすれば永遠にでも続きそうなそいつを断ち切るために今日になにかを残したくて叫び始める、小理屈や知ったかぶりじゃ満足出来ないんだ、出来る限りのことを存分に吐き出して眠りたいのさ、欲望は勝手に肥大する、生半可な覚悟じゃ追いつけないぜ、ほんの少しでいい、昨日より先に行くことさ、それは速度かもしれない、それは深度かもしれない、どちらかである必要はないし、両方である必要も無い、どちらも無くたって構わないかもしれない、特定のテーマに従って言葉を並べ立ててるわけでは無いのだ、ただその日自分が求めているものに忠実であればそれでいい、歳を取れば少しは落ち着くのかと思っていた、でもそんなことはないね、見えて来るぶんだけ余計に求めてしまう、御託を並べる暇もないくらい書き続けて来たからね、水の流れは増した、あとは流れ続けるだけさ、何を目指しているのかは知らない、そんなことは重要なことじゃない、ただただ欲望に従っていればいい、そうすればある時求めているものがはっきりと形を持って話し始めるだろう、いつかはそんな日が来るだろう、そんな日のことを語ることは出来ないかもしれないけれど、必ず一度はそうしてはっきり見える日が来るだろう、俺はそれを半ば確信している、だからいつだってこうして新しい一行を紡ぎ続けている、俺は知っている、でも認識としては、知らないと言っていいようなものさ、俺はそれをはっきり言葉にしようとは思ってはいない、ぼんやりと鳴っている音楽のようにそいつはいつも俺の中のどこかで喋り続けている、でももうそいつのことは知りたいとは思わない、在処を探したって無駄なのさ、そいつは絶対に捕まえることが出来るところまで出て来ることはない、それは捕まえる必要が無いからさ、知りながら追わない、そうしているとずっと、一定の距離を取りながらこちらを窺い続けている、それは関係性としては非常に希薄なものなのかもしれない、もしかしたら直接関係のあるものではないかもしれない、でも決して手が届かないと思えるほど遠くまで離れることはない、無意味にはなりきらない、ということは少しばかり関係があるんだろうさ、並行し続ける影、並行し続ける雲、そんな風に視界の端に止めておくくらいがちょうどいい、こだわり過ぎるのは駄目さ、ただでさえ自由が制限されるこの無自覚な世界で、わざわざ自分でさらに強固な縛りを作ることは無い、詩がこの世に生まれて来たころには、そいつを教えてくれるテキストはなかったんだぜ、上等な後追いをしたいだけならそれでもいいんだろうけど、果たしてそれで満足出来るのかね?まあ、それでいいんなら別にいいさ、皆安易に認められたがるからね、自分がどれほどの程度かなんて考えることも無しにね、まあ俺に関係のある話じゃない、俺は好きにやらせてもらうさ、誰かがそうやって居心地のいい場所でお決まりの言葉を並べている間にね、そう、たくさんの時間が過ぎた、俺は時間と共に、自分が何を描いてきたのかを学んできた、言語的な認識など大して当てにならない、特に俺の書くものに関して言えば余計に、フォローチャートなんか必要な世界じゃない、意識下でそれをきちんと認識する必要なんてない、要は口に入れたものを飲み込んだか吐き出したかさ、それが蓄積した内奥の部屋の中で意味が発酵して新しいイメージとなる、新しい、見たことも無い文章になる、書くことを躊躇ってはいけない、決して書くことを躊躇ってはいけない、少しでもブレーキをかけてしまうと水門は開き切らない、折角流れ出そうとしている水の勢いを殺してしまう結果になる、書くということは詰まるところ、自分自身の根源が刻まれたレコードを制作するということだ、そこに俺の意志がある、人生があるんだ、俺自身の軌跡がそこに残されていなければ、俺は自分のことを亡霊のように思うかもしれない、何も知らぬまま死んで、成仏すら出来ない哀れな亡霊だとね、何も知ろうとせずに書き続けるということは、見知らぬ森に何の装備もなく入り込んでいくことに似ている、位置も方角も分からぬまま、彷徨い続けることに似ている、でもそれは逆に言えば、どこに向かって歩いても構わないということでもあるのだ、迷い尽くして出口を見つけた時の喜びは、ただ順路に沿って歩くだけよりずっと楽しいに違いないぜ、とかく現代は、話が早いことが美徳とされる、結論が早い、行動が早い、でも、そんなものは本当に見るべきものを置き去りにするだけに過ぎないのさ、波打ち際の水を手で掬って、この海は暖かいとか冷たいとか言って満足しているようなものだ、息を止めて、自分に見られる限りの海中を覗いて、それで初めて海を知るんじゃないか、そしてそれは自分の限界を知り、動ける範囲で動くことの大切さを知ることも出来る、本当の意味で知るということを、いまの世界は舐め過ぎている気がするんだよ、俺の言ってること分かるかな、俺は、分かったような顔をしたいわけじゃない、自分がまだ知らないでいることを、もっと深く知りたいと常に考えているだけなんだよ。


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