パトモス島の旋律
口にはつき出たもろ刃の剣 真鍮のように輝く脚で立ち
太陽のように燃えた顔の雪のように白い神の子がいた
天空には七つの封印をした巻物を携えた神がいて
目で満ちた六つの翼の四つの生きものと金の冠をかぶった
二十四人の長老たちがいる その間には
七つの角と七つの目の子羊がいて 七つの封印をつぎつぎに解く
「ヨハネの黙示録」
一
ピレウス港から一日費やして船は
ようやく闇のパトモス島に辿りついた
ぼくたちは砂浜に身を横たえ 夜明けを待つ
山の稜線が空に見え始めると
船着場の裏手から島を貫く一本の道があった
蜥蜴は岩石にしがみつき口をあけて陽を食み
猫は尾をふるわせ石垣に触れながら足を運ぶ
ヨハネが黙示録を書いたという教会にぼくたちはいる
この世の終末は 愚鈍なわれわれの遺伝子に刷り込まれ
時は廻り廻って いくたびと甦る機運を窺っている
ゼウスもキリストもいなくなった二十世紀の終わり近くで
裸体を晒したぼくたちは 魚のように泳ぎ呼吸する
全身を焼く太陽にひざまづき 海の青に染められる
海岸通りを一つ入った裏の道でムサカを喰らい
ワインで浮かれた島の人たちの手拍子で踊る
宿舎への暮れかけた道をゆっくり辿ると
三叉に別れる道の角 カフェの中庭から
老人たちの奏でるリュートと太鼓の調べが流れた
アラビア風の響きに心がかきたてられる
かつて島が辿った文明の揺籃に想いを廻らしながら歩く
人家の途絶えた道を照らす月と空を金色で塗りつぶした無数の星
一日の終わりを こんなにも安らかに迎えて眠りにつけるとは
別れが音もなく滑り込んできていることを知らずに
二
二十七年後の晦日 負債を抱えたぼくは君の家に急ぐ
雑草の原にそびえる十三階建ての四角いそれぞれの窓に
老後のための貯蓄に備えた つつましい生活と従順な人生がある
かつて差し出された救いの綱を ぼくはしかと握りしめたが
今は正義を盾に君はてのひらを返して ぼくを懸崖から落とそうと
己の善意を否定する 君もまた例外ではなかった
青春の放蕩にくさびが打たれた日
善意が悪意に一瞬にしてすれ違うのを見ただけのこと
それでも悠然と構えたぼくを 君は腹立たしく見ているのか
遠い昔に起こったことごとの跡を
ふたたび辿ることを強いられた新世紀の始まり
ぼくの残された時をもてあそぶ権利はだれにもない
――ひとりさまよう老境のぼくが透けて見えるか
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