ヒーメロス通信


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小林稔・「地上のドラゴン」詩誌「へにあすま」より

2016年07月23日 | 詩誌『へにあすま』に載せた作品

地上のドラゴン
       小林 稔                       

明け方、夢の中で少年は
一羽の鳥になった。赤い眼で私を見上げ
ぼくをにんげんにして、と脆弱な声でしきりに鳴いた。

数式がきみを追跡し迷路に追いこんで
英語の文字が怪獣になりきみを呑みこむが
破裂を告げる赤ランプが点滅するきみのところに
あやしげな蜘蛛の糸をつむいで送信される
のっぺらぼうの電子メール
遠方からケータイにとどく言葉たちに
白い線を引いたこちら側で
きみはたしかな手ごたえを送信する。

グロいアニメーション
鎌をふりまわし足首から流れていく。
モノクロの血、あざけりわらう少女の声
きみの胸にMの傷を引いていく。
オトナたちの仕掛ける罠にひきずりこまれ
きみのしなやかな体躯にはらむ魂は
世界と慣れ親しむほどに傷口をひろげるだろう。
後方にひかえるどろどろの沼地で
夕映えの空を瞬時に暗雲が立ちふさがり
きんいろの光が、まるで躍り出た龍のように
天も割れんばかりに発現する。
きみの瞳孔に神経の枝枝が走り
おさえられていた欲情は防波堤を乗り越えた。

きみと私がふたたび地上で結ばれるには
世界の〈悪〉に捕えられ
なぶられ、縛られ、それでも
十四歳の魂は私の愛にこたえられるか。
うなだれ、起立するきみの首は
私の手のひらにもみほぐされ
謎かけを求める底なしのやさしさに
ためらい、よろめき、すりぬけ
私の注いだやさしさがきみの掌からこぼれ
私の掌にそそがれ、きみは魂を甦生させなければならない。
少年の衣を脱ぎすてるきみも愛する者になり
生涯、私と友愛をいつくしむことができるか。

闘うべきはドラゴン。
私たちの内に棲む怪物dragon
世界の胎盤に貼り廻らされたその血管は
いまぼろぼろに崩れかけて
ロゴスに魂を刻印する私たちの旅は
とどまることをしらない。