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あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

親方物語 10

2014-09-23 | ガイドの現場
7月28日

頭が痛い。
久々の二日酔いだ。
昨日は嬉しくて飲みすぎた。
普段は仕事があってもなくても朝4時とか5時に起きる僕だが、今日は娘に起こされるまで寝てしまった。
こんなことはめったにない。疲れがたまっていたのかな。
撮影が無事終わり、最後の片付けの日なので朝はゆっくりできる。
娘と女房を送り出して、天気が良かったので犬と自転車で走りに行った後、オフィスへ行った。
オフィスはみんなが泊まっているホテルの一角にある。
ちょうど親方もオフィスへ顔を出す所で、挨拶を交わした。
親方も昨夜の後半はあまり記憶がないそうだ。お互い様だな。
今日の僕の仕事は雑用、頼まれるままに動く。
みんなの買い物に付きあい、そのままお昼をごちそうになり、レンタカーを返して一度家へ戻り、娘が学校から帰ってきたので自分の車に乗せてもう一度オフィスへ。



娘を車で待たせ、最後の精算を済ませ、親方の部屋へ挨拶に行った。
行ったはいいが、言葉が上手く出てこない。
何をしゃべろうとその場で色あせてしまう。
気持ちだけが溢れ言葉が付いてこない。
「今回は・・・本当にありがとうございました。」
それだけを言うのが精一杯だった。
そしてそれ以上の言葉は必要がなかった。
握手をしたら涙が溢れてきた。
涙というのは浄化の一環なので泣きたい時はボロボロ泣くのがよいのだが、さすがにそれも恥ずかしい。
涙がこぼれる前に作り笑いをして、そそくさと部屋を出た。
部屋の外で僕は泣いた。
車で待っていた娘に茶化された。
「お父さん、あのおじさんと別れて泣いちゃったの?」
「そうだ、泣いた。でもな、この涙は別れるのが悲しいからじゃないんだ。あのおじさんと出会えたことが嬉しくて泣いたんだよ。」
「ふうん」
娘が少し嬉しそうな顔をした。
こうして僕の夢のような十日間が終わった。



その後、山に雪が降り、僕は自分の現場である雪山に戻った。
きっと親方は日本で忙しく働いている事だろう。
一人で山に登りながらも、思い出に浸る。
いつでも僕の意識は、シーンごとの瞬間に戻る事が出来る。
終わってしまったわけではない。
瞬間とは永遠に存在し続けるものだ。
僕は又一つ経験という財産を得た。
こうして僕の心は豊かになり、その想いは人を幸せにする。
瞬間ごとに自分がやるべき事をする。
その積み重ねの上に今の自分が居る。
僕は妙に澄んだ気持ちになり、山に向かって手を合わせた。


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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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私も手を合わせました (Kazzy)
2014-10-04 12:59:33
親方物語を読了した時、私も画面の聖さんに手を合わせてお礼をいいました。撮影の裏側という興味深い事実、その事実から呼び起こされる思索、それらを過不足なく伝える文章。描写は怜悧なのに、眼差しは暖かい。きっと聖さんは冷たい頭と熱い心を持っている人なのでしょう。「親方物語」何度も読み返すお気に入りのシリーズになりました。ありがとうございました。
返信する
誉めすぎ ()
2014-10-05 17:34:25
Kazzyさん

それ、誉めすぎ。
ドラマは11日に放映。
でもNZでは見れないね~。
返信する

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