あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

森の力

2011-03-15 | 日記
日曜日、天気が良いので深雪と一緒に森へ行く。
せっかく深雪がクィーンズタウンにいるのだ。この機会にクライストチャーチ近辺とは違う、マウント・アスパイアリング国立公園の森を味わうのもいいだろう。
行く先はレイク・シルバン。この辺りでは一番きれいな森だ。
クィーンズタウンから車で1時間ちょっとで国立公園へ入る。
ルートバーンの川沿いで昼飯。
水は川から汲んだ水をそのまま飲む。
「わあ、冷たくておいしい!」
深雪も今回の地震で水のありがたさを感じたことだろう。
ルートバーンに架かる釣り橋を渡り森へ入る。
森の中は木漏れ日が差し込み別世界だ。
「わあ!きれい」
「きれいだろ。こういうきれいな所はエネルギーが高い所なんだぞ。それをもっと感じてみよう。」
「どうやって?」
「簡単さ。大きく深呼吸すればいいんだよ。はい息を吐いて~。胸の中が空っぽになったら大きく息を吸う。もっと吸って、もっともっと。そしたら息を吐く」
「はあ~」
ゆっくりと歩きながら、二人で深呼吸をする。
手を軽く擦り合せると指先がピリピリとしびれてくる。
「なんか指の先がしびれて、電気があるみたい」
「それがエネルギーだ。オマエがエネルギーを受け取っている証拠だ」
「ふーん」
「街よりも森、それもこういう原生林はエネルギーが一段と高いから簡単に感じられるんだよ」
「面白ーい」

道には落ち葉が敷きつまり、歩いていて心地よい。
こういう所を歩いていても、木の根っこを踏む感覚と落ち葉を踏む感覚は違うだろ?石を踏んでも違うし土も違う。」
「コケもね」
「そうだコケを踏んでも違う。よく分かってるな。コケを踏んで歩くときはコケに『すまんすまん』と謝りながら歩くんだ」
「すまんすまん」
深雪はそう言いながら道の脇のコケの上を歩く。
「深雪さん、この木の名前は?」
ボクは一本の木を指して言った。
「えーと、ペッパートゥリー」
「なんでペッパートゥリーって言う?」
「葉っぱをかむとペッパー(こしょう)みたいな味がするから」
「そう、良く出来ました。じゃあこれは?」
ボクは別の木を指した。
「うーん、分からない」
「じゃあ、この葉っぱを一枚つぶして匂いをかいでごらん」
言われたとおりにやった深雪は顔をしかめた。
「うわ、臭ーい」
「臭いだろ。これはスティンクウッド。臭い木だな」
「お父さんが、その時に合わせておならをしたのかと思った」
「違うよ。先にその名前を言ったら深雪は臭いかなって思っちゃうだろ?だから先に匂いをかがせたんだよ。この葉っぱの形な、こういう葉っぱがスティンクウッド。又一つ覚えたな」
教育とはこういうものだ。

歩いていると小鳥が寄ってきた。ファンテイルだ。
ひらひらと蝶のように舞いながら、目の前の枝から枝へ飛び回る。
ここのバードウオッチングは双眼鏡を使わない。じっとしていればロビンのように足の上まで乗ってくる鳥もいる。
自分が森の気を感じ高まると鳥の方からやってくる。それは良いサインでもある。
「やあ、ファンテイル君、こんにちは。来てくれたんだね、ありがとう」
「ファンテイルちゃん、かもしれないよ」
「まあ、そうだな。雄か雌か分からないもんな」
他愛のない会話が楽しい。ボクは幸せである。幸せとは常にそこにある。

「よし、じゃあ次は洞窟へ行こう」
「どうくつ?どうくつがあるの?」
「ああ。この前来た時に見つけた。」
「みーちゃん来たことある?」
「ないよ。オレもこの前はじめて来たんだから」
「怖い?」
「怖くないよ。ほら、こっちだ、行くぞ。」
ボクらは道を外れ、コケを踏みながら洞窟へ向った。
途中、小さな流れを越える。
「ねえ、お父さん、この水は飲める?」
「ああ、飲めるよ、飲んでみろ。」
深雪が流れのそばで水をすくい飲む。とてもよろしい。
ちょっとした斜面を登ると洞窟がある。洞窟と言っても奥行き15mぐらいだ。入り口が広いので奥まで光が差し込む。
「へえ、こんな所があるんだ。みーちゃん、サムナーのそばの洞窟は知ってるよ。何か似てるね。」
何年か前にサムナーのそば、レッドクリフの洞窟までのウォーキングトラックを家族で歩いた。
「そうだなあの洞窟に似てるな。あそこもこの前の地震で崩れちゃったかもしれないな」
洞窟の入り口辺りは一段高い所にあるので、森を立体的に見ることが出来る。
「ほら、ここから森を見てみろ。今歩いてきた場所が違う角度で見えるだろ」
「うん」
「よろしい、さ、行くぞ」

この道は砂利を敷いていないので場所によってはぬかるんでいる。
ぬかるみを避け、端を通ると別の道ができる。
踏み跡はたくさんあり、歩きたいところを歩けばいいのだが、ボーっと歩いていると本道から外れてしまうこともある。
そんな時に頼りになるのが三角形のオレンジマーカーだ。この国の道しるべは全てオレンジで統一されている。
「さあさあ、深雪さん、あそこのオレンジマーカーが見えるな。本当の道はあそこのオレンジマーカーまでまっすぐだけど、途中でぬかるんでいるだろ?」
「うん」
「こういう時はそこをちょっと避けて、オレンジマーカーへたどり着くように歩くんだ。どこを通ればいいか、なんとなく見えて来るだろ?」
「うん」
「こういうのをルートファインディングと言う。じゃあ深雪が先に歩いてみろ」
しばらく行くと、ふた周りぐらい大きなオレンジマーカーが出てきた。
「大きいのがある!」
「そうだな、何故ここに大きいのがあるのか分かるか?」
「うーん、間違えやすいから?」
「そうだ。ちょっとこっちを見てみろ。なんとなく道が続いているようにも見えるだろ。こういう所は間違えないように大きなのをつけるんだ。」
「へえ、あ、あっちにもある」
「あそこも間違えやすい場所だな。オマエが生まれる前にお父さんとお母さんはここで間違えてまっすぐ行っちゃったんだ」
本来の道は右に曲がって橋を渡るのだが、この橋が見えにくいのとまっすぐ行く踏み跡がちゃんとした道みたいなので、間違える人が多かった。
「こっちへ行くとどうなるの?」
「どこへも出られない。道はどんどん細くなって最後は歩けなくなっちゃう」
「ふーん」
橋を渡るとすぐに湖だ。氷河の載った険しい山が正面に見える。ここで休憩。

この場所はとことん平和だ。
ここにいるとクライストチャーチの地震も日本の地震も、夢の世界の出来事のように感じる。
だが実際にはクライストチャーチでは復旧が急ピッチで進められているし、日本では津波にのまれたくさんの人が死んだ。
今この瞬間も生きている人を救い出す作業は続けられている一方、地球の裏側では戦争で人間が人間を殺している。
自分にできることとは一体何なのだろう。
ボクは常にそれを考えながら生きているが、その答えの一つがここにある。
この瞬間、娘と二人でこの森に包まれ、森の気を感じ、自分自身を高める。
自分を高めることにより、地球の波動を高める。
それは死んだ魂を慰め、復興のため働く人に力を与え、争いをしている人に気付きのチャンスを与える。
目に見えないものだが、僕は何万もの明るい光を感じる。
その光と共に世界を照らすのだ。
それがこの森も望んでいる事だ。
ボクは幸せな気持ちに包まれ帰路についた。


コメント (2)
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