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あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

ファーンヒル トラック 1

2010-12-10 | 
初夏、花が咲き始める時期、ボクは友達のキヨミちゃんの家にお世話になった。
キヨミちゃんは数年来の友達で、以前はルートバーンでガイドをしていた。
マウンテンランニング、マウンテンバイク、バックカントリースキー、スノーボード、ロッククライミングその他もろもろをこなすスーパーウーマンだ。
彼女はバイタリティーの塊り、内面からにじみでる美人で、出会う人を幸せにする力を持っている。
本人にそれを言っても「え~、あたしは普通にやってるだけよ」というのん気な答えが返ってくる。
彼女のパートナーのマイクがこれまた面白い男で馬が合う。
キヨミちゃん以上にありとあらゆるアウトドアをやる。
おかげで一年中擦り傷が絶えない。そのキズを人に見せてうれしそうに話すのだ。自分の怪我をこんなにうれしそうに話すヤツを今まで見たことがない。
ヤツも元ガイドで以前はラフティングのガイドやトレッキングのガイドをやっていた。
話し好きなので会話がいつまでも終らない欠点はあるが、僕らは心の深い所で繋がっている。
二人は去年から自分たちのビジネスを始めた。
ルートバーンでガイドをやっていた経験を活かし、お客さんの車を廻し自分達はルートバーン39kmを走りぬけ反対側で車をピックアップして帰るというものだ。
一週間に何回もこのコースを走るという、彼らにしかできないことをやっている。
マイクの父親クリスがこの家のオーナーだ。
70に手が届くころだろうが、トライアンフのナナハンを乗り回し、週3回スイミング、週2回ヨットのレース、週1回ピアノのレッスン、合間に仕事という多忙なおじさんだ。
この国の元気の良い老人を絵に描いたような人だ。
引き寄せの法則どおりここに居るフラットメイトも明るい光を持っている。
アユミちゃんは以前ミルフォードトラックの山小屋で働いていた。一人でどんどん山歩きに行く行動力のある娘だ。彼女も内面から光っている。
木を基調とした山小屋風の家は市街地の外れにあり、ウォーキングトラックのすぐ脇、ブナの森に半分かかっている。
鳥も多く毎朝ベルバードの鳴き声で目が覚める。庭にいるとケレル、ニュージーランドピジョンという大きな山鳩が飛んでくる。
庭の畑はマイクとクリスが良く手入れをし、野菜が青々と茂っている。
とてもエネルギーの高い家だ。

ある夕方、庭の裏のウォーキングトラックを歩いてみた。
トレッキングブーツをはき森に入る。ここは散歩をする人も多い。
10分も歩くとダムに出る。
ダムと言っても幅10mぐらいの物だが、昔はこれで水をまかなっていたのだ。今は使っていないパイプが下へ延びている。
あたりはうっそうとしてシダが生い茂る。ここはちょっとした渓谷だ。
クリスの話だとこの辺りには土ボタルもいるそうだ。
スカイラインゴンドラとの分岐を越えると、極端に人が減る。
新しく作っているマウンテンバイクのコースを横目に歩く。
まったくパケハ(白人)ってやつは、どうしてこんなに自然の中で遊ぶセンスが良いんだろう。ラフティング、キャニオニング、ケービング、こんなのあげていったらきりがない。
自然の中で遊ぶという能力において、パケハは断然優れている。そのかわり味覚は絶望的だ。
これは民族の持つセンスである。それが森の中のコースに現れている。
こういうのは嫌いではない。

ブナの森をゆっくりと上る。
緑色のランが咲いている。グリーン・フーディッド・オーキッドだ。
「へえ、こんな所にも咲くんだ。」ぼくはつぶやきながら花を見た。
ルートバーンやミルフォードではよく見るが、こんな街の近くにもあるとは思わなかった。
チッチッと小鳥の声がする。視界の隅で動く鳥がいる。ライフルマンだ。
ライフルマンとは軍隊の狙撃隊のことだが、色が軍服の色に似ているというだけでぶっそうな名前をつけられてしまった。
しっぽが短くコロコロと可愛い鳥だ。ピンポン玉ぐらいの大きさで、この国で一番小さな鳥である。
これもルートバーンではよく見るが、街の近くで見るのは初めてだ。
これがニュージーランドの奥の深さなのだろう。
谷の奥で沢を越える。ここで水を補給。
こうやって流れている水をそのまま飲めるなんて。幸せをかみしめる。
あれは南米アンデスでトレッキングをしたときの話だ。
あるきれいな沢を越えた。水は氷河から流れていていかにも美味そうだったが、周りの人にこの水は飲むなと言われた。
たまたまそこだけが悪かったのかもしれないが、山に行ったらそこの水を飲みたい。
その点ニュージーランドは天国だ。
きれいな空気、きれいな水があるというのは豊かなことなのだ。

しばらく上ると急に森が切れ視界が広がる。
そこはタソックなどの亜高山植物帯だ。
道端にブルーベルが咲いている。キキョウの仲間のこの花は咲き始めの時期は青い。時が経つとだんだん白くなってなっていく。
ボクは立ち止まり今しかない、はかない青さをじっくりと眺めた。
道はまっすぐ進むが、脇道にそれると景色は広がる。
タソックの中に座り、一休み一休み。
谷間の奥なので視野は狭くパノラマではないが、湖もよく見える。
この場所の良いところは人工構造物が一切目に入ってこない。トラックからは陰になっているので人が通っても僕がここにいるのは気付かないだろう。
家から歩いて行ける場所に、こんな所があるなんて・・・。
深いぞ、ニュージーランド。
この瞬間を一人楽しむ。
自然の美しさはその瞬間ごとにある。
この瞬間に感じる幸せは永遠のものであり、体験として自分の心に刻み込まれる。
それは心を豊かにし、自分というものを大きくする。
普段こういうことは国立公園などの原生林で感じるが、なかなかどうして街のすぐそばでも行く所へ行けば良い所はいくらでもある。
いや、街のすぐそばだからという盲点でもあるのかもしれない。

のんびりしているといつのまにか影の中に入った。
まだ日は高いが、この場所はベンルモント山の麓にあるのですぐに影に入ってしまう。
この国は日向は暑いが、影に入ったとたんに冷える。用意してきた長袖を羽織る。
そろそろ動くか。
トラックに戻り、しばらく進むと再び視界が広がる。
今度はワイドパノラマで湖が横たわっているのが見える。だが同時に住宅街も目に入る。
さっきまでのひっそりした自然のふところという感じではない。
自分の居場所はさっきの谷の奥だな。
一人で納得する。

コメント (1)
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