あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

ジャパントリップ 14

2009-10-16 | 
 市内観光の締めは回転寿司だ。
 目の前を寿司そのものが通るのだ。各自食べたい物を取ればよい。説明しようにも種類が多すぎて、僕の英語のボキャブラリーでは全然おいつかない。食べ始めるとすぐに説明をあきらめてしまい、自分が食べるのに没頭してしまった。
 鰯、鯵、鮪、それにこの季節ならば鰤は外せない。普段食べたいなあ、と思っていたものが次から次へと回ってくる。さらに地の物ではホタルイカ、カワハギの肝、太刀魚。
 僕の地元には漁港があり、近所には次呂長通り商店街という清水ならではの通りがある。通りには魚屋が並び新鮮な魚が常に並んでいた。通学途中にある魚屋の前にはみりん干しの臭いが漂っていた。
 そんな環境だったので毎日のように魚を食べて育った。特に鰯、鯵、鯖、秋刀魚など大衆魚と呼ばれるものが大好きだ。
 ニュージーランドと日本を往復していた頃、家に帰ってきて母親に、一番初めに何が食べたい?と尋ねられると鯖の味噌煮を頼んだ。



 妻が以前知り合いのイギリス人ににこう言われた。
「日本人は集るとすぐに食べ物の話になる」
 なるほど、確かにそうかもしれない。ガイドをしていても食べ物の話が一番盛り上がる。
 だが裏を返せば、食べるという事がそれだけ大切な事なのだ。だからこそ食文化というものが生れた。味についてうるさくない人の間からは食文化は生れない。
 ちょっと考えればわかる事だが、先進国の間でどれだけアングロサクソン、イギリス系白人社会というのがあるだろうか?
 アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド。これらがその国だ。では料理としてはどうだろう?
 アメリカ料理?イギリス料理?カナダ料理?オーストラリア料理?ニュージーランド料理?どれもあまり聞かない。
 同じ白人でも、フランス料理、イタリア料理、スペイン料理、こちらはしっくり来るだろう。たぶんこれらの国民は味にうるさい民族なのだろう。



 味にうるさい、といえば漢民族だろう。世界中にある中華レストランを見ればそれがわかる。
 以前、中国へ行った時の話である。
 あるレストランで地元の人と席が同じになった。英語を喋る人がその場にいて、彼が言った事を訳してくれた。
「おまえ達は、そうやってあちらこちらの国を見て回るのに時間とお金を費やすだろう。俺たちはこうやって仲間や家族と美味い物を食う事が一番大切なのさ」
 ナルホド、それは食文化が発達するわけだ。
 日本だって負けてはいない。
 海に囲まれた国で、周りにふんだんにある魚介類を美味く食べようとして、いろいろな技法が生れた。
 新鮮な物は生で、しかし切り方だって幾通りもある。腐りやすいものは酢で締めるし、太陽に当てて保存食も作った。その他、煮る、焼く、揚げる、蒸す。骨や頭はダシを取り、汁にする。
 食文化というのは言葉にも表れる。出世魚なんてものがある。成長によって魚自体の味が変るので、それに伴い呼び名も変る。しかも地域によって名前が違う。店に鰤の呼び名のポスターが貼ってある。いいポスターだ。



 野山に生えている植物だって同じだ。
 中には毒にあたって死ぬ人もいた。
 人は食文化を突き詰めて、道にまでなってしまった。お茶と同じだ。
 世界中を旅する人の間で、いい交わされる言葉の一つ、食はアジア。
 中華はもちろんのこと、タイ料理、韓国料理、ベトナム料理、インド料理、トルコ料理などなど、どれも立派な食文化を持った国だ。
 ここでパケハ(マオリ語で白人)の名誉の為に言っておく。個人のレベルで言えばパケハでも洗練された味覚を持った人はいる。友達のシェフはパケハだが、僕がつけたイクラを味わって、何とか自分の料理に使えないかと考えていた。それに日本人でも味オンチはいる。
 ニュージーランドの料理が全てダメというわけでもない。美味しいものはある。スコーンにラズベリージャムと甘くないホイップクリームの組み合わせなどは見事だ。
 パイも美味い。特にパン屋のパイは生地が美味いのでよけいウマイ。毎年パイのコンテストがあり、賞をとっているベーカリーのパイは流石にウマイのだ。個人的には挽肉とチーズのシンプルなパイが好きだ。
 ただ食文化としてみた料理全体に対する繊細さ、知恵、技法などは明らかに他の国に劣る。



 ニュージーランドで魚といえば白身魚か鮭がほとんどだ。鰯や鯖、鯵など、俗に言う青い魚はほとんど無い。今でこそ味にうるさいアジア系の移民が増えて食生活が豊かになったが、それまでは魚料理と言えばフィッシュアンドチップス(白身魚と芋のフライ)ぐらいしかなかった。
 普段の生活では滅多にお目にかかれないような鰯の握りが100円。甘エビだって100円。鯵だって100円。僕の横には100円の皿が山になった。
 先ほどの100円ショップといい、回転寿司といい、日本はモノが安い。
 日本から来るお客さんが、ニュージーランドは何でも高いと言う気持ちが分かる。

コメント
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