あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

ジャパントリップ 23

2009-10-26 | 
 羽田空港に着いて到着時間を調べる。その時になって、ブラウニーの便名を書いたメモをホテルに忘れてきたのに気が付いた。
 まあ何とかなるだろう。その時には僕はまだ、ちょいとクライストチャーチの空港に友達を迎えに行くぐらいのつもりだった。
 たしかJALの1時40分出発と言っていたのでインフォメーションで聞いてみた。
「すみません。札幌を1時40分に出る便を教えて下さい」
「1時40分というのは無いですね。1時半ならあります」
「じゃあそれかな。それを教えて下さい」
「ハイ JL○○○○です」
「どうもありがとう」
 JL○○○○が到着して、僕達はゲートの所で待っていたが、待てど暮らせどブラウニーは現われない。荷物の受け取りの所には誰もいなくなってしまった。
「きっと何かの手違いで次の便で来るんだよ。それまでブラブラしていよう」
 僕は未だにのん気にそんな事を言っていた。

 札幌からの便は1時間置きにあるようだ。僕らは展望デッキに出て次から次へやってくる飛行機を眺めて時間を潰した。ひょっとして全日空かと思ったりして、別のターミナルへも行ってみた。もちろんブラウニーはいなかった。
 1時間経ち札幌便が着いたが待ち人来ず。
 再び時間を潰し次の便を待ったがブラウニーは現われない。
 さすがに僕もあせりだしヤツにもらったニセコの連絡先に電話をしても誰も出ない。何か事故にでも遭ったのだろうか。
 試しに清水の家に電話をしてみると親父が出た。
「オイ、ジェフ・ブラウンという人が成田から電話をしてきたぞ」
「えー!成田?それはいつ頃?」
 何故成田なんだ?成田空港ってのは国際線じゃあないのか。
「ほんの10分ぐらい前だ。それでこの電話番号に電話してくれとさ。いいか言うぞ」
 僕はメモを取って礼を言い電話を切った。
 そして自分のバカさ加減に腹をたてた。札幌から東京と言うのでよく調べもせずに勝手に羽田へ来て、おまけに便名のメモを忘れて確認もできず。
 いつまでも己のバカさを呪っても仕方が無い。
 さっそくもらった番号に電話をすると成田空港のインフォメーションだった。向こうが言うには、呼び出しをして電話番号を教えることしかできない、とのことだ。
 僕達は携帯電話を持っていない。ホテルまで30分以上かかる。僕達がブラウニーと直接話す事はできないわけだ。
 それなら誰か間に入ってもらおう。JCに電話をして事情を説明した。ホテルの名前と最寄りの駅を教え、ブラウニーから電話があったらそちらに向かうよう頼んだ。再び成田空港に電話、ブラウニーの呼び出しを頼み、JCの電話番号を伝える。

 やることはやった。
 僕達は羽田にいる必要がなくなったので、再びモノレールに乗りホテルに戻る。
 ヘイリーは人込みに疲れたのと、僕のいい加減さに呆れたのと半々の顔をしているが、自分では何もしていないので何も言えない。
 ホテルに戻り、まずJCに電話をいれる。
「ようJC、どう?ブラウニーから連絡があった?」
「あったよ。自力でなんとかそっちへ向かうって」
「そう、良かったあ。いやあ、まさか札幌から成田へ飛ぶとは思わなかったよ。まいったまいった」
「バカだねえ、全く。じゃあな」
 電話の内容をヘイリーに伝えるとヤツも安心したようだ。
 本来なら午後ブラウニーと落ち合いブラブラして、夜はクミと一緒にメシでも食おう、というシナリオだったのだが、こんなことになってしまった。
「じゃあヘイリー、クミと一緒に外に出るか?メッセージを残せばいいからホテルにいる必要はないぞ」
「いいや、オレはホテルにいるからオマエ達で行ってこい」
「じゃあ、オレ達は近くで飲んでるから、来たくなったらクミの携帯に電話をくれ」
「分った。オレは英語のニュースでも見てるよ」
「OK、ブラウニーは9時頃来るはずだから来たら連絡くれ」
「了解」
 そして僕はクミと夜の町へ出た。

 ホテルのそばの居酒屋で先ずはカンパイ。ブラウニーの事が気になるが、何かあったらクミの携帯に電話が来るだろう。文明の利器は便利だ。
 日本に来て2週間ほどになるが、僕は携帯電話を持たなかった。常に周りの誰かが持っていたので特に困ることはなかった。
 数年前あるスキー場で働いていた時、そこのスタッフ全員が携帯を持っていて、持っていないのはJCと僕だけだった。若い連中に良く言われた。
「じゃあ、JCとヘッジに連絡取りたい時はどうすればいいの?」
「手紙を書いてくれ。半年以内には返事が届くよ」
 そんなJCも携帯を持ち、僕だってニュージーランドでは携帯を持つ。
いまや携帯を持つことは当たり前であり、日本では携帯電話が無いと非常に不便なのだ。第一公衆電話が少なくなった。携帯の普及により誰も使わなくなったからだ。
 僕は携帯を電話として使う。必要な時以外は使わない。いろいろな機能がついているが使い方が分らないし、分ろうとしない。電話をかけられ、受けられ、メッセージを聞ければそれだけで良い。
 時代遅れと言われるかもしれない。しかし出来るだけシンプルにいきたい。それが僕のスタイルなのだ。

 クミの携帯が鳴った。ヘイリーだった。
「おうヘッジ、ブラウニーが来たぞ」
「そりゃ良かった。じゃあ俺たちは一度ホテルに戻る。5分後にホテルの前で会おう」
「了解」
 僕は嬉しくなり目の前の酒を飲み干し、ホテルへ向かった。
 2人はホテルの前で立ち話をしていた。
「ブラウニー!」
 僕は右手を差し出しながら叫んだ。
「ノー、ヘッジ、そんなのじゃ足りないぜ」
 そう言うなりヤツは僕を抱きしめた。そして僕らは背中をたたきあった。
 とりあえず腹が減っていると言うので近くの店へ行く。
「それにしてもスマン。本当にスマン。まさか成田へ行くとは思わなかったんだ」
「オレもあせったよ。何処を探してもオマエ達はいないし、途方にくれたよ。まあこうやって一緒に飲んでるんだから結果オーライだな。アハハハハ」
 ブラウニーに大きな借りができてしまった。
「だけどオレが思ったより早く着いたなあ」
「ああ、一度はこのまま成田で泊ってしまおうかと思ったけど、ヘイリーとヘッジと日本で最後の夜だしな。なんとか駅まで来たのさ。さて、どうやってホテルを探そうかなと思って駅から出たらヘイリーがいた」
「何で?偶然?」僕はヘイリーに聞いた。
「ああ、ニュースが終わって、なんとなくブラっとホテルの外に出てみたらブラウニーがいた。グフフフ」
 僕はすっかり嬉しくなり、また酒がすすんでしまった。
「じゃあ明日は午前中に東京観光。午後に成田へ向かおう」
「賛成」
 横にいたクミが話し出した。
「あのう、アタシ明日休みなのでよかったら案内しましょうか?」
「え~?いいの?本当に?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「ありがとう。それはおおいに助かる」
 ヘイリーとブラウニーにそれを告げる。2人とも僕のいい加減さを身にしみて知っているので大喜びだ。
 僕はますます嬉しくなり、気がついた時にはすっかりできあがってしまった。

コメント
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