900年生きてきた鬼がある夜ほろ酔いの気まぐれで死にかけた女を助けた。
この鬼はこんなに長く生きているのにニンゲンが残っていて、孤独と別れの辛さから死にたいと願っている。
人間だった昔に一度は死んだはずの彼が生きているのは、褒美か呪いか。
元凶の神は厳しいことを言うくせにつかず離れずひらひらと鬼について回っている。
(可愛いからみてるのよ、と産土神は言う)
死にかけた女は生まれなかったはずの子を産んで、幽霊たちはその子が鬼の花嫁だという。
唯一鬼の花嫁だけが鬼の呪いを解き永遠の命を終わらせることができる。
(私たちはみんなうんみょん運命が好き。
好きなくせに抗う。
生きたいのか死にたいのか、生きることは死ぬことなのに)
鬼の住処の洋館に同居することになるのは死神だし、とにかく画面には死があふれてる。
割れるものは全部割れる。
蝋燭は吹き消される。
横たわる鬼は蝋燭で囲まれる。
見ている私たちの目に映るしあわせなシーンもすべて、別離と死を孕むようになる。
つまりとても上手く無常を見せられる。
洋館で鬼と死神は料理をし洗濯をする。
これは絶対に省けないシーン、なぜかと言えばそれが生きることの本体だから。
特別でないことの重み。
見ている私たちにもだんだんそれが染み込んでくる。
絶世の美女ではない花嫁は幽霊を見ることができて、孤児として死と生の間で育つ。
天涯孤独なのに健気だったり、古風な鬼の好む感心な子だったりするけれど、多分一番効いたのは彼を特別扱いしないでほとんどタメ口だったこと。
不死で神並みの力を持つ鬼に気安く憎まれ口を叩き、どんないじわるをしてもやり返してくる少女は、なんて可愛かったろう。
だから鬼は花嫁に許しを乞う。
生きていいか、愛していいか、と。
だけど生きても死んでもうまくいかないんだな、鬼は鬼だし花嫁は人だから。
「残されたひとは一生懸命生きないと。
時々泣いても、また笑ってたくましく生きる。
それが愛してくれた人への礼儀」
そう言う鬼の花嫁の菩薩感。
人生一度目ってことはないだろう。
別れは不可避だけれども、それ以上に彼らは我らは深く出会う。
花嫁の言う通り。
「人は死ぬ。だから人生はうつくしい」
物語のメッセージは
「惜しみなく勇敢に生きよ」かな。
とてもよくできた物語だった。
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