多分以前に動物ドキュメンタリーで見た海鳥の営巣地、青い海を見晴らす崖の上の草原に、その鳥である私は立っている。
最初はかもめかなと思ったけれどそれよりずっと大きい、ずっしりと重く大きく強い。
アホウドリかな。
白く白い胸の完璧な曲線と充実感。
小さな羽根毛が風に吹かれてそこだけがひらひらと時折ひっくり返る。
ずっと腹側と水かきのついた足と足元のぬかるみに集中して、水に浮くことを水を掻いて沈まないでいることをやってきていたけれど、気がついたら私はここにいて強く大きな翼があることを知ったところだ。
どこに飛んでいくんですか、と聞かれて鳥の気持ちの私は答える。
「どこにでも行けるんです。
どこへいくとも決まっていません。
どこに行くかが重要なのではなく、どこへでも行けると自分の奥深くから知っていることが大事なんです」
じゃあどこかに行ってまた戻るかもしれないんですね、と言われて鳥の心の私がふたたび強く言う。
「同じ位置に戻ってきたとしてもそこは前とは同じ場所ではないんです」
そのまま鳥の気持ちで気分良く風に吹かれていた。
ひらひらとまた胸毛がたまにひっくりかえる。
どこにも行く予定はないけれど、一秒あれば飛び立てる。
今ここの風と太陽の角度と草原の様子と海の時間と全方向につながってこのように立っているけれど、何かの要素が変化したらすぐにでも飛び立てる。
「‥緊張とは違うんです。体内を内圧が満たしている状態はそこからすぐに動けるということで」
人間の私が座る観音堂では、一照さんが鳥の心を読んだかのような話をしている。