北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

海上自衛隊地方隊への一考察② ミサイル艇の有事任務を支援する沿岸砲兵部隊の防空網

2012-05-30 23:11:48 | 防衛・安全保障
◆スウェーデン方式、ミサイル艇護る沿岸砲兵部隊
 特集第二回目。地方隊の任務に基地の防護があります。即ち自衛艦隊の任務遂行上必要な基地機能を維持しなければならない事を示しています。海上自衛隊にも陸王自衛隊的な任務を行う必要がある、ということ。
Cimg_6402 平時におけるミサイル艇の任務と戦時におけるミサイル艇の任務は異なる、この点は最初に記しておきたいと思います。この区分を間違えますと欠点と利点を入れ替えることになってしまいますから、ね。ミサイル艇は平時に哨戒任務に当たり我が国周辺海域への敵対勢力の接近に対する示威行動を行い、同時に自衛艦隊は練度向上に最大限の努力を重ねる。対して有事の際はミサイル艇は位置を暴露すれば撃破されるため位置を秘匿しつつ絶対防護しなければならない海域での打撃任務と奇襲にあたり、第一線に出ての対水上戦闘対空戦闘対潜戦闘は自衛艦隊が担う。
Cimg_1403 さて、海上自衛隊は地方隊が有事に際して統合任務司令部を発足させ、海上部隊式を地方総監が担当、自衛艦隊は必要な戦力を提供し、平時には地方隊が沿岸警備や地誌情報収集を行うと共に自衛艦隊は練度向上を担当します。ここで、平時から必要な哨戒任務に地方隊が恒常的に自衛艦隊より抽出した場合、自衛艦隊は平時において練度向上に従事する機会を逸することになり、これは問題です。訓練のための自衛隊ではありませんが、訓練が無い状態での運用は能力を十分発揮できません。そこで、平時においては地方隊がミサイル艇を運用し、哨戒任務にあたる、ということを前回提案しました。
Img_4967 平時において哨戒を行うミサイル艇、それでは戦時はどうするのか。ミサイル艇は如何に戦時において生存するか、スウェーデンの事例を見てみましょう。ミサイル艇は脆弱性が高い装備ですが、その背景には小型と高速を重視したことから自衛用の艦対空誘導弾を搭載することが出来なかった、という部分にその弱点は収斂します。逆に艦対空誘導弾を搭載すれば一定範囲内の航空脅威には対処できるでしょうし、対潜装備を搭載したならば潜水艦の脅威に打ち勝つことも出来るのでしょうが、そこまで行きますと最早フリゲイトと表現するのが正しくなってしまうところ。
Cimg_7004 スウェーデン沿岸砲兵は現在、両用戦軍団に改編されています。陸上部隊と海上部隊に分かれ、海上部隊は沿岸砲兵部隊から両用戦軍団への改編期の規模で、満載排水量57tのムンテル級哨戒艇12隻、満載排水量31tの201型揚陸艇70隻、兵員20名を収容し速力35ノットで満載排水量19tの90H型強襲艇が125隻といった装備を有しています。基地や港湾施設の防備に兵員を輸送し、湾口部分での潜水艇浸透への対処、少なくとも防備に徹して局所的に運用した場合、能力はかなり大きいものがあります。
Cimg_6789 スウェーデン海軍は冷戦時代、中立を掲げつつソ連海軍の強大な戦力と対峙する中、沿岸砲兵部隊とミサイル艇や魚雷艇の連携を掲げ防衛に当たっていましたが、しかし、万一ミサイル艇が航空機の攻撃を受けた場合はどうするのか、簡単です、沿岸部に偽装網などを用いて退避し、攻撃の機会まで待つのです。それならばその沿岸部へ航空機や駆逐艦が接近した場合はどうするのか、非常に簡単です、沿岸砲兵が航空機を撃退し水上戦闘艦を砲撃し、ミサイル艇に防空網と防護機雷原という聖域を提供していたのでした。
Img_8143 現在のスウェーデン海軍の規模は海上自衛隊よりもはるかに小さく、数字としては潜水艦6隻、コルベット11隻、哨戒艇13隻、揚陸艇34隻、機雷敷設艦1隻、掃海艇11隻、航空機49機。人員6000名。我が国と異なり、長大なシーレーンを独力で維持する必要が比較的低く、加えて周辺情勢は安定しているほか、自給率は食料とエネルギー面で高く、北海油田などシーレーンは近傍にあることから沿岸防備に集中できるのですが、それにしても規模は限られ、この海軍力で最大限の能力を発揮する、という背景に沿岸砲兵の存在があったといえるかもしれません。
Cimg_2068 スウェーデンは海軍両用戦軍団、かつての沿岸砲兵部隊との協同を念頭に置いていました。実質には沿岸砲兵四個連隊を現在は一個連隊にまで削減されているのですが、陸軍とは独立した非常に強力な火力を有していたわけです。FH-77AD-KARELIN,CD-80/120mm沿岸砲やRBS15K地対艦ミサイルを有し、GIRAFFEレーダーを運用、更にRBS-70地対空ミサイル、TRIDON装輪自走高射機関砲を主な装備としています。大砲にミサイル、まるで陸上自衛隊の装備だな、と思われるかもしれませんが、沿岸防備には陸上自衛隊の任務と海上自衛隊の装備が統合運用される必要もある、こういえるのではないでしょうか。
Cimg_6290 この装備は海上自衛隊の地方隊警備隊とは根本的に次元が異なり、陸上自衛隊の各種装備に当てはめますと、以下の通りです。FH-77AD-KARELINはFH-70榴弾砲を装輪自走砲架に搭載したものに匹敵します。FH-77榴弾砲はボフォース社が開発した野戦榴弾砲で、155mm砲弾三発を起重機にて装填装置横の半自動装填装置に装填、一効力射三発を僅か15秒で射撃するほか、射撃姿勢からそのまま補助動力装置により時速15km/hで機動可能なのですが、FH-77AD-KARELINではこれをVME-A25C装甲トラックに搭載した簡易自走砲となっています。陸上自衛隊が開発中の火力戦闘車と比較すれば装填装置等で見劣りしますが、FH-70と比較すれば強力な装備です。
Img_5153 CD-80/120mm沿岸砲、これはFH-77を補完する目的でボフォース社が開発した榴弾砲です。砲身が長く、結果120mm砲ですが射程は21000mに達し、1985年に制式化となりました。野戦榴弾砲として開発されたFH-77は短時間での効力射と迅速な陣地転換に重点を置いた陸軍用のkじゃ法を沿岸砲兵が採用した形ですが120mm沿岸砲は沿岸横柄の要求が大きく反映された装備で、砲弾が小さく発射速度が速いことから、間接照準射撃ながら上陸用舟艇や小型哨戒艇に対する射撃を念頭に置く装備で、他方、自走用のほど常緑装置を搭載、時速6km/hでの機動が可能とのことです。基本はトラックにより長距離機動を担います。陸上自衛隊では比較できる装備が、退役した105mm榴弾砲くらいしか思いつきません。しかし、120mm砲は想定された運用の範囲では非常に近代的な装備で、着上陸を画策する相手には脅威というところは間違いないでしょう。
Cimg_8996 RBS15K地対艦ミサイル、陸上自衛隊では88式地対艦誘導弾に匹敵する、と簡単に言えるのですが、一長一短の部分があり、独特の地対艦誘導弾です。沿岸砲兵用のRBS15Kでは大型トラックに四連装発射器が搭載されており、射程はMk-1で110km、最新のMk-3で200km、概ね88式地対艦誘導弾と同程度で同時発射能力が一両当たり少ない、というところでしょうか。基本として30km程度内陸から運用するようです。長所としてはRBS15Kでは発射器のキャビン後方に管制室を有しているところで、88式地対艦誘導弾では連隊規模での運用が基本となていますが、RBS15Kは単体で目標情報へ対応できる点です。この方式、88式地対艦誘導弾は同時弾着過飽和攻撃を思考しているので運用思想の違いでもあるのですが。
Cimg_5953 GIRAFFEレーダーはこれらを統括する装備です。スカニア製大型トラックに搭載し、屈曲伸縮式マスト上にレーダーを搭載し警戒管制に当たるのですが、勿論地形障害はあるものの高所に設置すれば150km程度先までを警戒することが可能で、FH-77AD-KARELIN,CD-80/120mm沿岸砲、RBS15K地対艦ミサイルに対し目標情報を提供する装備です。陸上自衛隊の88式地対艦誘導弾には評定車が装備されていますがこちらは遙かに大型で、可搬式の移動レーダ装置と比較し非常に高い性能を持っています。
Img_2638 RBS-70地対空ミサイル、これは三脚に設置し運用を行う大型の携帯式地対空誘導弾です。携帯式ではあるのですが最新型のRBS-70-BOLIDEでは射程8000m、有効射高5000m、ミサイル重量17kgと非常に大型となっています。FIM-92Cを例に出しますと有効射程4800m、有効射高3800m、かなり大型であることがわかるでしょう。陸上自衛隊では93式近距離地対空誘導弾と81式短距離地対空誘導弾の中間というところ、陸上自衛隊では師団防空システムの支援を受けるため効率は非常に高く維持されていますが、ミサイル単体ですとRBS-70の性能は無視できません。
Img_6469 TRIDON装輪自走高射機関砲、ボフォース40mm高射機関砲を搭載する装甲トラックです。装甲トラックと言いますと、非常に陳腐な印象をもたれる方がいるやもしれませんが、その車両はボルボA-25C-6×6装甲トラックで、多目的キャリアとして開発された車両です、キャビン部分が装甲版と防弾ガラスにより防護されており、必要に応じて遠隔操作式銃塔所謂RWSを搭載することが可能です。多目的キャリアとして開発されているため一定の不整地突破能力を有しており、あのアーチャー自走榴弾砲も同一車体を採用しました、40mm機関砲は射程4000m程度ですが直進するため航空機の欺瞞行動を無視し、近接信管により損害を与えることが可能で、陸上自衛隊で言えば、L-90高射機関砲の自走型か、93式近距離地対空誘導弾に匹敵するといえるでしょう。
Cimg_7126 この種の装備、海上自衛隊が運用するにはやや手に余り陸上自衛隊の任務とも重複します。陸上自衛隊が地対艦ミサイル連隊、高射特科大隊、特科大隊と警備支援の普通科中隊に後方支援隊を統合して、沿岸防備混成団を各方面隊に創設してくれるならば非常に明快になるのですが、海上自衛隊のミサイル艇を支援する、有事の際の統合任務部隊設置に際して陸上自衛隊の指揮系統から取り外し、海上自衛隊の指揮系統に編入できるのか、など疑問が生じるのですが、特に用地接収や陣地構築の権限、陣地構築の適地とミサイル艇秘匿の適地の連携を如何に行うのか、難しい。
Cimg_6383 しかし、基地防空用と、そのほかにミサイル艇支援用の防空装備を保有することが出来れば、加えて96式多目的誘導弾と警備の小隊でも配置されていたならば、何とかなるかもしれません。野砲は陸上自衛隊がFH-70や99式自走榴弾砲で対応しますし、集団で上陸すればMLRSで一度に無力化することが可能となるわけです。ミサイル艇の支援を行うならば、ミサイル艇に接近する小型目標を制圧するために多目的誘導弾があればよく、航空機に対しては93式近距離地対空誘導弾により十分対応が可能でしょう。
Cimg_7526 いろいろと話は飛びましたが、ミサイル艇の脆弱性を補うには我が方の地上の防空網に対空疎開し、必要に応じてその射程外に出る打撃、日露戦争の旅順艦隊のような運用と言えるかもしれませんが、あり得るわけです。陸上自衛隊と海上自衛隊の共同運用。難しい話ではあるのですが、必要ならば独自の装備を整備し、対応することでミサイル艇の任務は脅威状況下においても十分に発揮できる、といえるのではないでしょうか。このほか、地方隊にはもう一つ、自衛艦隊では行えない任務があるのですが、こちらは次回に掲載することとしましょう。
北大路機関:はるな

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