北大路機関

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はるな型ヘリコプター搭載護衛艦・しらね型ヘリコプター搭載護衛艦、巡洋艦としての価値

2012-05-31 23:23:58 | 北大路機関特別企画

◆海外での任務を念頭に元来の巡洋艦の位置づけ
 護衛艦はるな、の写真を掲載するための記事です。地方隊の在り方の特集記事やかなり前から護衛艦隊の八個護衛隊全てにDDHとMD-DDGを配備する八八艦隊の必要性を掲載してきましたが、今回は備忘録的にもう一つ。
Himg_9671 前回の観艦式でしたが併せて護衛艦ひゅうが艦内で行われた海賊対処に関するシンポジウムにて、意見を求められたイギリス海軍大佐が、海上自衛隊の護衛艦は水上戦闘艦としてどれも素晴らしいが、哨戒と長期航海を念頭に置いた艦があってもよいのではないか、と発言されました。海上自衛隊のDDHという艦種は、ヘリコプターを近代化もしくは更新することで即座に多用途任務に充てることが出来、日本独自の艦種というべき運用体系が確立していますが、実のところ上記任務にも非常に最適の艦船として対応し得るのではないか、と考えます。
Dimg_2899_2 過去にも従来型DDHの能力については今後も十分な能力がある、と記載してきました。その一案が地方隊旗艦に充てる、という任務です。DDHは元々対潜中枢艦として護衛隊群旗艦としての任務を重視し設計されてきました。有事においては我が国周辺海域であれば各地方隊のなかで当該管区の地方総監が海上統合任務部隊指揮に当たりますが、有事においては陸上の艦艇基地はゲリラコマンドーの襲撃や弾道ミサイルによる攻撃に見舞われ、災害時には指揮官先頭の位置づけを示すという程度ではありますが、特に前者に意味はあるでしょう。
Dimg_2911_2 今回の提案は、ヘリコプター搭載護衛艦の多用途性を以て巡洋艦としての任務を担うことが出来ないか、ということです。巡洋艦と言えば我が国では帝国海軍の時代に主力艦を補う任務、もしくは駆逐艦を中心とした水雷戦部隊の旗艦としての任務が主に想定されていましたが、海外植民地を有する諸国は植民地警備任務に航続距離の大きな水上戦闘艦として巡洋艦を充てていました。日本は植民地が台湾と近かったため植民地警備ではなく海外権益保護、という観点から装甲巡洋艦出雲等を上海に停泊させた事例を出すのが妥当でしょうか。
Dimg_3166_2 哨戒艦的な任務に充てる海上自衛隊の巡洋艦、これは冷戦時代に想定されたヘリコプター巡洋艦ミサイル巡洋艦混成巡洋艦隊や全通飛行甲板型護衛艦という話ではなく、海賊対処任務と国際平和維持活動への対応を念頭に置いたものです。即ち、ヘリコプター搭載護衛艦は、艦隊防空能力で、ひゅうが型のような最新を除けば限定的で、従来型護衛艦は打撃力に艦砲を重視し、対艦ミサイルを搭載していません。半面強力なソナーを搭載している、そして大きな航空機運用能力を持っており、この部分を如何に使うかにより能力は大きくなります。
Himg_3884 海賊対処任務では海賊は航空機や水上戦闘艦を導入した事例は今のところなく、水上戦闘艦を拠点とした哨戒ヘリコプターと高速艇の運用が大きな抑止力となっています。この場合ヘリコプターのほか艦砲が威圧し抑止する期待がありますがヘリコプターからの機銃掃射で現在のところ決定的な反撃手段がもちられた事例が無く、それならば海賊対処部隊にヘリコプターを強化した場合の能力を模索したほうが対処能力全般の強化につながるともいえます。即ち、複数のヘリコプターを運用できるならば一隻で船団を防護できるやもしれません。
Himg_6887 国際平和維持活動ですが、ヘリコプターの運用基盤として、SH-60Kを三機搭載した護衛艦はるな型はHSS-2の搭載を念頭に格納庫が設計されていますが、これは同時にHSS-2の搭載艦に搭載を念頭としたAW-101,つまりMCH-101を搭載できるということを同時に示すことにもなります。MCH-101は掃海輸送ヘリコプターですが、図らずも掃海母艦を補助することに加え、機体は35名までの完全武装兵員を空中機動させることが出来ますので兵員輸送から邦人救出まで対応する母艦として高い能力を発揮できるでしょう。
Himg_7718 海賊対処任務等は長期の任務となるため、居住性が重要となりますが、はるな型と同等の想定で護衛艦を建造した場合、もちろん機関のガスタービン化などは行われると共に自動化もある程度行われますので、一定の居住性は確保できるところ。他方、長期任務を念頭に置いた場合は、設計にどの程度反映されるかが重要となるのですが、練習艦としての任務に充てることも考えられるでしょう。特に格納庫は多用途空間として用いることが出来ますので、充分対応します。また、飛行甲板に導板を設置すれば車両輸送も可能となり、災害派遣にも寄与します。
Himg_7937 ただ、この運用を行う場合には、どうしても複数隻の艦艇が必要になります。必要なのは、予算上の措置で、これを画定する要素を挙げますと、国際平和維持活動の増加を見越した支援艦への護衛艦充当を行うか行わないか、海賊対処任務に現在の護衛艦を派遣することにより生じる領海防衛警備への影響と専用艦を建造した場合の護衛艦勢力維持への影響との比較、さらに今後我が国は海外での任務をどのような形で展開するのかという国家戦略に依拠した運用体系というものがあってしかるべきでしょう。そのうえで、海外での我が国の防衛に寄与する任務へ巡洋艦的な運用を従来型DDHに対応させる、ということ、検討してみる価値はあるやもしれません。

北大路機関:はるな

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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10 コメント

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>はるな型、しらね型 (専ら読む側)
2012-06-01 20:33:46
>はるな型、しらね型
海上自衛隊が選定した後継艦の外形を見るに、
斯様な「航空○◎艦(○◎内は任意)」と縁を切
ったと思われ。
諄い話なるも本二艦型に近い「弱小国家のぬえ
艦艇」は幾ら集めても無力でしょうね。
はるな様がここでおっしゃられている「巡洋艦」は... (惰性参謀)
2012-06-01 23:17:39
はるな様がここでおっしゃられている「巡洋艦」は、往年の植民地警備巡洋艦、あるいはOPVというべきニュアンスのものでしょうかね。

>海賊対処任務に現在の護衛艦を派遣することにより生じる領海防衛警備への影響と専用艦を建造した場合の護衛艦勢力維持への影響との比較
脱帽&同意であります。

わたしは、「予備護衛艦(DR)」とでもいうべき船を取得するのはどうか、と考えたことがあります。
すなわちまず、ゆき・きりを代替するワークホースとして、対潜含む各種戦闘や海外派遣を十分にこなせる必要最小限のサイズ(基準排水量3900t程度)で建造費を抑えた汎用DDを建造します。
同時に、これと同一設計で、統合レーダーやVLS、対艦ミサイル、電子戦装置、魚雷発射管などを後日配備として建造費と運用必要人員を大幅に抑えた「予備護衛艦(DR)」を建造するのです。

この「DR」は、平時は海賊対処等の海外派遣やMOOTW任務にあたります。普通のDDよりも必要コストは少なくて済む。同時に、正規のDDたちがホームランドディフェンスに集中できるようにします。
有事が逼迫していると判断された場合は、各種装備を追加して比較的短期間で通常の護衛艦に仕立てられます。まさに予備戦力なわけです。
(もちろん相応の訓練期間は要りますから、開戦後にただちに武装して護衛艦化!とはいきませんが。それでも、汎用DDと同一設計という点が、早期の正規戦力化に貢献します。)
建造費を安価に抑えることで、ひとまず大量退役するゆき・きり型を更新し、護衛艦枠の自然減(と予算不足からの圧縮)を防ぎ、かつ、有事に第一線任務に転用できない専任艦を抱えることを避けられます。

いろいろ愚行してみた次第。長文失礼
はるなさま (ドナルド)
2012-06-05 00:27:28
はるなさま

想像ですが、イギリスの大佐がおっしゃったのは、フランスの「フロレアル」級のような船ではないでしょうか?武器も少なく、速力も遅いけど、そこそこの航洋性をもち、海賊対処任務には十分あたれる。

まさにこんな船を、日本はもっています。

しきしま型、みずほ型の巡視船PLHです。ただし、新しきしま型は、船価が350億円。2隻で「あきづき」型1隻に近い。(高い!)

うーむ。

まあ、航続距離が長く、乗員も(護衛艦よりは)少ない(だろう)。重たくて高価な武器もはるかに少ないため、運行経費は圧倒的に安いでしょう。

インド洋の負荷を下げるもっとも良い方法は、2隻中1隻だけでも、海保にお任せすることでは?(海保の予算を手当てする必要がありますが、その分は、なんとか「純増」で対応して欲しいですね。。。)。

#しかし、指揮系統の不安がありますね。。。

旧DDHに近いヘリ3機搭載の新型護衛艦というアイデアは、面白いと思いますが、最近のDDはヘリを2機搭載しています。重整備ができることが「しらね」型の特徴ですが、そのような能力が(インド洋ならともあれ)有事に必要かどうかは自明ではないと感じています。

個人的にはDDをとにかく同一設計で(せめて12隻-14隻)ほど量産することで、コストを下げることを重視したいと考えています。はつゆき型(12隻)や、むらさめ/たかなみ型(14隻)のように。その観点からは、海自内部にあまり「多様性」を求めるのは、避けたいなと。。

#本当はDDの発注も、4-8隻分一気に"8-10年"国債で発注できると、さらに安くなると思うのですけどね。。。

>巡洋艦 (専ら読む側)
2012-06-05 20:38:11
>巡洋艦
元々は皆様の仰る通り航続力長く耐航性高く、回転翼機を用いた軽輸送力含む可も無く不可も無い兵装を有し長期間の外地遊弋に耐える艦(防護巡洋艦ですなつまりは)を指す用語と思われ。
蛇足乍ら此の艦の性格を歪め、小戦艦の如き存在に祭り上げたのは20世紀前期の彼の不平等海軍戦備制限条約と痛感。
専ら読む側 様 こんばんは (はるな)
2012-06-06 22:22:08
専ら読む側 様 こんばんは

DDHですが、しかし巡洋艦的に海賊対処への長期航海に充てれば、その分の数隻の護衛艦を南西諸島強化に充てることが出来るのでは、とも。

ドイツ海軍の最新型フリゲイトであるバーデンヴルテンベルク級などは二年間の公開を念頭に乗員の四カ月交代を念頭に置いているようですし。

搭載艇用スリップウェイを設置して、小型哨戒艇の母艦機能を付与すれば、一隻で船団護衛も可能となるのではないでしょうか。
惰性参謀 様 どうもです (はるな)
2012-06-06 22:31:56
惰性参謀 様 どうもです

OPVでもあり、警備巡洋艦でもある、警備かいいkが非常に遠く離れ、海外領土をもたない我が国ゆえの独特のパワープロジェクションシップとお考えください。

海外で大規模災害あれば、C-2輸送機で医療コンテナを緊急展開させ、格納庫内にヘリ一機分の容積に収容、ヘリを一機露天係留し応急病院船に、突発的武力紛争への人道介入の必要性あらば背負い式の62口径127mm砲二門を頼りに展開、邦人救出の必要ありとならば、即座にMCH-101二機と武装したSH-60K一機を搭載し特殊警備隊の増援を受ける、等など。

予備護衛艦、しかし、長期航海を念頭に置いた余裕ある設計と両立できるのでしょうか、結局オランダ海軍は汎用フリゲイトカレルドールマン級よりも高い建造費でホラント級哨戒艦を建造しましたし、フランスなどは兵装を割り行って海兵隊を収容可能な空間を有するラファイエット級ステルスフリゲイトを建造しました。

後日装備ですが、平時から倉庫に備蓄しておくならば搭載する場合と比べ、燃費を除けば明かり変化はないでしょうし、操作要員のみ予備自衛官としても、果たして間に合うのか、兵装を後日装備とした場合、緊張が高まる二年程前に予測して搭載しなければ間に合わず、最悪造船所で緊急時を迎える、ということにもなりそうな気がします。それに、予備艦では訓練頻度が非常に低くなりそうなのですが、要因の訓練対けいを根本から見直さない限り、ちょっと大丈夫なのかな、とも。
ドナルド 様 こんばんは (はるな)
2012-06-08 00:27:35
ドナルド 様 こんばんは

フロレアル級、あのよく日本にやってくる可愛らしい一隻ですね、ううむ、直接お話できれば、もう少し聴けたのですが・・・。

新しきしま型、建造費用倍以上になっていたのか・・・、あさぎり型並ですね、いや今建造すれば、あさぎり型も高いのでしょうけれども。

PLH,しかしスーパーピューマは別として212は捜索器材が非常に限定されているのですよね、そして各国海軍とのデータリンク能力も限られる。戦術情報処理装置を搭載してリンク11の能力を付与すれば巡視船の建造費は大きくなりそうですし。

DDの量産、ううむ、やはり48隻ではなく、前の大綱の約50隻として実質54隻確保できれば、余裕は出てくるのだろうか。それにしても48隻は政治決定の防衛大綱に明示されているので、予算確保も政治主導で何とかしてくれなければ困ります。
まぁイギリスといえば地球の裏側に植民地を持って... (通りすがり)
2012-06-08 12:35:29
まぁイギリスといえば地球の裏側に植民地を持ってた国ですしねぇ。
哨戒と長期航海を念頭に置いた艦、つまりクルーザーというのは、元々本国から遠く離れた植民地の支配のために必要とされた艦な訳だし。
たぶん、多少のやっかみもあったんじゃないですか?そういった、植民地型の巡洋艦というのは、日本にとっての空母みたいな感じで、かつてのロイヤル・ネイビーの栄光を覚えている国にとっては、憧れの対象そのもの。ところがイギリスは軍事予算削減、軍縮の嵐。空母もキャンセル、クルーザーはおろかフリゲイトの更新もままならぬ・・・。日本ならそうした正統的なクルーザーだって、作れるし作って派遣する先もあるのにっ!日本にその気さえあれば!って・・・。
ソマリア沖とか行くなら確かに、そうしたクルーザー的な艦の方が良いですもんね。
専ら読む側 様 こんばんは (はるな)
2012-06-08 17:30:16
専ら読む側 様 こんばんは

DDH,しかし、旧型のものであっても航空機運用能力を高めた一点から秘めている可能性はかなり大きいと考えます。
通りすがり 様 こんばんは (はるな)
2012-06-15 00:06:30
通りすがり 様 こんばんは

ソマリア沖海賊対処ですが、正直、データリンク能力とヘリコプター運用能力、それに機関銃と精々艦砲までしか、使う可能性は無いのですよね、そのあたり、運用区分は考えるべきと信じます。

あと、この種の艦、予防外交が破綻しかけた際に最初のプレゼンスとして展開させる、という用途には使えるでしょう。なんといいますか、ヘリコプターを搭載しますから特殊作戦群の母艦としても運用できそうですし。

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