北大路機関

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【くらま】日本DDH物語 《第五六回》日本版ミサイル巡洋艦構想とターターシステムの挫折

2019-05-04 20:05:07 | 先端軍事テクノロジー
■アナログシステムの限界
 ミサイル巡洋艦構想の発端は定かではありませんが、単純に複数のシステムを搭載する事で多数の脅威目標へ同時対処を試みた、と考える事も出来ます。

 海上自衛隊のミサイル巡洋艦構想は、ターターシステムの技術的限界がその挫折の背景に考えられます。ターターシステム、これは現在もミサイル護衛艦はたかぜ型に採用されるイージスシステムよりも一世代前の艦隊防空システムとなっていますが、アメリカ海軍が開発した防空ミサイル艦草創期のもっとも成功したシステムの一つとなっていました。

 しかし、ターターシステムはミサイル発射装置と誘導装置を中心とした火器管制装置が基本的に単一目標にのみ対応しており、アメリカ海軍では原子力ミサイル巡洋艦ロングビーチで複数の艦隊防空システムを同一艦上へ配置する事で事実上の多目標同時対処能力を付与する模索を行いました。理論上は間違いないよう思える施策ですが、安易に過ぎました。

 ロングビーチはアメリカ海軍が原子力空母エンタープライズの護衛を念頭に1961年に就役させた初の原子力巡洋艦です。満載排水量17500tという非常に大型の船体を採用していまして、テリア対空ミサイルとタロス対空ミサイル、中射程と長射程に分けて二種類のミサイルを搭載しています。また原子力動力は高出力のレーダーを搭載でき、別の用途もある。

 ヴェトナム戦争中の1967年に原子力ミサイル巡洋艦ロングビーチは北ヴェトナム軍機による友邦南ヴェトナム海軍への航空攻撃を察知すると共に警戒中の海軍F-4戦闘機を北ヴェトナム軍機へ誘導、この撃墜に成功しています。これは指揮統制能力の高さを利用し、防空管制へ充てる事が出来る一例であり。奇遇にも現在のF-35Bとイージス艦の関係に似る。

 ターターシステムは1974年よりターターDシステムへ発展します。DシステムとはDigital化を意味していまして、アナログコンピュータによる名人芸的な防空システムをプログラム方式へ転換したものです。実はターターシステムのデジタル化は1965年より開始されました。同時多目標対処能力の整備はデジタルかアナログか論争があり、並列配備も検討も。

 ターターシステムの並列配置、デジタルシステムをアナログ的手法により能力拡張する手法ですが、最大の課題は同一艦上に配置された複数のターターシステムが同一目標を捕捉追尾することです。これではターターシステムを複数配置したとしても単一目標しか追尾不能であり、一方ターターシステム本体も相応に高価ですので費用対効果は一段悪くなる。

 ターターシステムに先んじてアメリカ海軍は1956年にテリアミサイルシステムを完成させます。もともとは評価試験を念頭に開発されたといわれますが、ラムジェット推進と固体ロケットブースターの併用、ビームライディングをもちいる指令線上誘導方式の採用など、アナログコンピュータ時代には高角砲の延長線上として卓越した性能を発揮しました。

 テリアミサイルシステムを小型化したものが、RIM-67スタンダード、現在もイージス艦へ採用されるミサイルシリーズの鏑矢となったことから、当時はもちろんその着想は今日的に見ても驚くべき水準といえました。問題は、そのターターシステムの情報処理能力で、ネットワーク化する技術は、アメリカでも未整備で、当時の技術では越え難いものでした。

 デジタル化のみが解決策である、とされつつ目標情報を電子的に選別し脅威優先目標を瞬時に自動選定し、火器管制装置と連動させ対処する、アナログでは以心伝心で出来そうなものですが、飽和攻撃にはデジタル化が必要で、しかしデジタルは融通が利かない、この為に難航します。日本の巡洋艦構想はターターとターターDの渦中に消えたともいえます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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