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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

巨大地震“南海トラフ地震”への備えを考える⑪ 空港津波被害へ輸送機用臨時飛行場の可否

2012-07-21 21:56:57 | 防災・災害派遣
◆補助飛行場を!、沿岸空港脆弱性への一案
 南海トラフ地震では非常に高い津波が想定され最大34mに達するということです。そして最悪の状況での死者想定は40万、なんとかならないものか。
Nimg_5456 写真は東日本大震災災害派遣にあたるC-130H.空港、大規模災害に際しては孤立地域への物資及び人員の搬入と展開、負傷者の後方都市への搬送拠点として重要な位置づけに或る防災拠点設備となる場所ですが、南海トラフ地震は最大規模の津波想定で高知県内での高さ34mという極大規模となる津波が押し寄せるため、空港設備そのものが破壊される、東日本大震災における仙台空港と同じような危険性が大きいといえるでしょう。
Nimg_5472 この場合を想定し、内陸部の直線道路の一部、特に高速道路の一部を既存道路で代替し得る位置について、その一部車線を野戦飛行場として活用できないのか、考えておく必要性は無いでしょうか。もちろん、高速道路は南海トラフ地震に際して津波の第一撃から生き残る四国瀬戸内海沿岸地区からの救援搬送拠点となるため、一概に高速道路を封鎖して飛行場にするわけにはいかないのですが。
Nimg_0355 C-130H輸送機であれば不整地着陸訓練として、例えば小牧基地の近傍にある岐阜基地の不整地発着訓練場、早い話が滑走路のわきに或る舗装されていない平坦地なのですが、こうした場所への発着訓練を行っています。理想はコンクリート厚30cmの滑走路となる直線道路を順次整備してゆくことなのですが、まず用地取得だけでも行っておき、非常時には発着、つまり不整地発着することにより生じる器材損害の危険と発着しないことで生じる人命の危険とを考慮して運用、予算措置が採られると共に順次設備整備、という方式が理想です。
Nimg_0360 サービスエリアに隣接して部隊の発着地域を整備してゆくことが出来れば、物流拠点としての、いわば前方や線拠点というような能力を発揮できるでしょう。航空自衛隊の空輸能力は現状でC-130H輸送機15機程度、C-1輸送機25機程度、もう少し輸送能力が大きいKC-767を発着させたいところですが、この機体を入れる場合、コンテナ積降設備や2000m級滑走路が必要となり、不整地発着は絶対できないため、こちらは輸送力に含めることはできません。
Nimg_0284 この空輸能力には少々物足りなさを感じるところではありますが、C-1輸送機は空輸能力が搭載量で4.5倍に強化されるC-2輸送機へ大隊が間もなく始まります。また、近距離の、美保基地、伊丹空港、浜松基地、小牧基地、広島空港、福岡空港、熊本空港からの輸送拠点です。距離としては比較的近い場所にありますので、24時間当たりの任務飛行回数を多く維持することが出来、一回当たりの輸送能力は小さくとも全体の空輸能力は大きくなると考えます。
Nimg_0354 米軍支援の拠点ともなり得ます。横田基地の米空軍第374輸送飛行隊が20機のC-130Hを運用しており、海兵隊岩国航空基地には第1海兵航空団のKC-130輸送機が前方展開、隷下部隊は普天間にもKC-130を置いていますので、同盟国の支援を受けるという拠点であれば、野戦飛行場でも一定の価値を有すると言えないでしょうか。
Nimg_0876 管制塔などの施設は、空中早期警戒管制機による支援である程度代替できると考えます。実際、東日本大震災では浜松基地より進出したE-767が管制任務に当たりました。浜松基地は標高46m、浜松市中区で太平洋から11kmの距離があり、津波が浸透する浜名湖からも5km、最大規模の津波に対しても基地施設の損害は限定的でしょう。
Nimg_0891 ここまで記載するのも余りに被害想定地域の空港が海に近いのです。もちろん、発着設備だけあればいいというものではありません、年に一回程度は実際に航空機をフライパスさせる訓練が必要でしょうし、機体が着陸し、エンジンを停止させずそのまま発進したとしても地上支援要員は必要でしょう、平時には基地に展開し、緊急時にヘリコプターで展開し自治体や警察要員、国土交通省の要員と協力するとしても、これには人員に限界のある航空自衛隊では難しい部分があります。しかし、前述のとおり、空港がどの程度海に近い場所にあるのかを見てみましょう。
Nimg_1186 高知空港は拠点空港。2500mの滑走路を有していますが、太平洋から距離僅か200m、県道14号線を乗り越えればそのまま滑走路であり津波への脆弱性が大きいです。仮に30mの防波堤を造ってしまうと航空機発着の妨げになるほどの場所にあり、高知空港の隣には物部川があり、此処を遡上した津波が空港設備を更に損傷させる危険な立地で、他方で10km先に高知市役所や高知県庁など重要設備があります。復旧措置を準備することは重要ですが最初の72時間を支える野戦飛行場を内陸部の高知道付近に配置できることが望ましい。
Nimg_4896 南紀白浜空港は地方空港、和歌山唯一の空港で滑走路は2000mです。県道34号線に沿って400mで太平洋で、滑走路南端から海までの距離は250m程度です。ただ、この距離からは読み取れないのですが標高は90m程度あるということなので、津波からはある程度機能を維持できるかもしれません。他方、紀伊半島は道路網に限界があり孤立しやすい地形にもあることは無視出来ず、内陸部に補助発着場があってもいいのではないでしょうか。
Nimg_6803_1 徳島空港は共用空港、2500mの滑走路を有し、海上自衛隊徳島航空基地と隣接しています。滑走路が海に突き出ているという立地にありますので、津波被害から逃れることは出きません。近傍の小松島航空基地も同様の立地。しかも徳島空港は旧吉野川と今切川に挟まれた扇状地で、しかも上流は3km南の吉野川が内陸部へ繋がっており、被害が大きくなることが自明で、しかし徳島市街地が近く、小松島市国道55号線付近に小松島航空基地のヘリコプター退避地を兼ねて発着場を配置することはできないものか、と思います。
Nimg_7586 宮崎空港は拠点空港、2500mの滑走路が日向灘に面しており、海抜6mの場所にあります。この立地から津波に際しては高い確率で空港機能を喪失することとなるでしょう。ただ、20km先に航空自衛隊新田原基地があり、こちらは2700m滑走路を持つと共に海抜80mですので、自衛隊や米軍の支援部隊はこちらの基地を利用すればよいのですけれども、九州内陸部に予備の発着場はあって良いのではないでしょうか。
Nimg_8149 空港が沿岸部にある要因ですが、用地取得が便利なのと、旧軍飛行場を流用したところに背景があります。高知空港は旧日本海軍高知海軍航空隊基地、徳島空港は徳島海軍航空隊基地、宮崎空港は旧日本海軍赤江飛行場、既存の旧軍基地ではなく、予算に余裕があれば内陸部に移せていれば、と思うこともあるのですが、これは致し方ないでしょう。
Nimg_8544 航空自衛隊は北海道に八雲分屯基地として平時にはペトリオットミサイル部隊が展開しつつ優位の際に発着施設として用いることが可能な設備を有しています。南海トラフ地震、このほか、沖縄トラフ地震など我が国では南海トラフ地震以外にも警戒を要する津波を伴う地震の危険性があり、沖縄では那覇空港が海に近いため読谷補助飛行場跡地の防災拠点への利用、今後の三陸沖地震への備えとして仙台空港と三沢基地の間に緊急用の発着場というものはあっていいように思います。なによりも、想定される被害は本土直接武力侵攻が想定する人命被害に匹敵するほどですから。
Img_6944 一定の施設整備と法整備も含め課題のある応急発着設備ですが、南海トラフ地震に際しては干天の慈雨というべき非常に大きな能力を発揮できるでしょう。特に発災後、人命の生存を左右する72時間という時限までに、沿岸空港が機能回復まで東日本大震災の教訓から100時間を要しますので、この時間を補う重要な設備です。他方で、こうした応急設備は本土武力侵攻というかたちでの有事に際しても有用であるということを付け加えておきましょう。
北大路機関:はるな

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2 コメント

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 こんにちわ。 (瀬戸の住人)
2012-07-22 11:53:21
 こんにちわ。
 戦時・緊急時における高速道路の滑走路としての利用は、多くの国で行われているので、今後検討すべき課題でしょう。ただ、国内では既に「津波からの避難場所」としての利用法が先に定義されてしまいましたので、それとの整合性の確保と言う難題がありますが…。

 あと、これを読んでいた時に気付いたのですが、今日本だけで問題視されているV-22オスプレイは正にこういう事態に効果を発揮するのではないでしょうか?C-130に近い飛行性能で垂直離着陸が可能な本機は、物資搭載量はともかく時間との戦いの場合には効果的でしょう。将来東海・南海地震が起きた後、米軍がV-22を救援に持ち込んだらどう言う評価が下されるのか、興味深いです。
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瀬戸の住人 様 こんにちは (はるな)
2012-08-14 11:07:14
瀬戸の住人 様 こんにちは

高速道路を滑走路化しますと、ご指摘の通り肝心のりくじょう輸送や避難が滞ってしまいますので、SAを中心に滑走路を配置することが肝要かな、と。高速道路のほかに余分に800m程度あれば、ということです。

MV-22,ううむ、しかしCH-47と比較しますと搭載量半分、調達費用二倍、という航空機ですからね。例えば第15旅団に配備して急患輸送に使用すれば、離島からはLR-2を使わず、CH-47行動半径圏外への急患輸送が可能となります。小笠原に対しても、海上遭難対処には必ずしもUS-2の能力を上回るものではありませんが、離島、US-2よりもMV-22のほうが特に飛行場が無い離島では一旦海まで患者を運ばず対応できるので急患輸送にはむいています。CH-47では不可能な任務に対応する航空機、という認識が必要ではないでしょうか。
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