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航空集団が必要だ!混迷の陸上自衛隊航空部隊再編案【1】令和二年度概算要求の問題点

2019-09-03 20:05:43 | 防衛・安全保障
■破綻近づく陸自航空の懸念
 陸上自衛隊の航空部隊は調達中止と後継機選定中止が相次ぎ、輸送ヘリコプターと練習ヘリコプターを除く全機種が破綻の危機に曝されています。

 陸上自衛隊へも将来的には航空集団を新編する必要があるのではないか。この点を考えてみたい。航空集団、海上自衛隊隷下の航空集団は回転翼航空機も固定翼航空機も包括管理し、練習機のみ航空教育集団隷下へ置いています。航空機は護衛艦をふくむ各種作戦運用と不可分の基幹装備ですが、中央に集中することでの特段の不都合は生じていません。

 令和二年度防衛予算概算要求を視まして、驚かされましたのは観測ヘリコプターと対戦車ヘリコプターの減勢を前に具体的な施策が盛り込まれておらず、しかも多用途ヘリコプターの調達も今年度取得分が一括取得であり、来年度への要求は為されていませんでした。しかし、既存機の延命や後継機選定、等の施策も示されない点は怠惰と云わざるを得ない。

 中央への部隊集約、新防衛計画の大綱では減勢が続く対戦車ヘリコプター、戦闘ヘリコプターについては各方面隊への配備が不可能となる為、中央に集約運用を行う施策が発表されています。しかし、既存機の延命改修を行わなければ100機近くあった航空打撃力は教育所要を含めても十数機しか残りません。一方、新型機開発も後継機選定も時間を要する。

 国民全体にこの問題の重要性が共有されていない事は逆に焦眉の切迫度を感じます、何故ならば防衛への影響も大きいですが、明日起こり得る災害への対処能力に影響する。観測ヘリコプターは災害時の情報収集、戦闘ヘリコプターには災害時の偵察、そして減少が続く多用途ヘリコプターは災害時に主力の航空機です。何らかの措置を取らねばなりません。

 航空集団、陸上自衛隊へ必要性を提示する背景にはAH-1S対戦車ヘリコプターの減勢とAH-64D戦闘ヘリコプターの数的不十分、OH-1観測ヘリコプターの少数調達での終了とOH-6観測ヘリコプターの減勢、陸上自衛隊全体でヘリコプター不足が顕在化し、可動航空機だけでも集約し、分遣隊を送る方式へ改めねば如何ともし難い厳しい状況がある為です。

 東日本大震災、この問題が表面化しました。被災地にもっとも近い航空部隊として陸上自衛隊東北方面航空隊が仙台市の霞目駐屯地に展開しています。この隷下部隊である東北方面ヘリコプター隊はUH-1H/J多用途ヘリコプター20機を装備定数としているのですが、震災当日に即応機は8機のみであったことが当時の航空隊長回顧により報じられています。

 20機の定数に対し8機、実のところメーカーへ送る定期整備、そしてUH-1H/J多用途ヘリコプターの調達不十分により定数割れとなっているなか、8機の即応機を確保できた背景には、現場の努力と訓練の成果と強調できるのですが、内映像情報収集機と映像伝送機に少なくとも2機が投入、津波被災地へ夜間飛行へ対応できた航空機は3機であったという。

 航空集団の必要性は、陸上航空部隊へのフォースユーザーとフォースプロバイダーの分離という視点にもとづくもの。要するに、中央の航空集団が即応機と高練度機に重整備機を区分し、整備計画や教育訓練を中央で統轄したうえで第一線部隊へ必要な航空機を提供するフォースプロバイダーとなり、第一線部隊はフォースユーザーとして集中できましょう。

 フォースユーザー、第一線部隊は稼働率を気にせず、保有する全航空機を実任務え投入する前提です。師団飛行隊や旅団飛行隊の定数縮小、この厳しい現状も航空集団の必要性を確信する背景の一要素です。現在、師団飛行隊と旅団飛行隊の定数はUH-1J多用途ヘリコプター2機とOH-6D観測ヘリコプター2機の合計4機です。これでは稼動機の問題は重い。

 師団飛行隊ではUH-1J多用途ヘリコプター2機とOH-6D観測ヘリコプター2機、多用途ヘリコプターが一機でも重整備に入るだけで多用途ヘリコプター稼働率は50%へと半減する。UH-1Jを飛行隊へ配備する前はOH-6J/D観測ヘリコプターが10機ありました。ヘリコプターの不足は痛感しています。観測ヘリコプターは操縦席横1座席と後部に2座席あった。

 OH-6Dは、つまり小型でも数名の人員を輸送できるため、その名の通りの特科部隊着弾観測にとどまらず、指揮官空中偵察や指揮官連絡、負傷者後送に観測員空輸と軽輸送、様々な任務へ投入されています。観測機材は双眼鏡のみ、と観測ヘリコプターとしては無人航空機の後塵を拝する、MQ-8のような長距離の観測や識別は難しいのですが、用途はあった。

 ただ、安易に機数を増勢できるかと問われれば要するに現在の二倍や三倍、という数が必要です。ベル412ヘリコプターの派生型としてUH-1改の調達が始まりますが必要数の半分に過ぎません。耐用年数を考えれば多用途ヘリコプターは毎年最低10機調達し続けねばならない。航空集団の必要性はせめて可動機を集約するべき、という視点で提示しました。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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3 コメント

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Unknown (軍事オタク)
2019-09-04 14:39:06
師団飛行隊は多用途ヘリコプター4機体制になるのでは?
OH-6Dの更新の予定は無いしね。

さらに観測ヘリの後継は無しのようでうですね。
OH-1更新も無いのでしょうかね。
ドローンとか無人機で代用ですかね。
それにしては陸自はドローンや無人機の導入が遅い。

それにしては多用途ヘリコプター調達予定数が少なすぎますよね。
防衛大綱だか中期防衛力どちらかに、陸自ヘリの機種の統合化?
みたいなことが記載されてますよね。
そうすると戦闘ヘリもUH-60の武装化も考えられるが、艦載を考えるとAH-1Wがいいと思うのですがね。
戦闘ヘリは数が減らされると書いてましたね。
30~50機程度でしょうかね?
UH-60の武装化だとしたら、ローターの折り畳みを簡便にしたり、徹底的な塩害対策をしてほしいですね。
輸送ヘリや現行のUH-60塩害対策はどうしてるのだろうか?
輸送ヘリはビニールでパッキングしてますが、
あんなのでいいのですかね?
返信する
Unknown (流線形)
2019-09-06 22:39:15
そうですね、危機意識はブログ主様、軍事オタク様と共有できていると思いいます。
そこで、具体的な方策となると、千差万別なんだろうと思うのです。
個人の意見を述べると、単位時間当たりの運搬炸薬量を考慮するのであろうと思うのです。
そうなると、F35B/Cに焦点が当たるのだろうと思うのです。
まあ、実現可能性並びに、訓練確保の可能性との考量になりますが・・・。
返信する
Unknown (パラベラム9)
2019-09-07 21:48:33
防衛界のイヤミ・清谷信一じゃないけど、早く何とかした方がいい。
返信する

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