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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

金門島情勢緊迫化,台湾海峡有事導火線上の金門島で不法操業漁船取締中事故を巡り中台対立激化

2024-02-23 20:17:59 | 国際・政治
■最前線金門島の緊張
 台湾有事は日本有事、という言葉が有りましたが有事の際にはシーレーンは勿論戦闘地域からの航空海上戦闘や浮流機雷など影響は免れません。

 金門島情勢が緊迫度を増してきました。これは2月14日に金門島周辺で発生した、中国不法操業漁船に対する台湾法執行当局公船取り締まりに対して、蛇行し逃亡を図った漁船側が転覆、これにより漁船乗組員2名が死亡したことに端を発するものです。よくありそうな出来事ですが、台湾海峡有事、沖縄からは周辺事態に直結しかねない事態です。

 台湾は過去の金門砲撃戦などの勝利を背景に、対岸の厦門との間などで禁止水域を設定していますが2月20日には禁止水域内を中国公船が航行、これは漁船転覆事件を口実として中国当局側が金門島への禁止水域内航行を常態化させようとしているものでしょう。実際問題として中国当局は台湾側の管轄権を否定する談話を14日に発表しています。

 中国側からの圧力はさらに増しており,中国政府は2月21日、国務院台湾事務弁公室を通じて台湾当局に対し責任者の処罰を求める談話を発表しました。ただ、この主張自体が、台湾側の禁止水域の存在を認めていないというもとで、管轄権の無い船舶が漁船を転覆させた、というもので、台湾というものが存在しないという念頭で示された談話だ。

 台湾海峡危機に発展する一歩ではないのか、これは勿論一両日中に海軍歩兵が金門島に殺到する事態とは考えにくいのですが、金門島周辺において当局の公船の航行を常態化させ、これに対抗する台湾海巡との対立をあおり、口実をつけて海軍を投入する次の段階に進んだうえで、事実上金門島を海上封鎖に追いやり占領するのではないか、というもの。

 台湾側は回避できなかったのか、と言われますと、先ず国際法とは国際慣習の体系化であり、領海に当たる禁止水域と接続水域に当たる制限水域は、既に国際慣習法であるとともに、等距離中間線などの国連海洋法条約は慣習法である以上に強行規範としての性質を持ち、これを一方的に無視する施策を中国側が取ったのですから会費は出来ません。

 金門島は歴史上、人民解放軍が上陸作戦を行い、しかし防御側の万全の準備により大敗を喫したという人民解放軍の忘れ去りたい過去の失敗を抱えている島です。他方で、台湾海峡を越えて台湾有事を戦うには中国海軍には相当の覚悟、日本のシーレーンをふさぐことによる日米の介入懸念を含めリスクがありますが、金門島ならばわたり得る距離だ。

 過去の金門砲戦や金門島上陸は、当時最新鋭戦闘機を揃えていた台湾の中華民国空軍とアメリカ海軍や空軍の抑止力により大敗を喫していますが、当時のアメリカ軍ドクトリンはアイゼンハワー政権時代の大量報復ドクトリンであり、開戦となれば瞬時にアメリカが全力で打撃力を投入してくるだろう懸念が、人民解放軍の行動を大きく制限していた。

 中国空軍はJ-20戦闘機の様な第五世代戦闘機を国産化しているのに対して台湾はF-35さえ供与されずF-16戦闘機、中国海軍は1万tを超える055型大型駆逐艦を次々と竣工させているのに対して台湾はOHペリー級ミサイルフリゲイトをライセンス生産した成功級巡防艦、1950年代と2020年代では状況が根本から違い、在台米軍基地も既にない。

 アイゼンハワー政権のドクトリンはケネディ政権の段階的アプローチドクトリンにより切り替えられ、これは勿論幾多の改編を踏まえているのですが、現在のバイデン政権によるウクライナ支援を見ても判る通り、段階的アプローチの延長線を維持し、大量の武器供与により戦況を一気に変えるような方式をアメリカが採用しない事は自明と言える。

 中国政府が必要性を認識したならば、金門島への限定侵攻の可能性が生じますし、台湾の駐留兵力では防衛にも限界があり、また大陸反攻政策を放棄した台湾には金門島を死守するための総力を派遣する蓋然性は限られ、台湾本島侵攻と異なり金門島だけの限定侵攻では、アメリカや日本の介入も次元の異なる規模しか期待できない、とリスクは数多い。

 民進党新政権への圧力か。台湾総統選では当初有利とみられていた野党国民党を破り、現与党民進党が勝利、頼清徳副総統が蔡英文総統から総統を引き継ぐこととなりました。国民党は蒋介石政権時代から蔣経国政権時代まで反共政策で知られていますが、現在は容共政策に転向しており、北京の中国政府は黙示的に国民党政権を希望していたという。

 海上民兵か、中国共産党は漁民を民兵として運用していることが南シナ海などで確認されていますが、今回の場合はかならずしも海上民兵の偽旗作戦とは言い切れず、実際のところは操業許可の方式で敢えて台湾当局側と摩擦が起こることを容認し、実際に事故が起こったことを口実として公船による示威行動へ段階を進めた、とみられるでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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