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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】スパイクLR2輸出とインドQRFV即応戦闘車,中国PCL-171ロケット砲にアメリカMQ-1C電子戦型

2022-12-12 20:01:14 | インポート
週報:世界の防衛,最新11論点
 今回は陸軍関係の戦車からミサイルに装甲車からロケット砲にヘリコプターと無人航空機という多彩な話題を11論点纏めてみました。

 スロベニア陸軍は新たにスパイクLR2対戦車ミサイル50発を667万ユーロで取得とします。これは9月6日に公式発表されたものですが、スロベニア国防省によれば対戦車ミサイル選定において唯一、ユーロスパイク社が応札したものとのこと。ユーロスパイク社はイスラエルのラファエルアドバンスディフェンスシステムズ社の欧州現地法人です。

 スパイクLR2対戦車ミサイルが選定された背景には、スロベニア軍は2009年にスパイクミサイルを採用しており、発射装置の互換性が有る事で新型装備を導入するよりも有利であった点が挙げられます、射程はLR2で10kmに達する。発射装置は車載型で2018年にアメリカよりJLTV統合軽量戦術車輛を導入しており、戦車駆逐車として運用しています。
ナイジェリアT-129
 攻撃ヘリコプターを軽視している国と云うのは欧州は勿論アジアにもアフリカにも少なくなり自衛隊のAH-1S退役だけが浮いている印象だ。

 ナイジェリア空軍はトルコのTAIトルコ航空工業社よりT-129攻撃ヘリコプター6機を導入します。これはTAI社がイギリスのファンボロー国際航空ショーにおいて発表したものです。ナイジェリア政府の要望により、その契約金額などは発表されていませんが、同じT-129をフィリピン軍が6機導入した際には2 億 6900 万ドルの契約となっています。

 ナイジェリア国内ではボコハラムやISILなどテロ勢力による情勢緊迫化が続いており、攻撃ヘリコプターは素早く展開できる対テロ戦力として期待されている装備です。このT-129はアグスタウェストランド社のA-129をライセンス生産している機体で、トルコ軍では旧式化したAH-1Wスーパーコブラ攻撃ヘリコプターの後継機に位置付けられています。
QRFV即応戦闘車
 単純に硬くて道路上を高速で走る事が出来る車両は有用とも思うのです。

 インド陸軍はタタグループより耐爆車両であるQRFV即応戦闘車を受領しました、これはタタグループの防衛部門であるタタアドバンスドシステムリミテッド社が開発したもので、四輪駆動でボンネットトラック型のMRAPで、取得費用とライフサイクルコストの低減に重点を置き、また一見鈍重に見えますが中印国境の山間部での運用も可能ということ。

 QRFV即応戦闘車はNATO防弾規格レベル4の防御力を有し14kgの対戦車地雷の爆発から乗員の生存を確保し周辺での21kgの爆薬の爆発に対しても防御力を有しているとの事、車体後部はキャビンとなっており兵員12名か物資2tを搭載、乗員は車長と運転手の2名で車体上部には機銃座とハッチを配置、またエンジンは240hpのディーゼルとなっている。
ブッシュマスターEV型
 電動装備は燃料の運ぶことのできない孤立した地域でも動力源を電送できますし太陽光発電装置という選択肢もでてきます。

 オーストラリア国防省は電気自動車型のブッシュマスターePMV耐爆装甲車を発表しました。これは陸軍イノヴェーションデイというオーストラリア軍イベントの付帯行事であるシンポジウムにおいて展示されたものです。ブッシュマスターは四輪駆動型の装甲車両で歩兵10名を機動させるとともに砂漠などでの運用を念頭に大型飲料水タンクを積みます。

 ブッシュマスターePMV耐爆装甲車は、フロントエンジン構造のエンジン区画に巨大なバッテリーが搭載され、これらをモーターに直結し作動させる方式を採用しています。ただ、今回発表されたブッシュマスターePMV耐爆装甲車は技術実証車であり、航続距離などは発表されませんでした。ただ、電動化は戦術太陽電池による独立運用の道が開けます。
ロシアのT-90生産継続
 半導体の経済制裁による供給停止をどのように掻い潜っているのでしょうか今後前線で撃破された車輛から調査が行われるのでしょう。

 ロシアの国営兵器公社ロステック社は8月、ウクライナ侵攻後初のT-90戦車納入状況を発表した。ロステック社はウクライナ侵攻に伴う日欧米等からの厳しい経済制裁により電子部品が納入不能となっており、戦車生産が停止しているとの懸念が戦車輸出に際し各国から疑義として示された為である。ロステック社は4月と5月に納入実績を示している。

 T-90M戦車が現在生産されているT-90の型式であるが、4月と5月に納入された車輛の合計数が26両とのことである。ただ、納入されたのは第1親衛戦車軍の第2タマン親衛戦車師団であり、第1親衛戦車軍はウクライナ侵攻に際し東部ハリコフ攻略に投入されるも突如西部の首都キエフ攻略を命じられ転進、700kmに及ぶ戦略機動により大損害を被った。

 ロステック社では戦車製造能力を維持していると誇示したが、経済制裁開始は3月初旬、そして今は8月だが5月以降のT-90M製造が出来ていないことを公にした形だ。ロシア軍はウクライナにおいて大量の戦車を含む戦闘車両を全損乃至損傷しており、今回示された26両の増強で充分補填できたとは全く考えられず、経済制裁の深刻さを示しているだろう。
PCL-171ロケット
 射程云々よりもMi-26などのようなヘリコプターで空輸可能な装備という点が重要です。

 中国人民解放軍は新型のPCL-171多連装ロケット砲の配備を開始した、中国国営新華社通信が発表しています。PCL-171は猛士高機動車輛を転用した初の多連装ロケット砲で、122mmロケット発射器を六輪型の猛士に車載しており、軽型合成旅団の全般支援火力として期待される、そのロケット弾は射程22km、射程延伸型では40kmに達するとのこと。

 PCL-171多連装ロケット砲中隊は、ロケット弾発射器6両と指揮通信車及び弾薬車と前線観測車から構成され、各車にはロケット弾28発を搭載、指揮通信車からの射撃指揮により短時間で168発を投射できるとのこと。新装備は少なくとも2個中隊が中国人民解放軍東部線区の第72集団軍に配備開始となっていて、今後トラック式ロケット砲を置換えます。

 合成旅団とは近年の人民解放軍における基本戦術単位であり、戦車を中心とした重型合成旅団、装輪装甲車主体の中型合成旅団、そして猛士中心の自動車化部隊である軽型合成旅団などが編成されています、これは伝統的な職種別連隊編成を改めた諸兵科連合部隊となっており、122mm砲など砲兵火力は重視するものの155mm砲は上級部隊が所管します。
トーゴ軍TB-2導入
 無人機は小国でも中堅国空軍の作戦を安価に行えるようになる点で意味が大きい。

 トーゴ軍は国境地域防衛強化へトルコ製バイラクタルTB2無人機導入を発表しました。西アフリカに位置するトーゴは隣国ブルキナファソから浸透するイスラム原理主義武装勢力の浸透に苦慮しているものの、徴兵制を敷くも人口が少なく陸軍は9000名、空軍は300名しか居ません、この兵力で運用できる装備としてトルコ製無人機を選択したかたちです。

 バイラクタルTB2無人機はウクライナ軍が侵攻したロシア軍に対して緒戦で有効に運用した事で知られますがL3ハリス社製の23kgという小型のホーネット誘導爆弾を4発搭載可能です。無人機の導入はトルコのエルドアン大統領がトーゴを訪問した際、ニャシンベ大統領との間で武装勢力浸透問題が話し合われており、その解決策として示された形です。
スプルート軽戦車
 軽戦車の話題ですが主砲は125mmで威力は絶大です。

 ロシアのクルガンマシュザヴォード社は2S25MスプルートSDM1水陸両用軽戦車の量産開始を発表した。これは8月12日にモスクワで行われたアルミヤ2022陸軍展において発表されたものだ。2S25MスプルートSDM1は元々空挺対戦車自走砲として開発されていたもので、軽量ではあるが、125mm戦車砲を搭載し高い対戦車戦闘能力を有している。

 2S25MスプルートSDM1は車体部分をBMD-4M空挺戦闘車から転用し、14発のAPFSDS弾と6発の対戦車ミサイルを自動装填装置に装填している。なお火器管制装置等はT-90MS主力戦車の技術を応用している。もともとがBMD-4M車体である為、水陸両用軽戦車ではあるが、輸送機からの落下傘投下が可能となっていて空挺部隊に主として配備の計画です。
マレーシアのPT-91
 ポーランドとマレーシアの気温や湿度の根本的相違という点が影響しているのでしょうね。

 マレーシア軍は導入したPT-91主力戦車の相次ぐ不具合に課題を突き付けられている。事の始まりは8月下旬に相次ぎエンストなどで行動不能となったマレーシア軍車両の様子がSNS上に投稿され、その不具合が首都クアラルンプールにおいて連続している為だ。PT-91戦車のエンストは8月26日と27日、そして29日と連日のように発生している。

 PT-91戦車はポーランドから導入したマレーシア陸軍初の主力戦車だ、ただ、ポーランドでは問題は無いもののマレーシアはポーランドより気温が高く湿度も高い、これが原因であるかは未知数だが、独立広場や国会議事堂前と国立博物館前等で発生した。これは8月31日の独立記念日パレードに併せ首都に展開したものであるが、国威発揚には遠いようだ。
米軍輸送車両のEV化
 アメリカは第一次世界大戦中の試作戦車を電動型とするなどEVには先進的ではあるのですが実用性に課題を抱え続けてきました。

 アメリカ陸軍は2050年までに陸軍輸送車両を完全電動化させる計画を進めています。野心的ともいえる計画はGVSC陸軍地上車輛システムセンターのローレンストーメイエネルギー技術室長が示した構想で、現在装備されている一部の車両については鉛酸 6T バッテリーなどを追加搭載することにより電動車両へ近代化改修を行う事は可能としています。

 GVSC陸軍地上車輛システムセンターでは2035年までにリチウムイオンバッテリーの搭載などで全ての戦術輸送車両をまずハイブリッド自動車化し、その次の段階として完全電気自動車化を行うとしています。ただ、この実現の為には現在のバッテリー性能では全く不十分で或ることも認めており、素早く充電でき小型のバッテリーが必要だとしています。
MQ-1Cによる電子戦
 無人偵察機は電子戦に対する脆弱性が指摘されていますが逆手にとって電子戦装備を搭載するという構想だ。

 アメリカ陸軍はMQ-1Cグレイイーグル無人機へMFEW-AL多機能電子戦ポッドを搭載し戦域電子作戦の研究を実施中です。これはメリーランド州アバティーン陸軍試験場において実施されている試験で、自律飛行可能な無人航空機を戦域上空に飛行させ、データリンクを始め多量の電波が飛び交う戦域において、情報優位の獲得を目的としています。

 MFEW-AL多機能電子戦ポッドはロッキードマーティン社製、TLS-BCT旅団戦闘地上戦闘システムとTLS-EAB 旅団地上電子戦闘システムの構成要素として開発されているもので、電子妨害のほか、電磁スペクトルを画像化しデータリンク装置や通信装置の標定なども任務に含まれています。これにより部隊間のデータリンクを可視化も妨害も可能となります。

 MQ-1Cグレイイーグル無人機は陸軍が運用する滞空型無人機で高度7600 mを36時間にわたり滞空可能な能力を持っています。MFEW-AL多機能電子戦ポッドの搭載はMQ-1Cの主翼下に搭載され、これによりほかの兵装等は搭載できませんが、ロシア軍ウクライナ侵攻により課題となっているデータリンク化された軍隊との戦いを有利に進められます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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