害虫屋の雑記帳(ブログ人の保存版)

ブログ人のサービス停止に伴い、gooに過去記事を保管させてもらうことにした。

南米産乾燥ミズゴケを篩にかけてみた

2014-02-07 23:59:00 | 自然観察

異国のカメムシの死骸が付着していた乾燥ミズゴケ。他にもなにかいないか調べてみた。
篩にかけてみるとおびただしいササラダニ類の死骸に混じって、カメムシっぽい若虫の死骸が3つ、脱皮殻が6つほど落ちてきた。成虫は翅1枚だけしか追加できなかった。

無論、この仲間を直接みたのは初めてで、確信を持っていえるはずもないが、ペロリディウムの若虫だと思う。鞘吻群の簡単な解説なら、『昆虫の分類』(素木得一, 1972)や、『昆虫分類学』(平嶋他,1989)などで読むことができるが、短い文章なのに私には理解できなかった。

実際に見たほうが早そうなので、鞘吻群とはいかなるカメムシであるのか、拡大して少々観察してみた。

体長2mmの若虫。薬品処理で中身を溶かしている。ペラペラに薄いムシで異質な雰囲気があるとはいえ、背面から眺めているだけでは、わざわざヨコバイ亜目やカメムシ亜目から分けるほどの違いは分からない。
Peloridium_01





体長2.5mmの脱皮殻。短い触角は3節で頭部の下面に隠れている。脚も短かくて。ツメは小さい。
Peloridium_02
Peloridium_03

腹面から口吻をみると、カメムシ亜科と同様な形に見えるが、よく見ると変。細い口針は頭部から伸びているのに、口針を支える口吻のほうは、前胸腹板 から生じているようだ。頭部と胸部がちゃんと分離しているのに、その双方から口器を構成している器官が発達するという点は、やはり独特である。脱皮直後の口針がどんなふうに鞘におさまるのか見てみたいものだ。

ミズゴケからナンキョクブナと思われる枯葉も出てきた。ひょっとしたら自然豊かな場所で、大規模にミズゴケを採集しているのかも知れない。ウチの近所の酸性湿地などでは、ミズゴケが剥がされた場所はなかなか元に戻らないけれど大丈夫なんだろうか?そういえば、ミズゴケってそこら中の観賞用植物の鉢とかにやたらとみかけるので、世界中での需要は大変なものなのだろう。

Nothofagus

ペロリディウムは、南米大陸南端に位置するチリ領ティエラ・デル・フェゴのナバリノ島で採集された標本に基づいて記載されている。
ティエラ・デル・フェゴといえば、ダーウィンの『ビーグル号航海記』を思い出した。ダーウィンが嫌悪感と哀れみの目で見ていた先住民の土地である。日本人と似た風貌で親近感がわくヤーガン族だが、その後の彼らの悲惨な運命は、よく知られるところだ。

ミズゴケを取り巻く世界について、様々な想像をした。
子供を学校に通わす金をつくるために、ミズゴケを集めているお父さんたち。
赤ちゃんの天然使い捨ておむつとして、乾燥ミズゴケのカタチを整えるお母さんたち。
ミズゴケを圧縮加工している工場。
山積みの乾燥ミズゴケブロックを運ぶオンボロ・トラック。
ラン栽培業者がミズゴケを栽培プランターに敷き込んだりしている世界中の温室。
温室から出荷されたコチョウランを頭につけて、幸せそうに笑ってる結婚式場の新婦さん。
先進諸国の華やかな場所の片隅に置かれたフラワーポットの中で、ミズゴケに付着したまま沈黙しつつ肥料と化すたくさんのペロリディウム。
減少するミズゴケ群落。でもコケなんて無限に生えてるのだから問題ないだろうと思ってるお父さんたち。
でも、来年あたりはもう少し遠くに行かないといけないかもしれない。
etc・・・。


4 コメント

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始めまして (Fe)
2014-04-13 00:28:21
始めまして

乾燥ミズゴケの中の植物破片が気になって検索していたところ、この記事にたどり着きました。虫も混入しているのですか、面白いですね。

それで、自身のブログでミズゴケ中の植物について記事を書くにあたり、クロアリ様のブログのURLを勝手にリンクさせていただいたのですが大丈夫でしょうか? 問題あればすぐに外します。
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リンクについては特に明記していませんが、まった... (くろあり)
2014-04-13 23:34:05
リンクについては特に明記していませんが、まったくフリーです。そちらは植物の方に焦点をあわされたのですね。
確かにミズゴケは情報たっぷりの格安の標本という気がします。タスマニアとかニュージーランドの商品と比較してみるのもおもしろいかもしれません。
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くろありさん (Fe)
2014-04-18 23:02:34
くろありさん

リンクのこと、ありがとうございます。

数百円で南半球の生物を覗くことができるのはお得感がありますよね。
ナンキョクブナを始め、南半球特有の植物がいくつか出てきて興味深かったです。同定できていないものも多いですが、15種くらいは確認できました。
一方で、ミズゴケ採取が湿地にどのように影響を与えているかも気になるところです・・・。

ニュージーランドなどのミズゴケとの比較は面白そうなので、またミズゴケを買う時に見てみます。前回購入したミズゴケはニュージーランド産でしたが、その時は何も考えずに使い切ってしまいました。勿体無いことをしました。
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Feさま (クロアリ)
2014-04-19 08:56:19
Feさま

そちらのブログを拝見しました。
わずかな植物片から、たくさんの情報を引き出せることに驚きました。

私も、カヤツリグサ科かイネ科か分からない茎の破片を分解して、カメムシ以外のいろいろなムシを探してみました。

中空の植物片には、なにか入っていることがあります。
奇妙な卵があったり、微小な膜翅目の干からびた幼虫があったりします。
ペロリディウムはゴンドワナ大陸の遺存種ということで、ネット情報がかなり見つかりますが、その他の昆虫は私にはサッパリ同定できません。
でも訳の分からないゴミとはいえ、観察しているとその国の地べたに座り込んでいるかのような不思議な気持ちになります。

南半球のミズゴケ商売は複数の国をまたいで活動している企業がいくつかあるようです。そのうちのホームページを持っている会社によると、生態系に配慮した採取をおこなっている主旨の記述がみられます。ホントであることを願いたいです。
Moutere River Company Ltd
http://www.moutere.com/
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