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害虫屋の雑記帳(ブログ人の保存版)

ブログ人のサービス停止に伴い、gooに過去記事を保管させてもらうことにした。

ヒメマダラカツオブシムシ (最初キマダラにしてたのを訂正)

2014-05-22 23:50:16 | 自然観察
Trogoderma_inclusum_female
昨年、キホリハナバチが柱を加害している現場で、孔道の中からマダラカツオブシムシ属の幼虫を数個体採集した。それらは、持ち帰ったあとに世代交代を繰り返して増えてきたので、名前を調べてみようと思った。

マダラカツオブシムシ属はとても区別が難しいけれど、世界的に問題になる貯穀害虫が含まれている。そのためかなり詳しい解説があったりする。

詳しく記述されていても、容易に同定できるとは限らないけれど。

まず、比較するための標本を集めようとするあたりで、おもいっきり頓挫する。似たような種がかなりいるようなのだが、それらはいったいドコで採集できるのかちっとも分からない。

大きな港の埠頭倉庫街などには何種類か生息していそうだが、そんなところにいっても途方に暮れるだけなのは目に見えている。いいマダラカツオがアルヨと物陰から手招きしてくれるような人もいそうにない。

仕方ないのでインターネットで入手可能な資料だけをたよりに同定を試みた。

関連文献は多く見つかるけれど、以下の2編はものすごく参考になった。

1. Banks, H.J. 1994. Illustrated identification keys for Trogoderma granarium, T. glabrum, T. inclusum and T. variabile (Coleoptera: Dermestidae) and other Trogoderma associated with stored products.
CSIRO Division of Entomology Technical Paper, No. 32. Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation, Canberra. 66 pp.
https://publications.csiro.au/rpr/search の検索欄に「Illustrated Trogoderma」の2語を入れて検索かけるとでてくる。こんな貴重な文献が無料で使えるなんて!シーサイロ様、ホントにありがとう。
2. ISPM 27:診断プロトコル 草稿 DP X: ヒメアカカツオブシムシ
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https://www.contact.maff.go.jp/maff/form/pdf/6ka.pdf
写真がキレイ。いちおう日本語、機械くさいけど。高度に専門的な記述というものを読んでいると、それが日本語だろうが英語だろうが、読み手のスキルが低いと理解できる程度は結局同じなんだと実感できる。

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幼虫の脱皮殻を使ったり、オスの交尾器を調べたりしてキマダラカツオブシムシ Trogoderma variabile と判断した。
*7月4日追記 ヒメマダラカツオブシムシ T. inclusum に訂正。頭部をちゃんと見てなかった・・・。
Trogoderma_head
最初キマダラなどと誤同定した理由は、この頭部の目の内側のエグレに気づかなかったコト・・・。なんでこんなモン見落とすかなぁ。variabileはここにエグレが無い。

Trogoderma_antena
成虫の触角
Trogoderma_male_genitalia
雄の交尾器
Trogoderma_larva01
幼虫の脱皮殻 頭部(矢印位置あたりに上咽頭あり)
 
Trogoderma_larva04
上咽頭の先端感覚器の微細突起は6個
 Trogoderma_larva02
幼虫脱皮殻の触角

幼虫に乾燥昆虫死骸をあげてて気がついたが、飼育容器に何個体か投入したクシヒゲマルヒラタドロムシのオスが1年経ってもゼンゼンかじられていなかった。
このヒラタドロムシを大量に集めて、衣類の防虫剤をつくれないだろうか?
Trogoderma_variabile_larva01

増えたり減ったり

2014-05-16 23:57:46 | 自然観察

 Maimaigasizku

雨上がりのビルの屋上で、水晶球のようなシズクをまとったマイマイガの幼虫が歩いていた。

かなしいことに近頃はケムシ退治現場に出ていないのだけれど、同僚たちによれば今年はマイマイガが昨年ほど多くはないらしい。

替わって、アチラコチラで多くなったというのがクロカタビロオサムシ。今日は生駒山麓の食品工場のなかでも見かけた。

Kurokatabiro


鳥というダニの宇宙

2014-04-23 00:11:57 | 自然観察
●ある会社の倉庫で、小さな野鳥(種不明)がネズミ用の粘着板に付着してこときれていた。粘着板は、窓際に集まる昆虫類の捕獲を目的としていたが、かわいそうなことをしてしまった。
鳥の死骸は、死後あまり時間が経っていなかったようで、たくさんの寄生ダニがまだ生きていた。普通、鳥の羽にはウモウダニと呼ばれる非吸血性のダニがたくさん生息しているが、分類学的にはいくつかの科に分かれていて、カオスな世界である
死骸をつり下げて、落下するダニを水盤に集めてから観察してみた。
鳥類に寄生するダニ類は、ずいぶん奇妙な形をしている。激しい運動をする宿主から振り落とされないようにするため、それぞれの種がそれぞれの方針で進化したようだ。

風切り羽にいつも同じ向きで整列している種。
ヨウジョウウモウダニの一種 Proctophyllodidae Gen. sp. メス
Proctophyllodidae_gen_spfemale

ヨウジョウウモウダニの一種 Proctophyllodidae Gen. sp. オス。メスは200個体以上いたがオスはコレ1個体しか採れなかった。上とは多分、同じ種。
Proctophyllodidae_gen_spmale

脚でしがみつくのが得意そうなカタチ。
和名なし Xolalgidae Gen. sp. オス
Xolalgidae_gen_sp_male






ウモウダニ類じゃないのも混じっていた、鼻腔などにいるというハナダニの一種。
Rhinonyssidae Gen. sp.(トゲダニ目、ワクモ上科、ハナダニ科)
Rhinonyssidae

ドロの法則の例外

2014-04-21 00:00:00 | 自然観察

Dermatophagoides_microceras

不思議なヤツラだ。暖かくなるにつれ、Dermatophagoides microceras(ササラダニ目,コナダニ団,ヒゼンダニ上科,チリダニ科) の休眠個体が次々に目覚めて来た。乾燥して固まった培地に化石のごとく埋まっているけれど、ちゃんと生きている。まるで、ピーナツ入りチョコレート菓子かなんかみたい。
チリダニの仲間は、動物の体表から落下して巣材にこびりついているようなゴミが大好きだ。巣の主と付かず離れずな生活をしている種が多い。ヒトの巣材(布団とか)が大好きなヤケヒョウヒダニやコナヒョウヒダニなどもチリダニ科だ。

D. microceras もヒトの巣から見つかるのだけれども、さらに巣の主と距離を置いた生活ができるようで、他のヒョウヒダニが生息できないようなカビに汚染された環境でもみられ、生態的にはコナダニな雰囲気をもつ種である。
昨年話題になった論文を読んだ後、このダニは膨大な種を含むササラダニ目のなかでもっとも進化した一群ということになりそう、なんて思った。

昨年話題になった論文というのはコチラ↓(系統樹の図が拡大して部屋に飾っておきたいくらい美しい)
Klimov, P.B., OConnor, B.M. 2013. Is permanent parasitism reversible? - Critical evidence from early evolution of house dust mites. Systematic Biology. 62(3): 411-423.

伝統的なダニ学の本では、チリダニ科は「(系統が)問題の一群」とか「遺存種」などとされていた。というのは、ヒトの体表の病変部や尿から見つかる(勘違いな記録も含まれる)だけでなく、貯蔵食品からも見つかるので、自由生活者から体表寄生に進化する途中段階だろうと考えられていたからだ。
ヒゼンダニ科のような皮膚に潜り込む寄生者は、一歩手前の段階ではチリダニ科のような自由生活者だったのだろうという解説に、私なんぞはフツウに納得していた。

ところが、クリモフはDNAに基づく系統解析の結果、寄生者として特殊化した種が、ケラチンを分解できる能力などを活用して寄主から離れ自由生活者になったという。ようするにチリダニ科の祖先は動物寄生種だったが、寄生生活を捨てて自由生活を再び獲得するという逆向きの進化をしたということらしい。

進化は後戻りしないというドロの法則は、グールドの「八匹の子豚」とか、ドーキンスの「盲目の時計職人」でも論じられていて・・・って、これらの本は読んだ直後はスゴく物知りになった気がするのだが、時間経過とともにどんどん忘れて、現在は何も覚えていないことに今気づいた・・・。


ヤナギハカザリダニのメモ

2014-04-07 23:56:50 | 自然観察

Ameroseius_plumosus01

Ameroseius_plumosus02

 

数日前に、ある乾燥植物材料で、かなりまとまった数の生きたヤナギハカザリダニ Ameroseius plumosus をみつけた。

カビを食べるといろいろな本に書いてあるが、本当にカビカビなところではみかけたことがない。畳から検出されることがあるが、生息密度は低いし、たいてい古い死骸ばかり。
所々うっすらと菌糸が生えているところでなら、走り回っているのをみたことがあるが、どんなカビを食べているのかはよく分からない。体内の内容物をみると酵母みたいにみえるものが、消化管内に詰まっていたりする。

口のあたりをみていると、捕食行動をしそうに思われるけれど、明確な観察事例はないとされている。

文献ではヒトを刺咬することがあると書かれているものもあるが、ウチでは高密度の生息状況に出くわしたことがなく、基本的に無害種として扱っている。イヌの脱毛症で傷口付近にいたという論文もある。本種がたくさんいることが分かっている乾燥不十分な干し草には、裸で飛び込んだりすることをお勧めできない。「お日様のニオイがする」状態だったらOKだと思う。

グーグルブック*で調べていると、チェックリストを見つけたのでメモった。

Ameroseius Berlese, 1903
   Kleemannia Oudemans, 1930
   Primoseius Womersley, 1956
     plumosus (Oudemans, 1902) (Seiulus)
        macauleyi (Hughes, 1948) (Zercoseins)
        macauleyi: Womersley, 1956 (Primoseius)
        plumosus: Hughes, 1961 (Kleemania) (sic)
        plumosus: Westerboer and Bernhard, 1963 (Ameroseius)
        plumosus: Champ, 1965 (Kleemania) (sic)
        plumosus: Champ, 1966 (Kleemania) (sic)
        plumosa: Domrow, 1974 (Kleemannia)
        plumosus: Hughes, 1976 (Kleemannia)
        plumosa: Domrow, 1979 (Kleemannia)
        plumosa: Lowry, 1980 (Kleemannia)
        plumosus: Hallidai, 1997 (Ameroseius)

*HALLIDAY, B. (1998). Mites of Australia: a checklist and bibliographyから抜粋

偉い人たちのさまざまな苦労が、長い時を超えて今に続いてきていることが分かる。
sicというラテン語は「として」という意味で、ミススペルだけど「原文ノママ」だよということらしい。
ラテン語は興味深い言語だけれども、とてもややこしくて、ただでさえ難解な分類学をいっそう激ムズにしている嫌いがある。