医療制度改革批判と社会保障と憲法

9条のみならず、25条も危機的な状況にあります。その現状批判を、硬い文章ですが、発信します。

医療制度改悪(社会保障の破壊)は、老人(医療)攻撃から始まった

2007年10月23日 | 後期高齢者医療制度

  今月早々に、とある「月刊誌」と「季刊誌」から原稿依頼を受けました。期せずしてどちらも、「後期高齢者医療制度の創設」に関連して、この間の「医療制度改革」についての原稿依頼です。どちらも、新年号の企画のようです。 
  しかし、後期高齢者医療について、「見直し」・「凍結」などの発言が、政権与党幹部からなされ、さまざまな議論がなされているようで、結論は10月末とされています。その内容は、総選挙目当ての一時しのぎに過ぎないと解っていますが、現在時点では一応未確定の状況です。
 それぞれの原稿の締め切りは、まだまだ先のことですが、現段階で整理できることはしました。後は茶番劇の結果を待つだけです。
  したがって、与党PTの結論と野党の対応などを、見極めての原稿にしなければなりませんが、だいたい想像できる範疇で収まると思います。
  そうしたことですから、かつてエントリーしている記事
弱肉強食資本主義への回帰は、老人(医療)攻撃から始まった
http://blog.goo.ne.jp/harayosi-2/e/3935557a3e4faf41819bc60256e3fafbを、ベースにした現在時点の「草稿」をエントリーしておきます。

 

医療制度改悪(社会保障の破壊)は、
                      老人(医療)攻撃から始まった

 

  はじめに

 
 2008年4月、新高齢者医療制度がスタートします。2006年6月に成立した医療制度改革関連法にもとづき、75歳以上の高齢者だけで組織される健康保険が、後期高齢者医療制度として創設されます。
  75歳以上のすべての高齢者1300万人は、この健康保険に強制加入とされ、医療費原則1割負担と保険料負担が発生します。そのなかでも、まったく新たに保険料負担をすることになる人たちが200万人と予測されています。
  また、65歳から75歳未満の前期高齢者については、保険変更はありませんが、70歳以上は医療費の2割負担、70歳未満は引き続き3割負担となります。
  こうした改悪法を強行成立させておきながら、自公政権は参院選の大敗から、高齢者医療費負担の『見直し』『凍結』などと、総選挙むけの小手先の一時しのぎをしようとしています。
  そうした瑣末な動向に振り回されることなく、医療制度の改善も改悪も、老人医療が梃子となっていることを、この間の経緯を振り返りながら、医療制度の変遷を確認したいと思います。

  老人医療無料化の実現  

  老人医療無料化運動は、1969年12月革新美濃部都政のなかで結実し、1970年代初頭には全国の革新自治体に拡大しました。
  さらに、全国の自治体に波及するなかで、1973年には政府をして老人福祉法を改正させ、自己負担部分を助成するという老人医療費助成制度、老人医療の無料化が法制化されました。 
   このことをうけて、さらに自治体では、助成対象者の制限(低所得者)を緩和し、年齢(70歳以上)を65歳へと前倒しをするなどの改善を図ることとなりました。 
  そして、老人医療に引き続き、乳児医療・障害者医療、少し遅れて母子家庭医療の無料化が実現します。 
  また、結核・精神疾患・更生医療・育成医療などにくわえて、難病などの公費負担医療が前進します。 
  さらに、健康保険法を改正させ、医療費月額3万円以上の負担について、その医療費が償還されるという、高額療養費が制度化されることとなりました。

  老人(医療)への攻撃開始  

  1980年代に入り、第2臨調・行政改革路線に基づく、老人医療攻撃がマスメディアのデマ宣伝・キャンペーンとして開始されました。 
  老人の医療費が無料になったことから、年寄りが頻繁に医療機関に受診し、さながら病院の待合室は「老人サロン」化しているというものであり、そのため、医療費が増嵩を重ねているというものでした。 
  このデマ宣伝は、執拗に手を変え品を変え、四半世紀にわたって繰り広げられてきたことから、少なからぬ市民の「常識」として定着しています。 
  (デマ宣伝だという一例は、老人医療の負担が、無料から1~3割負担となった現在でも、朝の病院待合室はお年寄りでいっぱいです。その風景は昔も今も変わっていません。) 

  老人保健法による改悪  

  老人医療に対するデマ宣伝・キャンペーンが展開されるなかで、老人保健法が制定されます。
  この老人保健法が1983年に施行されたことにより、老人医療制度は「質的に大きく転換」させられることになりました。その質的変化はさまざまの内容・要素を含んでいましたが、自己負担分を助成するという制度から、老人医療をすべてこの法で統括することや、少額であっても無料から一部負担を持ち込んだことなどが特徴です。 
  1970年代は、老人医療の無料化をはじめ、福祉医療の充実、健康保険の給付率引き上げ、高額療養費の制度化など、医療費負担を軽減させる方向で、さらに『医療費は無料』にむけて、大きく前進してきました。しかし、1980年代からは、この法の成立により、まったく逆の方向に進むこととなりました。 
  したがって、この老人保健法が施行されて以降、老人医療の制度改悪や負担増が繰り返され、とりわけ、1990年代には負担増が繰り返され、さらに、2002年10月から1割もしくは2割の原則定率負担となりました。

  老人医療改悪が福祉医療・若年層に波及  

  老人保健法により、無料から一部負担金が導入されることとなりました。そして、それに連動するように、健康保険本人への1割負担が1984年に導入されます。
  長い歴史を持つ健康保険制度の基本原則であった、病気や怪我をした場合は無料で医療給付を受けることができるという、健保本人10割給付が崩されたのです。
  1990年代は、老人医療の一部負担金のさらなる増額が、年々歳々繰り返されていきました。そして、延長線上に1997年には、健保本人2割負担とされてしまいす。
  このように、老人医療の負担増にみあって、若年者の健康保険の改悪が進みました。
  また、福祉医療と呼ばれる、自治体での老人医療・乳幼児医療・障害者医療・母子家庭等医療などの医療費助成事業も、後退を余儀なくされてきました。
 そして、公費負担医療も公費優先から保険優先へ、無料から一部負担金導入と改悪が進められます。

  介護保険創設に向けたキャンペーン

  1990年代半ばから、介護保険制度創設に向けてのキャンペーンが、きわめて長期間、かつ執拗に意図的な宣伝が、マスメディアを総動員して展開されてきました。 
  その宣伝は、介護問題の深刻化、介護保険の必要性を説くだけではなく、老人の社会的入院、少子高齢化社会の到来、などなど、かなり体系的で念入りのデマ宣伝でした。 
  その背景には、「社会福祉・社会保障の理念を覆す」という大転換を、この介護保険導入によって達成しようとする、そのような遠大な企図が隠されていたからです。 
  政府・厚生省も、社会福祉・社会保障の理念を露骨に否定する、この介護保険制度を国民が受け入れるのか、内心ヒヤヒヤものであったと思われます。だからこそ、きわめて長期間にわたり、かつ執拗な、体系的なデマ宣伝のキャンペーンを、展開したのではないでしょうか。
  (デマ宣伝だという一例は、少子高齢化で就労人口が減少し、扶養人口が増大するという喧伝は正しくありません。100年前から現在、さらに将来も、就労人員1名につき扶養人員2名という比率は変わっていないし、将来も変わりません。それは各種の公的統計からも明らかです。その比率が変わらない理由は、労働者の就労年数の上昇と女性の就業機会の増大によるものです。)

  介護保険制度は社会保障制度改悪の雛型

  2000年にスタートした介護保険制度には、質的な転換はもちろんのこと、社会福祉・社会保障制度改悪のための仕掛けが、数多く盛り込まれています。
  あまりにも多くて紹介しきれませんが、公費での措置から保険制度に、必要な介護サービスの給付ではなく介護サービス費の給付、認定された介護サービス費の限度を超えると全額自己負担(医療に置きなおすと混合診療)、65歳以上の被保険者の保険料は年金天引き、さらに、公租公課の対象外で天引きなどが禁止されていた遺族年金・障害年金からも天引き、などなど、数え上げれば限がありません。
  そして、介護サービス費の給付を受けた場合は、1割の自己負担が導入され、そのことが、老人医療に波及します。

  老人医療に定率負担導入  

  2001年、介護保険にみあって、それまでは定額制であった老人医療の一部負担金に、定率負担として1割負担が、導入されることとなりました。 
  そして、2002年に小泉政権の医療制度改革関連法案が強行成立させられたことにより、老人医療・健康保険などのさらなる改悪が、進められることとなりした。その改悪法によって、老人医療に完全定率負担が導入され、そして、そのほかにもさまざまな負担増がなされました。
  その延長線上に、さらなる改悪として、2003年には健保本人に3割負担が導入されることとなりました。
  その結果、健保組合・政管健保・国保を問わず、また、本人・家族ともすべて原則3割負担とされてしまいました。
  

  小泉政権の2度にわたる医療制度改悪  

  2002年の医療制度改悪だけでも、凄まじい内容であるにもかかわらず、さらに、2006年にも医療制度改革関連法案が、前回同様に審議らしい審議も無く、会期末に一括強行成立させられてしまいました。
  6ヶ月超入院患者の特別負担の導入、介護保険の利用者負担増として食事負担と居住費負担が、増額・導入され、これにみあって、療養病床にも食事負担増と居住費負担が導入されました。
  さらに、70歳以上の高齢者に対して、課税所得145万円以上には、現役並み所得者として3割負担が、2006年10月から先行実施されました。 
  このように、すでに改悪が実施されたものもありますが、75歳以上の後期高齢者医療制度の創設、70歳以上の高齢者医療費負担の1割から2割負担への増額などは、2008年4月からの実施であり、また、2012年に向けて介護療養病床の廃止と医療療養病床の縮減など、小泉政権の改悪の置き土産がまだまだあります。 

  老年者非課税措置・老年者控除の廃止、年金所得控除の切り下げ  
  
  平成17年(2005年)税制改悪によって、65歳以上の老年者にとって信じられないほどの負担増が進行しています。 
  65歳以上の老年者非課税措置が廃止されました。さらに、所得税で50万円、住民税で48万円あった老年者控除が廃止されてしまいました。そして、年金所得控除が、最低でも140万円あったものが120万円に切り下げられてしまいました。 
  住民税でいえば、受け取っている年金額は変わらないのに、所得が少なくとも68万円増えたとして、その部分に課税され増税になりました。 
  非課税措置の廃止では、かつては266万6666円以下の年金であれば、無条件で非課税でしたが、単身者では155万円以上の年金で課税世帯に、控除対象配偶者があっても211万円以上の年金受給で、課税世帯になってしまいました。 
  課税世帯ということになれば、さまざまな福祉施策から除外されますし、国民健康保険料の減額措置からも外れ、基本の均等割・平等割に加えて、その税額に応じた所得割の加算までされてしまいます。
 介護保険料などは、区分が何段階も上がります。こうした信じられないぐらいの大幅な負担増が、平成18年、19年、20年と3年の段階実施として現在進行形なのです。

  高齢者の医療を確保しない高齢者医療確保法

  高齢者医療確保法に基づく新高齢者医療制度が、2008年4月からスタートします。この法により、75歳以上の高齢者は現在加入している健康保険を脱退して、後期高齢者だけの健康保険に強制加入させられることになります。そして、平均月額6200円の保険料負担と、原則医療費の1割自己負担となります。
 なお、保険料最高額は年間50万円で、現役並み所得者として3割負担となりなります。
  75歳未満の前期高齢者は、医療費の2割自己負担とされ、70歳未満は引き続き3割負担とされています。70歳以上の現役並み所得者には、先行実施どおり3割負担が継続されます。
  「高齢者の医療を確保しない法律」と言うのは、75歳以上の後期高齢者だけを組織するこの健康保険は、一般の健康保険とは別立ての診療報酬体系とすることされています。
  その詳細は審議中ですが、その検討の中身は「後期高齢者の心身の特性に応じた医療サービス」と表現されています。
  解りやすく言えば、後期高齢者の医療について制限をするということです。高齢者の医療の確保どころか、その医療を制限しようとしているからです。

   後期高齢者医療制度を創設する企図は

  75歳以上の後期高齢者だけを組織する健康保険、誰が考えても保険としては成り立たないことは明らかです。成り立たないと解っているのにあえて、高齢者だけの医療保険を創設するには、当然のこととしてその企図があります。
  保険料は公費5割、若年者からの支援4割、後期高齢者の保険料1割とされていますが、赤字につぐ赤字で保険料の見直し、すなわち、介護保険料と同様の、引き上げにつぐ引き上げとなることが予測されます。
 しかし、高齢の年金生活者が中心の健康保険ですから、保険料の引き上げにも限度があります。そこで発動されるのが、医療や診療の内容に制限を加える、また、医療費総額に限度を持ち込む、などの医療水準の抑制です。(もうすでに介護保険では、認定区分ごとに介護サービス費に上限が決められています。)
  制限された治療内容や薬剤、医療費総額など限度を超えたものは、自費診療となります。そのために、保険診療と自費診療の併用、すなわち「混合診療の解禁」が準備されたのです。
  ここで出番を迎えるのが、その制限や限度を超えて自費とされた診療を、肩代わりする私的健康保険です。もうすでに、ハイレマスハイレマスという宣伝で、高齢者を囲い込んでいるカタカナ医療保険が、療養給付型の私的健康保険として大化けすることになると思われます。

  老人攻撃はさらに続き、それが若年層にはね返る

  老人医療が前進すれば、福祉医療や健康保険の給付が改善され、老人医療が後退すれば、福祉医療・公費医療も健康保険も改悪されたという経緯を見てきました。
  1983年制定の「老人保健法」で企図されていた改悪を、この四半世紀(25年間)ですべてやりきったのです。したがって、新たな「高齢者医療確保法」を制定し、次なる改悪を進めようとしているのです。
  制度発足当初から、本性をあらわにしてその牙を剥いているとは思いませんが、後期高齢者だけを組織するということから、その行き着くところは想像に難くないといえます。
  それが高齢者に襲い掛かったあとには、次なる改悪の対象として、公的医療保険の水準を切り下げ、私的健康保険に加入しなければ、十分な医療給付が受けられないという改悪が、若年者に襲い掛かってくることも、また当然過ぎるほど当然です。

  高齢者医療費負担増の「凍結」とは、総選挙対策の一時しのぎ  

        <この項は、状況をみきわめて原稿とします>

                      2007・10・23  harayosi-2


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